心臓の話 その④  〜ポンプ機能で目を向ける場所〜

心臓

もうここに来てからどれくらいの時間が経つだろう。変わらない救急科のリハビリ室で石峰優璃は、山吹薫と向かい合いながらそう思う。

石峰 優璃
石峰 優璃

ざっとした心臓の話と一緒に簡単な循環の話をしてきたが、なんとなくイメージはついたかね?新人君。

山吹 薫
山吹 薫

まぁいろんな目を向けないといけない事はわかりました。しかしまだ新人なんですね。

そう不満気に声を漏らす山吹に石峰は笑みを向ける。新人にしてはよく頑張っていると思う。その姿はどこか自分にも似ている。なんて事も考える。

石峰 優璃
石峰 優璃

しかし、心臓もまた筋肉で神経に支配されている。ただそれは骨格筋のように自らの意思が中心となって動かすものではなく、不随意的に自動的に動く機能を持つ。しかしそれを果たす為にはもちろんエネルギーが必要だ。

山吹 薫
山吹 薫

極論すれば循環は酸素を元にエネルギーを生み出す事を維持する。そんな風な目的があると思います。心臓だけに目を向けるなら冠動脈、という話でしょうか。

石峰 優璃
石峰 優璃

そうだな。冠動脈は心臓を栄養する。上行大動脈の基部の膨らんだ部分、バルサルバ洞から発して、心臓の先端に向けて左右に分かれる。左側の冠動脈は心臓の先端に向かう前下行枝、そして裏側に回る回旋枝に分かれる。まずはこれらが心筋を栄養し、心臓のポンプ機能の基礎となると私は思う。

自分がかつてどうだったかなんて、嫌という程知っている。だからこそ。この新人が私みたいに成ってはいけないと思う。

山吹 薫
山吹 薫

心臓も筋肉であり、動く為にはエネルギーが必要ですから、それを冠動脈が栄養している。という事ですね。

石峰 優璃
石峰 優璃

心筋だけではないよ。右の上の部屋、右房から発する刺激伝導系、つまりは心臓をリズムよく動かす為の神経の流れだが、これはまた詳しく話すとして、それすら栄養する。よって左側の冠動脈は主に心筋を栄養し、そして右側の冠動脈は心筋に加えて心房部分、刺激伝導系の始まりの房室結節もまた栄養する。よってそれが滞ればそのポンプ機能も当然破綻してくる。

反面、石峰は私のように成ってほしいとも思う。それが自身のどのような感情で生まれるのかは分からない。人の体ほど心は単純ではないのだな。とため息をつく。

山吹 薫
山吹 薫

どうしたんですか?つまりは心臓のポンプ機能の元々になる冠動脈による心臓や神経系への血流の充足。それが大切なのですね。

石峰 優璃
石峰 優璃

神経系の機能不全は徐脈や様々な不整脈の原因となり、身体中にリズムよく安定した血流の補填が行えず、心筋の障害は心臓のポンプ機能の力そのものが低下する。もちろん弁膜症といった心臓の器質的な障害もまたそれを助長する。

山吹 薫
山吹 薫

ふむふむ。心臓の機能といえば血圧ばかりに目が行きがちですが、循環全体を見渡すと必要な場所でエネルギーを生み出す素材を送り届ける。そしてその元々の心臓自体の機能を保つ為に冠動脈で自身の心筋や神経を栄養する。なんともまぁ大変なものですね。

考え込むように額に手を当てる山吹を眺めながら、そうだな。と石峰は返事をする。救急科の喧騒は別に今のリハビリ室には穏やかな時間が流れている。こんな空気もあるのだな。石峰は思い悩む山吹をもうしばらく眺めてみる事にした。

山吹薫の覚書61

・心臓は冠動脈により栄養される。それは心筋と刺激伝導系の神経もまたその対象になる。

・心臓の器質的な問題以外にも、この循環が破綻すると心不全などの症状が生じる。

・今日もまた主任との1日が始まるのだな。

【〜目次〜】

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