【心揺さぶるストーリー！理学療法士×作家のタナカンによる作品集！】
小説の中では様々な背景や状況、そして異なる世界で生きる人々の物語が織りなされます。その中には、困難に立ち向かいながらも成長し、希望を見出す姿があります。また、人々の絆や優しさに触れ、心温まるエピソードも満載です！
最初に出会った時、彼女がこんな柔らかな笑みを浮かべるとは思わなかったな。山吹薫は足を組んで髪を揺らす石峰優璃を眺めて、記憶に囚われている。
どうしたんだ？そんなに眉間を寄せて？まだ話の途中なんだがな。
いいえなんでもありません。緩和ケアの大体の概念はわかりましたが、具体的にはどのような方法で行うんですか？
具体的な方法は施設や取り組みによって大きく違う。また何よりも目の前で緩和ケアを受ける人によっても違うことが多い。しかし共通する特徴、というか考えるべき特徴というものがある。
なるほど。いわゆる全人的なアプローチということですね。
石峰からの問いに答えるたびに、わずかばかりに形成された自信はたやすく打ち砕かれ、代わりに別の何かが心の中に形成されていった。そしていつしかその何かは今の自分を作っている。
まずは緩和ケアの特徴として死を早めようとしたり、また遅らせようとはされない。生命を肯定し、死にゆくことを自然な過程と捉え、病の早い時期から積極的な治療と組み合わせて適応できるとされているな。
・・・それは早い時期から死を受け入れるということですか？
治療と組み合わせて適応できるということで、必ずしもそういうことではないよ。治療には痛みを伴う。痛みやその他のつらい症状を和らげる意味で用いられ、ケアにより治療中においてもQOLを高め、さらに病の経過にも良い影響を及ぼす可能性があるとされる。
それは確かに言えますな。体の痛みや苦痛が強いと前向きになんかなれませんから。
痛みは体だけに及ぶのではないよ。と首をかしげる山吹に、石峰はまるで成人しているとは思えない幼い笑みで応える。今まで当たり前に眺めていた笑みが、朝日の逆光線で消え入りそうに見えた。
また話そうと思うが苦痛は肉体だけのものではないよ。精神的や社会的、スピリチュアルな部分も含めて全人的な苦痛と呼ばれる。それらのケアもまた必要であり、患者が最期までできる限り能動的に生きられるように支援する体制を提供するのだよ。
痛みの種類ですか。確かに普段リハビリをしていると肉体的な痛みにばかり目がいきます。それは当然なのかも知れませんが、患者の感じる痛みにもたくさんの種類があるのですね。
痛みは患者だけではないよ。取り巻く近親者や関わる人へ等しく訪れる。患者だけではい。死別した後も、対処していけるように支援する体制を提供できることや、必要に応じて死別後のカウンセリングも行われる。死はその人にとっての終わりだが、周りの人の終わりではないのだよ。
ならば今、僕の胸に感じる痛みは、どのように分類されるのだろうか。自分を見つめ続ける石峰を見て山吹は目を逸らした。
山吹薫の覚書111
・死を早めるのでも遅らせるわけでもない。最期までできる限り能動的にいきられるように関わることが必要。その人に合わせて、みんなで考えるものである。
・痛みは肉体だけではない。精神的や社会的、スピリチュアルな部分も含めて全人的に感じ、死別後も周りの人も含めたケアが必要になる。
・僕の感じる痛みの種類はわからない。少なくとも主任に関連するのだろう。
【〜目次〜】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
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