【心揺さぶるストーリー!理学療法士×作家のタナカンによる作品集!】
小説の中では様々な背景や状況、そして異なる世界で生きる人々の物語が織りなされます。その中には、困難に立ち向かいながらも成長し、希望を見出す姿があります。また、人々の絆や優しさに触れ、心温まるエピソードも満載です!
最近主任がめっきりリハビリ室へと姿を現さなくなっている。先輩たちは何事もなかったように仕事をしているのが不思議だった。
朝にリハビリ室に行くといつも主任がいて、長い黒髪に指先を絡めながらカルテと格闘していた。
いつしか、僕は隣に座り主任と一緒にカルテを眺める。そして主任が訪ね僕が答える。そして僕の答えを聞いて主任は成人しているとは思えない幼い笑顔でこう言うのだ。
「間違ってはいないが正しくはない」
「もし私がそうなったとしたら君はどうしてくれる?」
その質問の意味が、きっと現状を暗示していたのだろう。
真理とも言える正しい事柄など、臨床にはない。常に悩みつづけて前に進み答えを模索し続ける。変化し続ける定義に疑問を持ち、確かめる。
そして、得られた知見は自己の中で完結してはならない。誰かに対して与えられるような知識でなければならないのだ。
言ってくれたらよかったのに。でも、言ってくれるだけじゃ、わかっても理解はできない。
真の意味で理解できはしないのだ。
それでも僕は今日も始業よりずっと早い時間にリハビリ室へと向かう。
救急病院には夜もなく、また朝もない。救急車の赤いランプと音を変えつづけて響くサイレンの音を聞きながら、僕はリハビリ室への扉を開けた。
すでに明かりのついている扉の向こうに、デスクへ腰掛ける艶やかな黒髪が見える。
胸が沸き立ち、僕はようやく理解した。
僕は主任が好きだ。どうしようもないほどに。
ずっと前からある気持ちは、確かなものとなって腹の底から喉元へと駆け上がった。
椅子が回転し、足を組みつつ主任は笑う。いつものような成人しているかどうか怪しい、子供のような無邪気な笑みで。僕は首を左右に振ってため息を吐く。いつものことだから。
そして今日は始まる。きっと程なくして終わってしまうやっと気が浸けた愛おしい日々は終わり向けて歩みを進めるのだ。
【〜目次〜】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
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