呼吸測定の話 その③ 〜異常な呼吸をまずは知る〜

呼吸

白波は口をモゴモゴと動かしている。いつの間にかデスクは白波のお菓子で占領されていることに、山吹は気がついた。

山吹 薫
山吹 薫

そんなに食べて大丈夫か?

白波 百合
白波 百合

ん?先輩も食べたいっすか?

遠慮しとくよ。と山吹は答える。この子はこんなにもお菓子が好きなのかとも思った。

山吹 薫
山吹 薫

それでは呼吸測定の話の続きだけど、呼吸を測定するのが大切なのは分かったね?

白波 百合
白波 百合

はい!あと、どうやって呼吸をしているかも大切っす。

山吹 薫
山吹 薫

ふむ。じゃあどんな呼吸がある?

白波 百合
白波 百合

4つの呼吸の相があるっす!

山吹 薫
山吹 薫

それ以外に。

白波はキョトンと目を丸める。

白波 百合
白波 百合

・・・それ以外にあるんすか?

山吹 薫
山吹 薫

学生の時に学んだだろう?

あぁ~と白波は両手をポンと叩く。うん。と山吹は頷く。

白波 百合
白波 百合

ジェーンストックス呼吸みたいな・・・全然覚えてないっすけど。

山吹 薫
山吹 薫

なんだそのうろ覚え具合は。チェーンストークス呼吸だよ。それにクスマウル呼吸、ビオー呼吸、不規則な持続休息呼吸、郡息呼吸、失調性呼吸や起座呼吸なんかもある。そして死戦期呼吸、あえぎ呼吸もある。

白波 百合
白波 百合

そんなに沢山あるんすねぇ。覚えるの大変っす。

山吹 薫
山吹 薫

詳しい説明は後日にするという事にして、最低限やる必要のある事を、まず知ろうか。

必死にノートに書き写す白波を制して山吹はそう言った。

白波 百合
白波 百合

もちろんっす!

山吹 薫
山吹 薫

ノートは閉じずに開いておくように。まず患者が覚醒しているかどうかを知る。声かけでも良いね。受け答えができて、声が普段通りならば気道はまぁ正常だとわかる。そしてそこから呼吸が規則的か不規則かを見る

白波 百合
白波 百合

呼吸数を数える前に覚醒状態っすか?

山吹 薫
山吹 薫

そうだ。覚醒、意識レベルが低下していて不規則な呼吸をしているならば、重症度は高い。よってそこからは専門的な呼吸機能評価が必要になるけれど、今はそれが分かったら僕に相談してくれ。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。気になるっすけど・・・危ない兆候なんすね。

山吹 薫
山吹 薫

すごく。高度に呼吸中枢が障害されている可能性がある。

白波は口をまっすぐと結んで頷く。

山吹 薫
山吹 薫

それで意識レベルとセットで呼吸パターンが規則的か不規則か増減していないかを調べておくと、後のアセスメントが進めやすい。

白波 百合
白波 百合

血圧と良い脈拍と良い、本当に沢山あるんすね。

山吹 薫
山吹 薫

そうだよ。だから難しい、今は必要最低限しか教えてないということも知っておくように。

白波 百合
白波 百合

それでも多いっすよ・・・

口をすぼめる白波から、山吹は視線を逸らして話を続ける。

山吹 薫
山吹 薫

話を変えようか、君は息を切らしていたね。それはどういう事だ?

白波 百合
白波 百合

ここに走ってきたから疲れたんすよ。

山吹 薫
山吹 薫

具体的に。

白波 百合
白波 百合

言うと思ったっす。えぇと体を動かして酸素が足りなくて息を沢山してたっす。

山吹 薫
山吹 薫

うん。では自分の脈拍はどうだった?

白波 百合
白波 百合

そりゃもうバクバクしてたっすよ。

そうだね。と山吹は答える。当たり前っすよ?と白波は首を傾ける。

山吹 薫
山吹 薫

運動後に呼吸数は増大する。呼吸の換気量も増大する。それは肩で息をしていた君がよく知っている。運動によりエネルギー産生のために酸素が消費されるからだ。そしてエネルギーを必要としている所に酸素を送るために脈拍数を増大する。体の中にそう言うセンサーが有るからね。そしてそれでも足りない時に心臓は大きく動き血圧を上げる。その結果Spo2は正常に保たれ、休息する事で体を正常に戻る。

白波 百合
白波 百合

だから、ウチが疲れているのにも関わらず嬉々として先輩は初見を述べていたんすね。

山吹 薫
山吹 薫

嬉々とはしていない。まぁそれも君がお菓子を食べ過ぎて喉に詰めておらず気道が閉塞していない事を前提としているけどね。

白波 百合
白波 百合

そんなにお菓子は食べないっすよ!ガチョウっすか!

一瞬、喉いっぱいにお菓子を詰め込まれている白波を山吹は想像する。

山吹 薫
山吹 薫

じゃぁ異常とはなんだろう?

白波 百合
白波 百合

えぇと、気道が閉塞して呼吸の数も量も増えなくて、脈拍も速くならなくて、血圧も上がらなくてっすかね?

山吹 薫
山吹 薫

そうだね。そして逆に呼吸と循環の数も量も減っていき人は死んでいく。寿命を迎える。

白波 百合
白波 百合

それは・・・怖いっすね。

山吹 薫
山吹 薫

ある意味自然とも言える。歳を取っていて気道が閉塞していなければ。そして、その前にあるのが意識レベルの低下と異常呼吸パターンなんだよ。

白波 百合
白波 百合

だから最初にそれを観るんすね!

そうだよ。重症患者を見る時には特に。と山吹は付け加える。

山吹 薫
山吹 薫

そして、もう一つ。運動もしていないのに、さっき君が運動している所見があるとしたらどうだろう?

白波 百合
白波 百合

・・・病気でしんどい時っすか?

山吹 薫
山吹 薫

そうだね。ならどんな疾患でその状態になっているのかを考えなければならない。そしてこの前話した方法で一般的な呼吸のバイタルサインを収集していく。それ自体が病状の把握に繋がるからね。

ほぉ。と白波は口と目を丸めている。

白波 百合
白波 百合

呼吸って大切なんすねぇ。

山吹 薫
山吹 薫

それは医療従事者じゃなくても知っているよ。

白波 百合
白波 百合

へいへい。そうっすねー。

山吹 薫
山吹 薫

なんだその言い草は。

白波は口を尖らせて目を細めている。それこそガチョウに見えると山吹は思った。そして菓子に視線を落とし、白波の口の中にそれが詰め込まれている姿が頭に浮かんだ。

白波百合のノート12

・呼吸評価のスクリーニングである事を知る。勉強する事はもっといっぱいある!

・意識レベルが低下していて、呼吸がなんだか不規則の場合には先輩に相談する!

・運動しているか、していないかで呼吸数が増えている意味合いは違う。

・血圧とか脈拍もセットで考える。そして呼吸自体で病状の進捗を予測できる。

・先輩はお菓子ばかりを見ている。食べたいのだろうか

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