なんかあの二人の雰囲気は変わったなぁ。
もう夜も遅いし自分自身もベッドでゴロゴロと睡魔が訪れるのを待っている時間だ。
そんで明日も仕事なのになんであの二人の事を考えなあかんねん。と坪井咲夜は改めて目を細める。
人と人の間を取り巻く空気感とは当然ながら目に見えない。
それでもそれは体の外に確かに纏わり付いていて、
空気との境に確かに存在している。
そんな気がする。
まぁ長い時間一緒にいる訳やし、何もない方がおかしいやろとは思う。
そして二人とも頑なで真面目だからそう簡単に話は進まへん。
そんな事も分かっている。
それでも緩やかに空気が変わっているのはきっと良い事なのだろうと思う。
だけども気掛かりなのがあのチャラい人類である沢尻悠が言っていた事だ。
百合と同じ名前の指導者がかつていた事。
それはきっとかつて山吹薫が働いていた救急病院の事であろうという事。
そして今まで山吹か語る言葉のそれは、そこで学んできた事だという事。
そしてそれらが考えるまでもなく、そのユリの名を持つ指導者の言葉であるという事。
その言葉は今百合が大切にしているノートに刻まれた山吹さんの言葉のように、山吹さんの心にも白波と同じように降り積もり形を成しているという事。
その形がどういった物かは分からない。
どういう形状なのか、そしてどういう空気を纏っているのかも。
そしてその人は今ここに居ない。それがきっと答えなのだろうけど、それでも最後はどうだったのだろうと思う。
きっとすんなりとはいかへんな。なんせあの不器用鉄面皮なのだから。
そう思って坪井はあーやめやめ!と手足をバタバタとさせる。
なんでウチがあの不器用鉄面皮の事を考えなければならんのだ!とその事を思考の外に追い出す。
でもやはり大切な同期には傷ついて欲しくない。
また百合を怒らせたり悲しませたりしたら知らんからな。
坪井が電気を消す。
何処からともなく風鈴の音がして、もうすぐ夏やな。
そう思った。
【これまでのあらすじ】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
【これまでの話 その①】
【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】
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