脳卒中の話 その⑨  〜リハビリはどうやって繋がるのか〜 【山吹薫の昔の話】

山吹薫の昔の話

内海青葉は曇る山吹薫の表情を見て、あれあれーと体を大きく捩じってみせる。きっと隣の巨大な岩水静は何も気が付いていないよねーとも思う。

内海 青葉
内海 青葉

だいたい基本的なリハビリの進め方は分かったかなー?

山吹 薫
山吹 薫

分かったというより良い復習になりましたよ。頭では分かっていても言葉にしないと分からない事もあるもんですね。

岩水 静
岩水 静

そうだな!言語化するプロセスでそれは整理される。どんどん話すのだ!

ぬはは。と岩水は笑い声を上げ、それを横目に主を失ったデスクを内海は眺める。主任ちゃんも主任ちゃんで無理し過ぎなんだよねーとため息を吐いた。

内海 青葉
内海 青葉

でもね。前まで話していた事が出来るようになる事、まぁ病棟での生活が自分で行えるようになる事自体に長い期間が必要な事もあるんだよー。

山吹 薫
山吹 薫

確かに障害が高度であると目を覚ますだけでもやはり時間は掛かりますし、肺炎などの合併症を起こして順調に進まない例もありますもんね。

岩水 静
岩水 静

現在の制度では障害が全て治るまで入院してリハビリを行う事は出来ないからな、それに我々の働く救急科という場所ではベッドが無くて救命の為に入院できないだなんて事は出来ないからな!

内海は再び山吹を見る。こうやって話していても身に纏う空気はどこか空虚だ。いい感じで成長してはいるんだけど、やっぱりこうなるのかーと見詰められてギョッとする姿もまた面白いと思った。

内海 青葉
内海 青葉

だからボク達は先の先まで患者様と一緒に考えなきゃダメなんだよー。患者様からしてもやっぱり最初入院していた所から、別の病院に行くのは不安になる事もあるからねー。

岩水 静
岩水 静

だけども住み慣れたかかりつけの病院や、自宅に近くの病院の方がメリットも大きい。

山吹 薫
山吹 薫

慣れた環境だとそれだけ落ち着きますし、家族もまた面会に来やすいですもんね。

岩水 静
岩水 静

それだけでは無いぞ?いざ自宅に帰る前に一旦試験外泊出来たり、家屋調査として自宅で動作の確認も行えたりする。地域のケアマネージャーさんや患者様を取り巻く環境に直接アプローチしやすい。それは自宅で生活する上で大きな戦力となる!

主任ちゃんの様に人を惹きつけてしまう人は眩しい。その光は影として敵を作る反面、その光を頼るしかないという事もある。今の新人ちゃんの様にねーと内海は思う。

内海 青葉
内海 青葉

静の言う通り、急性期病院から回復期の病院でリハビリを継続して、それでももうちょっと家に帰るのが不安な高齢な人は老人保健施設を経由して自宅に帰るねー。それまで介護保険を申請していない方はその申請が通るまでの間利用する事もあるよー。

岩水 静
岩水 静

そうだな。それに単純に人員的な問題もあって、回復期病棟の方が多くリハビリが行えるという事もある。量より質はもちろんだが、やはりリハビリは量的な問題がある。もちろん病棟で患者様自身が努力しなければならない部分も大きいがな。

山吹 薫
山吹 薫

今この瞬間だけでは無くて、その先も見据えてリハビリのプランニングを行わなければならないんですね。

内海 青葉
内海 青葉

欲を言えばその先もずっとだね。自宅に帰ってどうやって生活して、そしてどうやって終末を迎えるかまでね。

途方も無いですね。と山吹は答える。理想論であるけれどそれは必要だと内海は考える。まぁそれに関しては自分も勉強だなーと感じ、そしてそれを教えていかなければとも思った。

内海 青葉
内海 青葉

だから後は回復期病院で!みたいな考えは持っちゃダメだからねー。急性期での経過から考える事も多いし、自宅に手すりを付けたり、福祉用具をレンタルするためにも介護保険の申請が必要なのー。それには時間が掛かるから早めに準備する事に越したことは無いしねー。

岩水 静
岩水 静

経過と共に情報提供の中でそれを伝える事も必要だ。決めつけてはいかんが、やはり検討してもらう事もまた必要だからな。

山吹 薫
山吹 薫

そう考えると矢張り此方でしっかりとリハビリして出来れば急性期から退院という流れにしたいですね。

岩水 静
岩水 静

まぁそれが理想ではあるな!しかしそもそも発症しなければ治療の必要性も無い!という事でもある!

ほう。と山吹は岩水を見上げている。「発症せねば入院する必要は無い!」と予防医学の必要性を常に岩水は言ってたっけと青葉は思う。

岩水 静
岩水 静

服薬の管理の重要性、転倒予防の対策や定期的な運動の指導、フォローアップの体制。やる事は様々だ!全てが十分とは言え無いが在宅でリハビリを継続するという手段もある!

内海 青葉
内海 青葉

年々制度が厳しくなっている事は悲しいけどねー。だから患者様自身やそのご家族にも十分理解してもらう必要があるのー。極論すればみんな医療の知識を当たり前に持つ社会が来れば良いなーと思うなー。

山吹 薫
山吹 薫

そうなったら僕らの仕事は無くなりそうですね。

内海 青葉
内海 青葉

何も努力をしなければ職は失うかもねー

メガネは蛍光灯を反射して、居心地が悪そうに首筋を掻く山吹を映す。こうやって話していると後輩に何かを伝えるというのも悪くは無い気分だなーと内海は不思議に思う。

山吹 薫
山吹 薫

ともかく目の前の手技だけではなく、基本的な事を、そしてそれを長いスパンでプランニングしなければ成らないという事はわかりました。

岩水 静
岩水 静

そうだな!何事も戦略が必要だ!これはあくまで基本的な事だから細かい所はその都度教えよう!

内海 青葉
内海 青葉

そうだねー何事も自分でしっかり考えないとねー。

考えてますよ。と答える山吹にどうだかねーと内海は体を視線が横になるまで傾ける。この環境が永遠に続く訳では無いのだから、誰かや何かに頼る事無く自立する必要があるなー。と主任のデスクに視線を移す山吹を見て青葉はそう思った。

山吹薫の覚え書 40

・急性期だけではリハビリは終えられ無い事が多い。先の先まで見通してプランニングを行う。

・再発予防のためにやる事も多い。そのためにリハビリを繋げていく必要もある。患者様や家族への指導も必要。

・今主任は何をしているのだろうか。

【これまでのあらすじ】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。』

tanakanの他の作品はこちらから

tanakannaika|note
理学療法士でパーソナルトレーナーなブロガーです。また動画編集や過去には脚本執筆や演出、撮影、編集など多岐に渡って活動しておりました。楽しみながら学べる『内科で働くセラピストの話』を執筆中。

ちなみに千奈美さんの第一話はこちらから

その1 『伝えたいことを思い出せない』|tanakannaika|note
ここはとあるクリニックのリハビリ室。そこには僕こと、高橋を含めた4人のリハビリスタッフがいる。そしてそこの主任は千奈美さんであるのだ。 瞳と同じくらい小さな整った丸顔で、それに合わせて栗毛が緩く巻かれている。 そして業務の終わり、僕は千奈美さんから呼び止められた。 「高橋くん高橋くんちょっと待ってー!」 「そん...

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