腰椎圧迫骨折の話 その④ 〜ベッドから起きる時に考える事〜 【白波百合とリハビリテーション】

未分類

ふむ。白波は新品のコルセットを患者様の床頭台にそっと置く。夕暮れ時に患者様は疲れたのか目を閉じている。

無事業者よりコルセットは納品された。思ったよりも早かった。白波はそんな事を思う。いよいよ本格的なリハビリのスタートだ。

その前にっと・・・白波は休憩室へと足を向ける。

白波 百合
白波 百合

先輩!無事コルセット納品されたっす!

山吹 薫
山吹 薫

そうか・・・

山吹は文献から頭を上げずにそうとだけ答えた。何を考えているっすかね?と白波は首を傾げる。白波はいつものように先輩のデスクの横に、若草色をした丸椅子を置く。何だかすっかり習慣になったっすねぇ。としみじみとそう思った。

沢尻 悠
沢尻 悠

あれあれー。百合ちゃんもう来てるー!いつもいつもえらいねー!

白波 百合
白波 百合

あっ!沢尻さん!何か用事があったんすか?

沢尻 悠
沢尻 悠

ううん。別にーただの暇つぶしだよー。

山吹 薫
山吹 薫

ならさっさと家に帰れば良いだろう。

まぁまぁと沢尻はそう答えて山吹のデスクに寄りかかる。山吹は文献の端を揃えるとやっと白波の方を向き直る。

山吹 薫
山吹 薫

それで明日から何をする?

白波 百合
白波 百合

もちろんコルセットを付けて離床っす!車椅子に起きてみるっす!

沢尻 悠
沢尻 悠

おー最初の離床だねー。

山吹 薫
山吹 薫

ふむ。そうだな。どうやって?

白波 百合
白波 百合

どうやってって・・・コルセットを付けて、痛みに注意しながら起き上がるっす。

まぁそうだな。と山吹はそう答える。何だかやっぱり最近は変だなと思う。口調は変わらないのにその身に纏う空気はどこか寂しげだ。

山吹 薫
山吹 薫

コルセットを付けたとしても痛みが嘘のように消えるわけでは無い。特にベッドから起き上がる時に胸腰椎にはストレスが掛かるから注意だな。

白波 百合
白波 百合

確かにそうっすね。でも膝を立てて体を丸太のように横になる事で痛みを抑えながらなんとか横を向けているっす。

沢尻 悠
沢尻 悠

そこから起き上がると確かに痛いよねー。病院は殆ど電動のベッドでしょ?オレはそれの頭の部分をゆっくりと上げながら起き上がるよー

白波 百合
白波 百合

確かにそれは便利っすね!こう体をゆっくりと持ち上げながら起き上がるわけっすね!

ねっ!と沢尻は山吹を見る。聞いているのかいないのか山吹は一度だけ頷いた。何を考えているのか分からないけど、それでも白波の胸はソワソワとする。

山吹 薫
山吹 薫

もちろんそれを永遠にやる訳にはいかないからな、痛みが和らぐのに合わせて徐々にその角度をフラットに近付けていきながら起きていく。

白波 百合
白波 百合

そしてベッドに腰掛けてもらうっすね!これで寝たきり脱出っす!

沢尻 悠
沢尻 悠

そうだねおめでとう!だけどもベッドに腰を掛けるのも大変なんだよー。

山吹 薫
山吹 薫

僕らは常に重力にさらされているからな、もちろん寝ている時もそうだけど起き上がった瞬間に脊柱を中心に重力は掛かる。

白波はふと天井を見上げてみる。重力がその目に見える訳もないけれど、ちょっとだけ空気が重いように感じた。だけども明日から離床と考えると気持ちは嬉しいようでやはりちょっとだけ緊張する。

山吹 薫
山吹 薫

座っているだけで重力分の重さは掛かる。特に今回の骨折して言う場所の胸椎と腰椎の境目は特にだね。座っているだけでも痛みは続く事も多い。

沢尻 悠
沢尻 悠

そうそう。だから常にどの姿勢で痛みが出て、どの姿勢で痛みが楽になるか。常にその事を考えていくんだよー!

白波 百合
白波 百合

そうっすね。ならまずベッドに腰掛けながら痛みがマシになっていくのを考えたら良いんすか?

山吹 薫
山吹 薫

それも一つだけど、車椅子という便利なものがあるだろう。背中に支えが無いよりも有った方が背中にかかる負担は軽減される。よってベッドに腰掛ける姿勢を続ける事も重要だが、いっその事車椅子に起きてしまった方が手っ取り早いこともある。

ふむふむ。と白波はノートに言葉を綴る。そういえば随分とこのノートもボロボロになったっす。と表紙を撫でる。

白波 百合
白波 百合

やっぱり車椅子に起きることは大切っすね!

山吹 薫
山吹 薫

まぁそうだな。でもその時に大切なのはシーティングだよ。体に合った車椅子でないと起きておくのは辛い。

沢尻 悠
沢尻 悠

そうだねー。例えばフットレスト、足を置く部分が高すぎると力は体を折り曲げる方向に働くから腰が痛むし、逆に低すぎると足元が不安定で体が伸ばされる方向に力が働くからまた腰に負担がかかるよね。

白波 百合
白波 百合

なるほど。あと今回の症例様は円背の姿勢だから背中に沿わせるように何か手立てを考えなければいけないっすね。

山吹 薫
山吹 薫

その時に背中が調整できる車椅子であったならば良いが、そうで無い時にはクッションを入れたり、バスタオルを二つ丸めて背骨の両サイドに入れることでもストレスは減らせる。

ただ起きているだけでも辛い。自分たちが普段通りに生活することがとても尊いように思える。患者様はきっとそれ以上に感じていると白波は思う。

山吹 薫
山吹 薫

先ずはともかく車椅子での生活が必要になることが多いからそれを考える。だけども勿論痛みに強い人も居たり、症状の軽い人もいるからその限りでは無いがね。

沢尻 悠
沢尻 悠

まぁ女性ほど案外痛みに強かったりするしねー。俺なんかもう些細なことでハートブレイクだよー。

山吹 薫
山吹 薫

・・・また女性関係で何か有ったのか?

沢尻 悠
沢尻 悠

・・・何も無いよー!

本当か?と眉をひそめる山吹をみて白波はフフっと笑う。この普段通りの生活もまた尊いのだな。そんなことがふわりと心の中に浮かんで見えた。

白波百合のノート 62

・離床の際には電動ベッド等を用いながら起き上がる際の腰のストレスを減らす。痛みの軽減にもつながる!

・ベッドに腰掛ける姿勢も大切だが、車椅子を調整して座って頂くことで痛みの軽減と日常生活で出来ることも増える。

・この日々はいつまでも続くのだろうか。

【告知】

『note』で連載中の【内科で働くセラピストの話】ノベライズ版!本編で語られなかった物語。ブログを加筆修正とより詳細に描かれる内科で働くセラピストの話。

こちらもどうぞ皆様ご覧ください。

第一話 はじまりの話 その①    【内科で働くセラピストの話】|tanakannaika|note
春はこの街に心地良い香りを運んでくる。 白波百合(しらなみゆり)は背中に寄りかかるバックをぎゅっと握りしめたまま大きく息を吸った。 春先のなんとも言えない穏やかな香りが体の中を満たしていく気分がした。肩まで伸びた淡いしっかりとした茶味のかかった髪は一つにまとまり、歩く度に揺れている。大きくはない背丈で踏み出される...

コメント

タイトルとURLをコピーしました