なんだかこの大男でも悩める時があるのだな。石峰優璃は時折考え込む岩水静を眺めつつそう思う。
それで、大動脈解離に対しての治療方法はなんとなく理解できました。そして肝心なその後のリハビリテーションですね。
そうだな。そしてその多くはガイドラインを下に作られたその病院で使われるクリニカルパスに準じる事が多い。例えば初日はベッドアップ30度から端座位へ、その後立ち上がり足踏み、そして歩行と行った具合にな。廃用症候群を予防しながら再び日常生活に戻るために段階的にリハビリを進むのだな。
そして特に上行大動脈、弓部の置換術後である胸部大動脈瘤の外科的な術後では、対麻痺、嚥下障害、そして術後の覚醒が遷延している場合には脳梗塞などの合併症を視野に入れて評価も行う。特に緊急手術に至った症例に関しては特に注意をする。準備が十分でないとそれだけリスクが上昇するという事だからな。
そして山吹薫はなるほどとメモを取っている。この新人もまた新人である期間を終える。よく頑張ったものだと石峰はそう考えた。
なるほど・・・手術の種類は沢山ありますが、予定手術と緊急手術ではまた違うのですね。
そうだな。そしてそれはA型解離が広範に広がっているものが多い。それに如何に凄腕の心臓外科医でも術中に予想外のことも起こりやすいらしいな。術前の情報も少ないこともまた多々ある。そんな中で手術が夜通し行われる。その後の評価もまた我々の重大な仕事であるな!
そうだな。段階的な運動療法の進行と、術後合併症の有無の評価もリハビリテーションの一部だと私は思うよ。
そういえばあの時以来、まだ山吹をICUへと連れて行っていないな・・・石峰はその時の事を懐かしく思う。緊張し切ってそれでいて必死に離床に手を貸す山吹の懐かしい姿。
そして腹部大動脈瘤や破裂といった手術の後のリハビリもまた大切だ。開腹を伴う術後ではやはり痛みによるADL制限や、腸管の動きが上手くいかずイレウスを発症する場合もある。その時にはリハビリを中止して安静が必要となることもあるし、医師によってはよりリハビリを強化して腸管の運動を促す選択がされることもある。ここらへんはエビデンスの蓄積が必要だな。ともかくそうならないように早期離床を考える事が大切だな。
大きな侵襲を伴わないEVARやTEVARの術後に関しては術創部が多くは鼠蹊部であることからも術翌日から日常生活に近いリハビリを行えることも多い。それでも特にステントグラフとの部位に関しては対麻痺の可否は必ず行わなければ必要であるし、平均血圧に対してのモニタリングが脊椎への血流を考える上でも非常に必要となる。
ふむふむ。予定の手術であってもそうでなくても、その後に合併症の有無をしっかりと評価しながら、プロトコルに従い段階的にADLを生活に近付けていく。言葉にしてしまえば当たり前に見えますがそれでも多くの知識が入りますね。
それが何事にも大切なのだよ。と石峰は笑みを浮かべる。またICUへと連れていくかね。今ならばもう心配は要らないだろう。そんな事を考えた。
山吹薫の覚書83
・術後にADLUPを図る前に、術後合併症の有無を理解する。
・まずは手術の手順を知った上でリハビリを行うことで、その後の合併症の視点もやや違ってくる。
・主任がなんだか笑みを浮かべている。また何か考えているのだろうか・・・
【〜目次〜】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
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