感染の話 その②  〜重症化に至るその要因〜 【山吹薫の昔の話】 

免疫

ふむ。と山吹薫はスマートフォンの画面を覗き込む。ニュースは日々更新されており、どこか不安を煽られる気がした。そしてその画面を石峰優璃は覗き込む。毛先が頬に触れて山吹はぎょっと身を仰け反らせる。

山吹 薫
山吹 薫

主任。近いですよ!

石峰 優璃
石峰 優璃

すまんすまん。しかし便利な物がある物だな。文献が何処でも読めそうだ。

山吹 薫
山吹 薫

主任・・・もしかして・・・

石峰 優璃
石峰 優璃

私のはまだパカパカと折り畳めるからな。丈夫で便利だぞ。

そう言って石峰は両手を合わせてパタパタと開閉させる。この人の私生活はどうなっているのだろうか。と山吹はため息を吐く。

山吹 薫
山吹 薫

それで感染症の話ですよね。感染経路には色々あって一概にどれを防げばという事でもない事はわかりました。

石峰 優璃
石峰 優璃

もちろん過剰になり過ぎるのもまた問題だ。パニックになってしまっては統率が取れず只々混乱する。何よりも感染源が何処で何か。という問題がある。

山吹 薫
山吹 薫

それは病原体に感染していてまだ症状は出ていない、不顕性感染、キャリアの状態である事でしょうか。

石峰 優璃
石峰 優璃

そうだな。そして昆虫や動物、キャリアの排泄物や吐物はもちろん体液すらそうだな。これらを特定し、申し訳ないが落ち着くまで隔離の必要もある。そして原疾患の治療を元に感染拡大を防ぐ。のが理想だがそれは難しいものがある。

確かに。と山吹は思う。広域の感染症ならば誰が、何処でだなんて感染が広まれば広まるほど断定は難しいと思う。

石峰 優璃
石峰 優璃

広めない為にはまず標準予防策という物がある。もちろん覚えているな?

山吹 薫
山吹 薫

全ての患者が感染源だと考えて、体液に触れる可能性があるならば防護し、患者に関わる前後に手指消毒をする。という事ですね。

石峰 優璃
石峰 優璃

一ケア一手洗い、うがいも含めて行う事が必要だな。それはまぁ・・・日常生活でも可能な範囲で行う必要もまたあると思う。自分の体の中にまずは持ち込まないという事だな。

山吹 薫
山吹 薫

なんにせよ、感染症が流行る時には人と関わる時に、特に気をつけないといけませんね。

敏感になり過ぎるのも問題だな。と山吹は思う。こういった時には情報は錯綜するものだ。

石峰 優璃
石峰 優璃

そして社会的に話題になる、特に新しい感染症の発見は思わぬパニックが起こる事もある。しかし考えてみるとインフルエンザウイルスは常に変異を続けるし、毎年のように流行るというのも考えようによっては恐ろしい事だ。

山吹 薫
山吹 薫

毎年の様に聞いていると何だか慣れてしまいますが、それはやはり怖い事ですね。

石峰 優璃
石峰 優璃

特に我々は一歩引いた視点で、確実な情報を得なければ成らない。国が何もしないなんて事は無い。対応が後手に回ったとしても確実な情報を提供しなければパニックを招く。それに恐ろしい感染症など山ほどある。

山吹 薫
山吹 薫

情報社会というのもまた考え物ですね。

山吹は自身のスマートフォンを目の前にぶら下げる。それを石峰はおもちゃを見つめる子供の様に、瞳を丸めて眺めている。

石峰 優璃
石峰 優璃

例えばエボラ出血熱、これは映画にもなったな。他にもマールブルグ病そしてペスト。どれも聞いた事があるだろう?感染自体で死に至る事も多い。これは一型感染症と呼ばれて原則入院、世界的に問題となる。

山吹 薫
山吹 薫

その分類は覚えています。調べると直ぐに分かりやすい表が出てきますね。

石峰 優璃
石峰 優璃

その感染症自体で死に至る事と、その感染症が引き金となって重症化し死に至るという事は大きく違う。これらを混同すると容易にパニックに陥る。

山吹 薫
山吹 薫

「感染症が流行っています。何人が亡くなりました。」これだけ聞くと確かに混乱しますね。

情報が得られやすくなれば成る程、正しい情報ほど目に映らなくなる。過激な発言ほど目に移る。ふと自分は石峰の発言を鵜呑みにしているかもしれない。そう思った。

石峰 優璃
石峰 優璃

例えばよく見るのが、COPDの急性増悪だな。喫煙歴が長く、肺自体が侵されている。その状態で肺炎になると呼吸自体が難しくなる。酸素療法で済めば良いが、挿管され人工呼吸器管理となる事も多い。

山吹 薫
山吹 薫

確かに高齢者ほど、免疫の力も落ちている訳ですから、感染もしやすくて、原疾患もある訳ですから重症化もしやすいですよね。

石峰 優璃
石峰 優璃

喫煙歴はしっかりと聞いておく事だな。院内でも誤嚥性肺炎からの急性増悪もまた確かにある。治療やケアに合わせて、適切な治療は呼吸リハビリテーション、摂食嚥下への対応もまた予防となる。

山吹 薫
山吹 薫

確かに肺炎からの急性増悪、そして重症化にも色々原因があるのでその鑑別が必要ですよね。でも確かに感染症が流行っている時期は、それをまず疑う必要があります。

そう言いつつ山吹は自分が混乱しているのもまた分かる。どうすれば良いかと、自然に石峰の発言を待っている自分がいるのも感じた。

石峰 優璃
石峰 優璃

そのために院内に感染対策のチームがあるし、話題になる程の感染症ならば国やそれに関する機関から情報の提供が必ず有る。それを共有しルールを設ける。もちろんそれぞれの病院のそれに準じる。

山吹 薫
山吹 薫

確かな情報筋からの情報をまず確認するという事ですね。

石峰 優璃
石峰 優璃

何事もそれが重要だと思うよ。自身の憶測や噂話はまず置いておく。状況を確認する事は必要だがな。だけども未知なるものには、最初は過剰でも対応をしなければ成らないのは当然だ。

山吹 薫
山吹 薫

大切なのはきちんと自分の目で見て考える事ですね。もちろん信頼できるデータを元にという事でしょうか。

そういう事だな。と石峰は答える。その答えに安心している自分もまた居るなと山吹は思う。そして石峰は足を組み直した後、腕を組む。

石峰 優璃
石峰 優璃

さて新人君。私はこう見えて体はそんなに強くない。生活もまた無頓着だ。このままでは何らかの感染症を患うかもしれない。

山吹 薫
山吹 薫

そうは見えませんがね。

石峰 優璃
石峰 優璃

そういう私に君は何が出来る?

石峰は山吹を試すような、それでいて揶揄うような三日月の笑みを浮かべる。しかしその瞳は山吹を真っ直ぐと居抜き、その瞳からは逃れられない。そんな風に思った。

山吹薫の覚え書 19

・感染症で重症化する事と、感染症がきっかけで重症化する事は大きく違う。元々の原疾患の関与も大きい。

・確かな情報を得る。基本的な感染対策を遵守しつつ、流布する情報に流されない。混乱しない。

・主任が体が弱い?冗談だ。

【これまでのあらすじ】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。』

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