息切れの話 その④   〜疾患の予兆が生じる時〜

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【看取りのセラピスト/ティザーPV第二弾】

さて次は何を話そうか。山吹薫は目の上を滑り続ける文献をデスクの上に伏せてそう考えた。目の前の白波百合は何も変わらないように菓子を頬張っている。

山吹 薫
山吹 薫

さて換気能力についてはまぁ大体ではあるけれど話したから、次は酸素化能力だな。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。換気については外呼吸って感じっすよね。という事は酸素化能力は内呼吸って事っすか?

山吹 薫
山吹 薫

ざっくりと言うとそういう事かな。肺胞、取り入れた酸素を血管に送り届ける小部屋から、その圧力の差によって血管の中に酸素はまず送り込まれる。圧は高い方から弱い方へと移動するから、当然酸素が消費された血管の中の圧は低い。そうやって血管の中に酸素は移動する。

白波 百合
白波 百合

という事は二酸化炭素は逆っすね。エネルギーを作った際に体の中で出来ちゃうっすから、逆に血管の中から肺胞の中へ二酸化炭素が押し出されていくんすね。

今でもなぜこの能天気な後輩に自分の昔話をしたのかはっきりとは分からない。ちょっとでも楽になろうとしたのかもしれない。

山吹 薫
山吹 薫

当然血管の中を移動する際に赤血球、ヘモグロビンと結合して血管の中を運ばれる。酸化して赤くなった血液はここで初めて動脈血と呼ばれる赤い血液となる。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。ならヘモグロビンさんがちゃんと沢山いる事が大切っすね。

山吹 薫
山吹 薫

それが減ると貧血と呼ばれるな。そして血中の中を抹消の組織や細胞まで運ばれる必要がある。その時に必要な事がある。

白波 百合
白波 百合

心臓がしっかりと働いてしっかり血を送り出さないといけないっすね!

ふむ。と山吹は白波を見る。なんすか!?と身を固める白波に山吹は一度だけ首を振る。随分と話が通じるようになったと思う。それだけ長い時間一緒に居たからなとも思う。

山吹 薫
山吹 薫

それ故にパルスオキシメーターだけで酸素化能力を判断するのは状態が落ち着いている時だけだなそれに心臓の機能が落ちていると抹消での測定が難しくなる事も多い。そしてそもそもヘモグロビンの減少した状態では正常値とは言えない事もある。

白波 百合
白波 百合

それは確かあれっすよね!パルスオキシメーターで測定できる血中酸素飽和度はヘモグロビンの総量と酸素とくっ付いたヘモグロビンとの割合っすから、そもそもヘモグロビンの総量が減っていても正常値となる事があるんすよね。

山吹 薫
山吹 薫

よく覚えていたな。それに加えて血中酸素飽和度が鋭敏に減少するのはPaO2で言うと60Torr以下だから、つまりは正常値の値が長すぎる。よって貧血でなくても正常値を示していても、呼吸の数や深さといった呼吸状態に気を配る必要がある

白波 百合
白波 百合

確かに人によって正常というのは変化するっすもんね。そこは臨床で患者様に接する自分たちの腕の見せ所っす!

言うことだけは一丁前になってきたなと山吹は笑みを浮かべる。隣を見ると相も変わらず主任から貰ったマグカップに描かれた黒猫が、人を嘲るような笑みを浮かべている。

山吹 薫
山吹 薫

という事は酸素化能力に影響するのは、何も換気能力の増減だけではなく、心臓の働きを示す心拍出量や酸素を運搬するヘモグロビンにも大きく影響を受け事は覚えておかなければならない。そしてそれらが十分でも息が切れる事は多くある。

白波 百合
白波 百合

日常生活の範囲を超えてめっちゃ運動する!って事っすか?

山吹 薫
山吹 薫

もちろんそうだし加齢の影響もある。しかしその状態に近い状態、つまりは過度に組織代謝が亢進しなければいけない状態があるだろう?慢性疾患や癌、手術後等、炎症が生じている場合だな。十分に酸素が供給されていてもそれを上回る数で消費されていれば、不足する。

白波 百合
白波 百合

なるほど。何事も需要と供給のバランスって事っすね!

そう言いつつ白波は順調に菓子の量を減らしていっている。この細い体でどれだけ消費しているのだとも思うが、主任と比べるとやたらと健康的だなとつい笑みを零してしまう。

山吹 薫
山吹 薫

まぁ細かく話すと切りが無い話題ではあるが、とにかく普段と変わらない生活を行っているのにも関わらず、急に息が切れ出したならば注意しなければならないよ。

白波 百合
白波 百合

加齢や運動習慣、体力的な問題だけでは無いっすもんね。それに肺だけではなく心臓の影響や貧血、他の疾患が隠れているかもしれないっすもん。

山吹 薫
山吹 薫

それは入院中にリハビリを行っている時にも要注意だね。いつもと同じような運動負荷でもやたらと疲れやすかったり、息が上がってしまう、それを耐久性の低下や疲労の蓄積だなんて言葉で終わらせるのは絶対にダメだ。

白波 百合
白波 百合

それはもちろんっす!そん時は容赦なく先輩に説明するっす!

どういう言葉の選択だと山吹はため息を吐く。昔話は嫌いなのは旅愁に似た感情に支配されるからだ。それでもこうやって白波を眺めていると救われる事もある。

山吹 薫
山吹 薫

ともかく息が切れるとは良く見る症状の一つだけども、体の異変を代償している症状の訳だから侮ってはダメだ。病院でリハビリをしている限りは自分たちと同じように患者を観てはならないよ。

白波 百合
白波 百合

それはそうっすね。自分と比べるのではなくて、その人自身を見なければいけないっす!

山吹 薫
山吹 薫

見るだけではなく考えなければいけないけどな。

白波 百合
白波 百合

それは・・努力するっす・・・

コロコロと表情を変える白波を見て、この子があのリハビリ室に居たら何かが変わっただろうか。心の中から浮かんでくるそんな考えを山吹薫はインスタントコーヒーと共に喉の奥へと流し込んだ。

白波百合のノート 77

・パルスオキシメーターだけで酸素化能力を判断しない。他の生化学検査や心臓の機能も関係してくる。

・普段の生活のはずなのに急に息切れが出てきたら注意。何もなければそれでよし。

・見るだけでは無くて、考える。何事も、何事も・・・

【これまでのあらすじ】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

【これまでの話 その①】

【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】

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tanakannaika|note
理学療法士でパーソナルトレーナーなブロガーです。また動画編集や過去には脚本執筆や演出、撮影、編集など多岐に渡って活動しておりました。楽しみながら学べる『内科で働くセラピストの話』を執筆中。

ちなみに千奈美さんの第一話はこちらから

その1 『伝えたいことを思い出せない』|tanakannaika
ここはとあるクリニックのリハビリ室。そこには僕こと、高橋を含めた4人のリハビリスタッフがいる。そしてそこの主任は千奈美さんであるのだ。 瞳と同じくらい小さな整った丸顔で、それに合わせて栗毛が緩く巻かれている。 そして業務の終わり、僕は千奈美さんから呼び止められた。 「高橋くん高橋くんちょっと待ってー!」 「そんな...

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