誤嚥性肺炎の話 その⑥ 〜食事を楽しめるための検討〜 【白波百合とリハビリテーション】

栄養

進藤守は白波百合と並んで、患者様の食事の風景を眺めながら不思議な気分を感じていた。

進藤 守
進藤 守

そろそろ食事も終わりのようだな。食事に手を伸ばせなくなってきた。

白波 百合
白波 百合

いきなり全量摂取とはいかなかったっすけど、半分くらいっすね。

進藤 守
進藤 守

まずまずだな。そして食事が終わった後も目を離してはならないよ。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。疲れていないのかを確認するんすか?

まるで薫が隣にいるようなそんな感じがするな。と進藤は思う。もちろん姿形も口調まで何もかもまるで違うのだけど。

進藤 守
進藤 守

もちろん食事の疲労感もしっかりと尋ねる。何が美味しくて何がそうでなかったのかも今後の食事内容に反映する。そしてその後の口腔ケアの結果もまた重要だ。例えば、うがいをしてもらって食べ残しが沢山出てきた場合、それはもしかしたら誤嚥しているかもしれない。

白波 百合
白波 百合

確かに。しっかりと咀嚼して全部飲み込めていないって事かもしれないっすね。

進藤 守
進藤 守

そうだ。口の中に溜め込んだままだと、それが気管に流れ込むかもしれない。そしてその後にお話する時に声が枯れたような、喉の奥に何かがあるような嗄声をしている時も注意だ。

白波 百合
白波 百合

それもまたちゃんと飲み込めていない証拠になるかもっすね。その時にはしっかりと飲み込むように促したり、ちゃんと咳をしてもらうっす!

ふむ。と進藤は腕を組む。もう随分とこの子は薫の話を聞いているのだ。隣に薫がいるように感じても不思議ではないと思った。

進藤 守
進藤 守

食事中だけではなく食事の前と後もしっかりと見る事が必要だね。食事の後に嗄声をしたまま、もしかしたら喉の奥に溜め込んだ状態で運動なんて出来ないからな。

白波 百合
白波 百合

そうっすね。それで誤嚥したら元も子もないっすからね。

進藤 守
進藤 守

そうだな。そしてやはりどんなに食事場面に関わっても食事を食べたくないという人も多い。一つは胃ガンの手術後、部分的に切除していると一食分の量でも入らない。その時は分食といって少量を頻回に食べる事が必要なることもある。

白波 百合
白波 百合

そうっすね。飲み込んだ先に十分な容量が無ければ、入るものも入らないっすよね!

自分もそうだが、薫もまたこうやって何度も人に何かを指導するなど、昔は考えられなかったとも思う。そしてこうやって説明する事が出来るなんて思いはしなかった。

進藤 守
進藤 守

そしてしっかりと食事が取れてきたら並行して運動もしなければならないよ。栄養状態が改善するまで運動を制限してしまうと筋肉ではなく脂肪がつくからね。脂肪ばかりで筋肉が少なくなる肥満性のサルコペニアなんてあるくらいだからな。

白波 百合
白波 百合

それはなんとも恐ろしい話っす。食事量に比例してしっかり運動して筋肉にして、楽に動けるようになって頂かないとっすね!

進藤 守
進藤 守

そして食事の形態も少しずつ普通の食事に近付くから、その都度チームで情報を共有しなければならない。その分やはり誤嚥してしまうリスクも高くなるからね。

白波 百合
白波 百合

でも食事が普段食べているものに近付くとやっぱり嬉しいっすね。

活気も出てくるはずっす!

だな。と進藤はそう答える。思えば自分も薫も指導者によくこういう風に何かを説明していたような気がする。もちろん指導の一環としてだ。

進藤 守
進藤 守

でもこうやって順調に進む人ばかりでもない事もまた事実だよ。その時には経管栄養と並行する事もあるし、原疾患の治癒を待つ事もある。そして心因的な要因で食事を拒否してしまう場合もある。

白波 百合
白波 百合

食べられるけれど食べたくはない。って事っすね。辛いっす・・・

進藤 守
進藤 守

そうだな。もちろん服薬の影響もまたあるし、入院中に消化管の疾患も合併する事も多い。食事自体が嫌になる事もある。でもまずは入院中の食事は薬と同じようなものだから、体を治す為にはまず栄養を取らなければならない事を伝える必要があるね。主治医と相談して食べれるものを選んでいくのも必要だな。

白波 百合
白波 百合

それでも・・・分かっていても食べられない人も多いっすよね。

進藤 守
進藤 守

そうだな。その時は安全な範囲で、食事をする環境を変えるのも一つだな。

環境が変わると人も変わる。それでもまた指導者の手の平にいるような、何故だかそんなちょっと安心感を進藤は感じた。

白波 百合
白波 百合

例えば皆んなでワイワイ食べたりするって事っすか?

進藤 守
進藤 守

逆に一人で食べるのが好きな人もいるね。例えば外を眺めながら一緒に食べた事もあるし、全く食べられない人と柔らかいパンを持って外に出て食べた事もある。家族と一緒に食事をしてもらったこともあるな。もちろん病棟のマンパワーもあるから難しい所ではあるね。

白波 百合
白波 百合

それは何とも素敵っすね!

進藤 守
進藤 守

大分条件は限られてくるけれどな。やった事はないが、こうお酒を飲む徳利にあえて水を入れて、食事とお酒を飲む雰囲気だけを楽しむようにして介入した例もあってそれは面白いと感じたよ。俺だったらウイスキーボトルに麦茶を入れて欲しい。

白波 百合
白波 百合

ほほう。病院で見たらちょっとビックリするっすけど、すごいアイデアっすよね。

過去からずっと今まで繋がっていて、そしてこうやって次へと繋がっていくんだな。と進藤は白波を見た。白波はこちらに視線を向けたまま目を丸めて首を傾げている。

進藤 守
進藤 守

そしてもし常食に至らなくても次に繋げる事はできるから、それを次の関わるチームヘ申し送る。もちろん食事姿勢もまた申し送る。安全な食事を次につなげていければ理想だと俺はそう思うよ。

白波 百合
白波 百合

そうっすね。一人の人に関わるって本当に考える事が山ほどあるっすけど、良くなっていくのはやっぱり嬉しいっす!

両手を握った白波を見て、進藤は一度だけ頷いた。こうやって知識や技術以外にも気持ちが伝わるのは嬉しいと心から思う。果たして薫もそんな気持ちなのか、そう思って見て進藤は一度だけ笑みを浮かべた。

白波百合のノート 73

・食事が終わった後もしっかりチェック!食物残渣物が沢山あったり、嗄声が見られていたら要注意。

・食事環境を思い切って変えてみるのも考える。他にも沢山患者様がいるから無理は禁物。

・本当に一人の人に関わるのは難しい。

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