呼吸測定の話 その④ 〜どこで何を聴診するのか〜

呼吸

白波はノートに必死に何かをまとめている。それが落ち着くのを待ってから山吹は口を開く。

山吹 薫
山吹 薫

もうそろそろ大丈夫か?

白波 百合
白波 百合

いやぁ。先輩!良くこれだけ話す事があるんだと感心しているっす!

山吹 薫
山吹 薫

必要とあれば他の話も詳しくもっと話そうか。

それはまだ遠慮するっす!と白波を右手で山吹を制する。そういえば休憩室以外で、こんなに話す先輩を見た事はない。

山吹 薫
山吹 薫

まあ良い。次は聴診だったね。これもまたバイタルサイン測定とセットで行った方が良い。

白波 百合
白波 百合

聴診っすねぇ。音の聞き分けが苦手なんすよ・・・

白波は背筋を丸める。山吹はアゴ先を右手で触れる。確かにそう言う話は良く聞く。

山吹 薫
山吹 薫

音の聞き分けは置いておこうか。聴診はどうやって行う?

白波 百合
白波 百合

へっ!?

白波は奇妙な声を出して、胸を隠して身を固める。その姿を見て山吹は目を細める。

山吹 薫
山吹 薫

何をしてるんだ?

白波 百合
白波 百合

それはセクハラっす!

山吹 薫
山吹 薫

だから何を言っているんだ!?とにかく説明をしてくれ。

白波 百合
白波 百合

なんだそういう事っすか。えぇとお医者さんがするみたいにこう、胸の近くからどんどん遠くを聴いてるっす。

山吹 薫
山吹 薫

何故?

白波 百合
白波 百合

いやぁ理由まではちょっと・・・

ふむ。と山吹は腕を組む。

山吹 薫
山吹 薫

何事にも目的と理由があるものだよ。僕は大まかに二つに分けている。どこまで換気できているかと、どこが換気できているか。音の聞き分けはその後に行っている。

白波 百合
白波 百合

なんだ三つじゃないっすか?

山吹 薫
山吹 薫

大まかに二つだよ。君が言った方法は気管支の分岐に合わせてどこまで換気が出来ているかを聞くときに行う。一緒に音の種類も鑑別するが今は置いておいて、気管支は分岐するたびに細くなる。細くなればなるほど気流の抵抗は大きくなって通り難くなる。それに伴ってどこまで息を吸えているかを調べている。

白波 百合
白波 百合

ちゃんとしっかり息をできているか。って感じっすね。

白波は一度大きく胸を膨らませて息を吸う。

山吹 薫
山吹 薫

ふむ。そうだね。

白波 百合
白波 百合

何がっすか!?

山吹 薫
山吹 薫

安静に呼吸をしている時と、今君がやったみたいに深呼吸を促して気管支から遠位の音を聴くと良い。それに深呼吸を行えるならば、そうしてもらう方が、音の鑑別をする時に便利だ。

白波 百合
白波 百合

なるほどっすね!

山吹 薫
山吹 薫

そしてもう一つ、どこに酸素が通っていて通っていないかを聴く。当然酸素が通っていない所では音が聴こえない。よってどこで音が聴こえていて聴こえないかを調べる。肺区画は覚えているか?

ちょっと待ってください。と白波は両手を大きく動かしながら目をキョロキョロとしている。

白波 百合
白波 百合

大丈夫っす!

山吹 薫
山吹 薫

うん。それはブロンコ体操だね。一々体で思い出さなくても、忘れても肺区画は調べたらすぐ出てくるし、慣れない時にはポケットに忍ばせておいても良い。ただ役に立たたないこともまぁある。

白波 百合
白波 百合

それは作った人に失礼っすよ!

山吹 薫
山吹 薫

確かにそうだけども・・・例えば過度に円背の患者が居るとするだろう?肺は柔らかい。よってその場所も変わる。もちろん肺区画を覚えている事が前提だけども、両肺の上から細く左右を聞き比べて行けばどこに空気が通っていて、どこに空気が通っていないかも分かる。特に呼吸器疾患も持っている人には重要になってくる。

ふむふむ。と白波は自分の胸を、手を左右に動かし上から下まで動かしている。

山吹 薫
山吹 薫

そうだ。後、姿勢にも注意する。座っていれば肺は大きく動くが、そうでない人もいる。寝たきりの人は特に肺の裏を聴診する事は重要だ。そういう人は背中の方で無気肺が起こりやすくて有効に換気が行えていない場合が多い。

白波 百合
白波 百合

そりゃそうっすね。でもあんまりやってなかったかも知れないっす。

山吹 薫
山吹 薫

勉強してみないとそれは意外とそうかもね。とにかく、気管支分岐部からどんどん遠くに聴診器を当てていって、どこまで換気できているか確認する方法と、肺区画をイメージしながらどこで換気できていてどこで換気できていないかを確認する。とりあえずこれが出来たら深呼吸を促してどんな音がするかを確認する。これだけでもまぁ分かる事は多い。

白波 百合
白波 百合

ふむ。やっぱり三つだね。

白波は山吹の声色を真似てそう答えた

山吹 薫
山吹 薫

うんまぁそれで良いよ。そしてそれが確認できたら異常な部位がレントゲン結果と相違がないかもまた確認する。もし肺炎後であり、自分で痰が出せない人であったなら、そこを上にしたらそれだけで有効な体位ドレナージになるんだよ。

白波 百合
白波 百合

ほぉ!呼吸リハビリテーションっすね!

山吹 薫
山吹 薫

そうだね。ただ気をつけなければいけない事がある!

白波 百合
白波 百合

・・・どんな事っすか!?

山吹 薫
山吹 薫

喀痰の正常が硬いと、それが別の場所へ詰まる事がある。それはとても危険な事だ。

白波 百合
白波 百合

ちょっと呼吸リハビリテーションもやって見たかったんすけどね・・・

山吹 薫
山吹 薫

まぁそれはおいおい教えるよ。でも先ずやる事は病状の把握だからね。

うっす!と白波は大きく頷く。それに答えて山吹もまた頷く。

山吹 薫
山吹 薫

これで大体本当に基礎だけれどもバイタルサインの測定の各論はこれくらいかな。

白波 百合
白波 百合

後は実践っすね!

山吹 薫
山吹 薫

まぁそうだけど、大丈夫か?

白波 百合
白波 百合

心配は無用っす!あっそれと先輩!

白波は山吹の目の前に菓子袋を置く、チョコチップのクッキーが袋いっぱいに詰まっている。

山吹 薫
山吹 薫

なんだこれは?

白波 百合
白波 百合

お裾分け兼お礼っす!

そうか。と山吹は素直に受け取る。それじゃぁお疲れっす!と休憩室を後にする白波を見送った。

甘い物は苦手なんだけどなぁ。と山吹はクッキーの袋を開ける。甘いバターの香りが部屋に漂い山吹はそれを頬張り、甘いと呟いた。

白波百合のノート13

・聴診は目的により、どこまで換気できているかと、どこが換気できていてどこで換気できていないかを先ず調べる。左右差も重要!

・深呼吸を促して聴診するのも音を聞き分けるコツ。姿勢にも注意する。

・聴診は肺の裏側までしっかりと聴診を行う。

・ちょっと良い事をした。


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