【心揺さぶるストーリー!理学療法士×作家のタナカンによる作品集!】
小説の中では様々な背景や状況、そして異なる世界で生きる人々の物語が織りなされます。その中には、困難に立ち向かいながらも成長し、希望を見出す姿があります。また、人々の絆や優しさに触れ、心温まるエピソードも満載です!
苦痛により恐怖がもたらされるのか、それとも恐怖により苦痛を感じるのだろうか。まぁその両方だろうな。と石峰優璃は足を組み直し、右手で頬を支えた。正面の山吹薫は額に手を当て考えをまとめているようだった。
それで主任。全人的苦痛の要因は教わりました。そして痛みは身体的な苦痛の一部だとも。ということは他にもたくさんあるのですか?
あぁ。すまん。これは私の悪い癖だな。でもいいかげん慣れただろう?痛みは身体的苦痛だが、痛みだけではない。身体的苦痛とは疾病や老化などによってもたらされる体の痛みや症状、ADL(日常生活動作)の低下などのことだと言われているな。肉体に関連して感じる苦痛ということだな。
身体的苦痛はわかりやすいし、イメージがしやすいですね。普段、僕たちが向かい合っている痛みや、痛みに起因するADLの低下といったことですね。
私たちにわかりやすいということは、患者自身や家族からもわかりやすい苦痛ということでもある。治療によって緩和できる部分でもあるから、積極的に対応すべき痛みでもあるな。
僕たちにできることも多いですね。と山吹の視線は私から離れない。私を試すような質問が嬉しく、ただ向き合うことが怖くて目を逸らす。
次に精神的な苦痛だな。恐怖や不安・・・といった感情がわかりやすい。疾患が治癒するかどうかわからない不安や、治療が進まないことに対する落ち込み、少しずつ体が動かなくなるといういら立ち・・・といった苦痛だ。
今まで肉体的な苦痛とどこか混同していたように思います。肉体的な変化から生じる苦痛は、精神の中にあるのですね。うまく説明できないのですが、混同していました。
混同することが間違っているとは言えない。ただ互いに強く関連する。少なくとも疾病に関連したことにより生じる心理的な苦痛だよ。そして痛みや不安、恐怖だけでもない。
どういうことですか?と山吹は首をかしげる。知識としては知っている。そして今は実感を伴い理解できている。むしろ私は今まで知ってはいてもわかっていなかった。当事者でないとわからないことは多くある。今になってわかった。
次に話そうと思う社会的な苦痛にも関連したことだよ。疾病により時には職を離れる必要がある。日常が遠のいていき、友人や、時には家族との生活がままならないことも、確かにある。
そうですね・・・でもそうならないようにかかわるのも僕たちの役割でしょう?その人らしい生活の再構築。僕たちの役割です。
あぁ。世界から置いて行かれているような孤独感、そしてに今まで当然のように流れていた日常から乖離してしまった疎外感。それらも精神的苦痛だと言われている。決して一人の心の中で生じるものではない。世界とのかかわりの中で生まれる苦痛でもある。
独りにはさせません。それが僕の役割ですから。
山吹の言葉に思わず口から本心が出ようとする。ただ私の気持ちはきっと彼を苦痛の渦の中に巻き込んでしまう。痛みの理由は聞いて欲しい、ただ知られたくない。なんとも私は素直じゃないな。と思いつつ私のために悩んでくれる山吹に、言葉ではなく笑みで返した。
山吹薫の覚書114
・痛みや苦痛は肉体だけに生じるのではない。
・精神的な苦痛は不安や恐怖、苛立ちや、孤独感。そして疎外感などがある。
・孤独にはさせない。望んでいたとしてもだ。
【〜目次〜】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
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