喘息の話 その②   〜身近にある重症化の危険〜

呼吸

桜井玲奈は自分の胸に手を当て鼓動がまだ治らないと思う。心の準備も出来てないのに、廊下で山吹薫とすれ違ったからなのだから考えなくても原因は明白だ。

沢尻 悠
沢尻 悠

あれあれ?玲奈ちゃんどしたの?

桜井 玲奈
桜井 玲奈

なっなんでもないですわ!それより続きを教えてくださいな!

白波 百合
白波 百合

玲奈ちゃんやる気満々っすね!自分も頑張るっす!

全くこの子は学生の時から全く変わらないと桜井は思う。なのに山吹さん・・・いえ薫様と一緒に毎日お勉強だなんで羨ましくも、内心けしからんと思ってしまう。

沢尻 悠
沢尻 悠

気道の構造は分かったから次はその働きだねー。大まかに考えると異物を口の外に運んで肺の中に異物が入らない様にする事と、体に酸素を供給する役割があるよねー

桜井 玲奈
桜井 玲奈

もちろんですわ。そして気道は自律神経系によって支配されていますの。正確に言うと気管の平滑筋ですわね。交感神経が働くと気管は広がりますわ。

白波 百合
白波 百合

交感神経は戦う事と逃走する事、まぁ外敵に対しての反応っすから、気管を広げて、たくさん酸素を供給して危機を脱するために必要って事っすよね!

沢尻 悠
沢尻 悠

そうそう!そしてその働きは交感神経のβ2(ベータツー)という働きによってコントロールされるの。そしてこのβの働きがポイントさー

薫様とは違ってなんとも軽薄は喋り方ですこと。と桜井は腕を組んで沢尻悠を見る。それでも自分のプリセプターではあるし、それにこう見えて頭が良いから学ぶ事も沢山あると内心そう思う。

沢尻 悠
沢尻 悠

喘息は気管が狭まっている事で何らかの要因で喘鳴(ぜんめい)や呼吸困難になるから、逆にこのβ、特にβ2を刺激するお薬を使って症状を緩和させるのさ。

桜井 玲奈
桜井 玲奈

そうして酸素の通り道を広げてその症状を緩和するって事ですわね。そして口から吸い込む吸入という方法でお薬を口の中に広げる方法がとられますわ。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。だけどその交感神経のβって他にも影響するっすよね?例えば心臓が弱い人が使ったら負担にもなるんじゃないっすか?

沢尻 悠
沢尻 悠

さっすが百合ちゃん!それが問題。気管が広がると同時に心臓が過剰にドキドキしたり、心不全が進んだ人だったらそれ自体が心不全を進める原因になったりするの。そしてそんなに心臓に症状が出ていなくても、別の交感神経刺激、オレらが提供する運動療法の量を間違えたら心臓にも負担が掛かるから注意だよー。でも薬の調整はお医者さんがしっかりとやってくれるから大丈夫だけど、運動時の初見もちゃんと共有しないとダメだからねー

白波百合は沢尻に褒められて露骨に頬を緩めている。それを横目に桜井は流石に薫様の所で勉強しているだけありますわ。とちょっとだけ関心をする。

沢尻 悠
沢尻 悠

そしてその症状は大きく、小発作、中発作、大発作、重篤の四つに分けられてそれぞれに対して治療がなされるんだよー。こんな評価や区分は沢山あるけど、こういった分類は徐々に日常生活が阻害される順序で重症になっていくんだよー。

桜井 玲奈
桜井 玲奈

それも調べましたわ!小発作は横になれるけど苦しい、中発作は横になれないほ苦しいけど何とか歩ける、そして大発作は歩けたり喋れないほど苦しい、そして重篤となるとチアノーゼが出たり、意識に障害が出る。こんな所ですわね。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。息が苦しくなるとまずは横になって休憩しがちっすもんね。だけどもそれでは肺が膨らまないから、酷くなると座って息をするようになるっす。そして息が吸えている内は声も出せるけど、それすら出来なくなると脳に酸素も行かなくて意識も失ってしまうっすね。怖いっす。元々体が弱くて動けない人もいるっすから気をつけないとっす。

沢尻 悠
沢尻 悠

そうそう。そして人は呼吸困難感にも慣れてしまうから、自覚的にはそうでもなくても、他覚的に見るともっと重症だった!ってこともあるから要注意!

なるほどと白波の意見を桜井は心に留める。あのポヤンとしていた白波百合がここまで成長するのだから、流石は薫様!と胸の前で手を組む。

沢尻 悠
沢尻 悠

玲奈ちゃんどうしたの・・・?とにかくその発作に合わせて治療も進むからしっかりと評価は必要なのさー。息苦しかったり小発作の時には吸入や炎症を抑えるお薬、そして中発作の時にはステロイドやボスミン、アミノフィリンといったちょっと強めのお薬が必要で、それで上手く症状が治らなかったら入院しなきゃいけない!

白波 百合
白波 百合

強いお薬は効果も高い反面、副作用も強いっすからね。段階的に治療が進むんすね!

桜井 玲奈
桜井 玲奈

なるほどですわ。それでその先はどう言った治療になるのかしら?

もし自分が白波百合の代わりにここで薫様のご講義を受けられたらなら、と考えて桜井は首を左右に振る。そんな事をしたら私(わたくし)の心臓が耐えられませんわ!と心の中で叫んでしまう。

沢尻 悠
沢尻 悠

大発作からは入院して治療になって中発作から酸素投与と抗コリン薬が使われるけど、ここからすぐ重症化するパターンも多くて、その後の重篤の際には、この病院には無いけどICUで人工呼吸器を使用する事になる事も多いの。大発作、人によっては中発作の段階からしっかりと治療をしなきゃならないから、何にせよ息が苦しくて動けなくなったら直ぐに誰かや救急車を呼ぶ!喘息が出なくても、それはすごく異常な事だからね。

白波 百合
白波 百合

元々自分が喘息だと診断されていたら定期的な受診や、もしそうなったらどうするかをメモするか、人に伝えておかなければならないっすね!

桜井 玲奈
桜井 玲奈

そうね。そしてそれを私たちがしっかりと教えて差し上げなければいけないのですね。

沢尻 悠
沢尻 悠

そうそう。病気になったり、その病気が酷くならなければ入院もしなくて良いからねー。

そうですわね。と桜井は思う。この沢尻さんもかつては薫様の下で働いていたのだから、きっと学んでいく内に薫様の叡智につながるのですわ。と桜井はそう心に留めた。

白波百合のノート 82

・喘息は発作によって歩行や呼吸が困難となる事もある。その時には直ぐに人を呼ぶ!

・苦しくなってからどうするかではなくて、苦しくなった時にどうするかを事前に考えたりメモしたりしておく。

・玲奈ちゃんが何やら落ち着かないみたいっす。

【これまでのあらすじ】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

【これまでの話 その①】

【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】

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tanakannaika|note
理学療法士でパーソナルトレーナーなブロガーです。また動画編集や過去には脚本執筆や演出、撮影、編集など多岐に渡って活動しておりました。楽しみながら学べる『内科で働くセラピストの話』を執筆中。

ちなみに千奈美さんの第一話はこちらから

その1 『伝えたいことを思い出せない』|tanakannaika
ここはとあるクリニックのリハビリ室。そこには僕こと、高橋を含めた4人のリハビリスタッフがいる。そしてそこの主任は千奈美さんであるのだ。 瞳と同じくらい小さな整った丸顔で、それに合わせて栗毛が緩く巻かれている。 そして業務の終わり、僕は千奈美さんから呼び止められた。 「高橋くん高橋くんちょっと待ってー!」 「そんな...

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