幕間の小噺 その③ 〜感情にまつわるリハビリと変化〜

総論

私は眺めている電子カルテを閉じる。そろそろリハビリの時間も近づいている。

今回の患者様は若くしてCOPDとなりそして市中肺炎に伴い急性増悪した症例だ。

それ自体は少なくはない。救急で受け入れる病院では少なくはない症例。

だけども患者様を症例と診るとの話であって、その状態は多種多様だ。

それは患者様の歩んできた人生そのものの様な気がする。全てが悪い訳でもなく自業自得という訳でもない。ただ身体情報として客観的、主観的なデータとして横たわっている。

ちょうど先生がICUへと足を踏み入れたのが視界に入る。

「先生。ちょっと手を借りれますか?このCOPDの方はショック状態を脱しつつありますので、離床を進めようかと思います。ARDSは脱しつつある様ですが、背面には無気肺も残存していますので、まぁ主治医ともそう相談しましたから」

その言葉にもはや白髪の占める割合が多くなった先生は、腰に手を当て一度ため息を吐く。

「こんな老人を君はいつまで経ってもこき使うのだな。それと家族がリハビリしている所を見たいんだと、何やら娘さんは同じ理学療法士らしいな」

「そりゃ・・・患者様と共に良い所を見せねばいけませんな」

全くと先生は腰に手を当てている。私は先生を連れ立って病室へと向かった。

自身の親がリハビリを受けている姿を見る。そんな気持ちはどの様なものかと考えを巡らせてみる。私には両親は居ない、というより物心ついた時には姿も形もなかった訳だから、考えても思い付く訳でもない。そういう時に私は自分はまるで人間としての感情形成は正常では無いと感じる。

若い時にはそのことに思い悩む時期もあったが今ではそれにも慣れた。どうにもならないのだ。

病室では右頸部よりCV,カテコールアミンはテーパリング中だが、まだ少量入っている。そのため血圧自体はキープ出来ており、呼吸器も自発モードでPSはまだ入っているが十分にウィーニングの途中だろうと思う。

視線を泳がせながら情報を集めていると窓越しにこちらを伺う少女が見えた。

少女と言っても成人しているだろう、あれが理学療法士である娘さんか?と私は首を傾げる。

身長は私と同じくらいだろうか、随分とまた可愛らしいものだと思う。

その患者様は覚醒後、まだ朧げな瞳をこちらに向ける。その視線に私は一度頷いて見せる。

「娘さんも来られていますよ。一緒に良い所を見せましょうか。」

その言葉にその女性は目尻を和らげている。その感情は分からない。

酷く自分が無機質な人間だとは感じる。だけどもやるべきことはまたあるのだ。

だからこそ私も生きていて良いのだ。

私は準備を終えて入室する先生に一瞥して思考を終える。

さてこれからが本番だな。と私は長く伸びた髪を小さく一つに纏めるた

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

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