脳と神経の話  その① 〜体を巡る神経の種類〜 【山吹薫の昔の話】

山吹薫の昔の話

山吹薫は電子カルテの中を覗き込む。そこには以前から経過を追っている脳出血後の患者が映し出される。人工呼吸器から離脱し少しずつ離床は進んでいた。

内海 青葉
内海 青葉

ふふーん・・・そんなにボクの患者さまが気になるんだー!

山吹 薫
山吹 薫

・・・だから気配も無く後ろに立つのはやめてください。

驚かないんだ?とつまらなそうに顔を顰める内海青葉を山吹は溜息混じりに見上げる。その様子を見て石峰優璃はクスクスと楽しそうに笑う。

石峰 優璃
石峰 優璃

新人君も学習したって事だな。ある意味これも促通だな。

内海 青葉
内海 青葉

つまらないから新しい刺激を与える方法を考えなきゃなー

山吹 薫
山吹 薫

そんな事に労力を使わないでくださいよ・・・

なんだよー。と内海は体を斜めに揺らしながらニヤニヤと笑う。この病棟はこんな人ばかりなのかと再び山吹は溜息をつく。

石峰 優璃
石峰 優璃

まぁ新しい刺激は重要だ。目も覚めるしな。促通という話題はちょうど良い。ところで神経とはなんだ?

山吹 薫
山吹 薫

随分と広い話題を出すものですね。

内海 青葉
内海 青葉

丁度良いからまた新人君のお話を聞こうかなー

内海は腕を両手に組んで体を曲げる。なんとも落ち着きが無いものだと山吹はふむ。と腕を組んだ。それを見て石峰は長い髪を揺らして笑みを作る。それを見て山吹はもう一度ふむ。と息を吸い込む。

山吹 薫
山吹 薫

神経とは、とても広い意味ですが。いわゆる頭と体をつなぐネットワークの様なものでしょうか。頭の中で考えた事を体に伝える。その伝達を行う経路だと思います。

石峰 優璃
石峰 優璃

まぁ半分正解だが、大まかにいうとそういう事だな。

山吹 薫
山吹 薫

そしてそれは情報の発信源となる中枢神経と、それを末端に伝える末梢神経に大きく分けられます。

内海 青葉
内海 青葉

そうだねー。頭蓋骨の中にある脳と背骨の中を通る脊髄が中枢神経で、そこから出る神経が末梢まで届くから末梢神経。一般的には末梢神経の方が神経として言葉として認知される事が多いけど、脳みそもまた神経の塊だしねー

内海は自らの頭を指差してみる。この人の神経こそよく分からないものだと山吹は思う。

石峰 優璃
石峰 優璃

大まかに言うとそうだな。他には何がある?

山吹 薫
山吹 薫

自律神経というものがあります。心臓や血管、内臓に分布する迷走神経と呼ばれるものもそうですね。これはまるで迷うかの様に身体中を巡るのでそう呼ばれるらしいですね。

内海 青葉
内海 青葉

これは殆どが勝手にコントロールされるものだから難しいよねー。交感神経なんかは闘争と逃走に関わる根源的なものだねー。外敵に会って危機的状況に遭う時や、体が積極的に動かなければならない時には交感神経が働いて、食事の後や休息する時には逆に迷走神経が働く。よく出来ているよねー。

それはそうだと山吹も思う。ヒトは長い年月で進化してきた。そしてそれをまだヒトは完全に理解はできていない。自分もだけど。

山吹 薫
山吹 薫

他にも独立して動くのならば心臓を巡る神経もあります。心臓の右上から左下の先端へと続く神経は、心臓の動きをコントロールする重要な神経です。

内海 青葉
内海 青葉

他にも脳神経系だね。主に感覚や顔の動き、瞳の動きをコントロールする重要な神経は脳幹、つまりは脳と脊髄を結ぶ所にある重要な神経だね。他にも食べる事に関与する重要な場所だよねー。

石峰 優璃
石峰 優璃

運動神経。という言葉があるがこれは運動時のパフォーマンスを表現する言葉であって我々の用いる運動神経という言葉とはニュアンスが違うな。

山吹 薫
山吹 薫

そうですね。脊髄の前方から出る運動神経は筋肉に伝わり体を動かします。そしてそこでの動きは感覚神経を通り脊髄の後ろにある神経節、まぁ中継地点みたいな場所を通り脊髄へと戻り多くは脳へと帰ります。

石峰はゆっくりと山吹の頬へと手を伸ばす。何事かと山吹はその体を硬直させる。石峰は山吹の頬にゆっくり手を当て、そして抓り、山吹はびくりと体を揺らす。

山吹 薫
山吹 薫

いたいたい!何をするんですか何を!

石峰 優璃
石峰 優璃

それが痛み刺激に対する逃避反射だな。体が危険を感じると感覚は素早く脊髄へ到達しそうやって身を守ろうとする。

山吹 薫
山吹 薫

だからといって抓る事はないでしょう!

内海 青葉
内海 青葉

身を以て学習するのが一番身になるもんねー

あははーと楽しそうに奇妙な笑い声をあげる内海を山吹は睨みつけ、抓られた頬に手を当てる。主任の手の温度はやけに冷たいと思った。

石峰 優璃
石峰 優璃

体を動かす様な自身でコントロールできる随意的な運動と、今の君の様な予め体の中に設定されている不随意的な運動に大きく大別出来るな。心臓や内臓の動きもそう言える。

内海 青葉
内海 青葉

そして今の君が飛び上がろうとした動きは、正確に言えば反射ではなくて反応かもね。膝を叩いて足先が上がる様な、単一の動きで一つの動きが出るのが反射だからねー。ちっちゃい子供の発達を観るようなのも同じかな。そしてボクらがバランスを取る時の様な単一の刺激で複数の動きをするのが反応だから混同しない様にねー。立ち直り反射なのか立ち直り反応なのかは区別しないとねー。訳分からなくなるからー

山吹 薫
山吹 薫

それは学生の時に十分習いましたよ・・

石峰 優璃
石峰 優璃

さて・・・なら君がどうやって動くのかを確かめてみようか。

笑みを浮かべる石峰に山吹は体を固くする。その酷く冷たいその指先の温度だけは山吹の頬にいつまでの残っていた。

山吹薫の覚え書 24

・脳や脊髄の中枢神経、そこから身体中に広がる末梢神経がある。

・運動を伝達する運動神経と、体の感覚を伝える感覚神経が有って、自在に動かせる運動と自動化された反射や反応といった運動がある。

・主任の指先は白くて冷たい。

【これまでのあらすじ】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。』

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tanakannaika|note
理学療法士でパーソナルトレーナーなブロガーです。また動画編集や過去には脚本執筆や演出、撮影、編集など多岐に渡って活動しておりました。楽しみながら学べる『内科で働くセラピストの話』を執筆中。

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