はじまりの話 その① 〜基礎の基礎〜

総論

白波 百合
白波 百合

先輩!大変っすー!

病棟の一角にある細やかな休憩スペース。そこに駆け込んできたのは今年、理学療法士として2年目となった白波百合、この病棟に配属になってまだ間もないからか、慌ただしく息を切らしている。

山吹 薫
山吹 薫

廊下を走るなとあれほど・・・また何かやらかしたのか?

広げられた文献をデスクに置きながら山吹薫はため息混じりに振り向いた。彼は以前からこの病棟におり、そのキャリアについては謎ではあるが、少なくともベテランと呼ばれるセラピストである

白波 百合
白波 百合

はい、その通りっす!いやぁ見事に今回もやられたっすよ。面目無い・・

山吹 薫
山吹 薫

全くだよ。後でとやかく言われるのは僕なんだから・・・

白波がこの一般病棟に移ってきてからもう何度目になるのか。

全くこの子は本当に元気だけが取り柄だなと、山吹は頬杖を付いて白波を眺める。それが今の僕の唯一の後輩、部下でもあるのだから蔑ろには出来ないのが辛い所だとため息を漏らす。

山吹 薫
山吹 薫

それで今回は何をやらかしたんだ?

白波 百合
白波 百合

それがっすね、自分が看護師さんに『血圧は160/80でした!ちょっと血圧が高いと思うので休憩してもらってます』そう伝えたら・・・

白波は唇を三角に尖らせる。山吹にはその次のセリフがその声色と共に浮かび上がる。きっと誰もが最初は言われるセリフ。ある意味そこが出発点となるのだからまぁそれもまた仕方が無い。

山吹 薫
山吹 薫

「それだけ?」

白波 百合
白波 百合

「それだけ?」

白波は大きな瞳を更に丸くする、だと思ったよ・・・とキョトンと首を傾げる白波を眺めつつ右手に広げた文献をパタリと閉じた。

白波 百合
白波 百合

先輩なんで分かるんすか!さては先輩も同じ失敗しましたね!?

ふふん。と何故か白波は得意気にそう答える。何でそうなるのだと山吹は腕を組んだ。

山吹 薫
山吹 薫

そんなことは無い。

白波 百合
白波 百合

またまたー!大丈夫っす!誰にも言わないっすから!。

山吹 薫
山吹 薫

・・・とにかく話を戻そうか。

はーい!と白波は山吹の隣に丸イスを持ち込み、腰掛けながら右手を挙げた。またこの時間が始まるのかと思うと、何だか自分の昔の姿を思い出してしまいむず痒くなる。それはもう遠い昔の話だ。

山吹 薫
山吹 薫

今回君が報告したのは何だ?

白波 百合
白波 百合

何ってバイタル測定っすよ?。

白波は不思議そうに首を傾げる。

山吹 薫
山吹 薫

君はあまり勉強は得意な方じゃなかっただろう。

白波 百合
白波 百合

えへへ。仕事に追われて勉強は正直、得意とは言えないっす・・・。

国家試験を受かった新人にとってリハビリ以外にも覚える事は山ほどある。

もちろん臨床に出てからがスタートではあるが勉強を疎かにするスタッフも少なくは無い。だからこうやって無邪気にそう尋ねて来るだけでも良いとするかと山吹は思う。

山吹 薫
山吹 薫

この病棟は慢性的な人員不足なんだから、2年目だからとかそういう事は許されないからな。

白波 百合
白波 百合

それは重々感じているっす!なので頭の良さそうな先輩に是非に色々
基礎から叩き込んで欲しいっす!

山吹は自分の血圧が下がるのを感じた。白波は楽しそうに椅子をガタガタ揺らしている。

山吹 薫
山吹 薫

もうこれ以上、私が怒られるのは嫌だから、一からしっかり勉強しまようか・・・。

白波 百合
白波 百合

流石先輩っす!今日からもまたよろしくっす!。

いつの間にか西日も陰り始めた小さな休憩室で、子犬のように鼻を鳴らして目を輝かせる白波と、神経質そうに書類を整理し離し出す山吹の話し声だけが響き始めた。

『内科で働くセラピストの話/OP』

コメント

  1. ピストン より:

    こんにちは。
    京都で回復期リハビリテーション病院で勤務している男性看護師「ピストン」です。
    このたびは私のブログに来ていただきありがとうございます(^-^)

    この四月からブログを始められたんですね。
    一緒にがんばりましょう!

    • tanakan より:

      ピストン様。早速のコメント有難うございます。
      主に内科での知識を元にリハビリテーションについて書ければと考えております。
      ブログも楽しみに読ませていただいております。
      こちらが教わる側ではありますが、一緒に頑張らせていただきます!

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