心臓の話 その① 〜その基本的な構造と〜 【山吹薫の昔の話】

心臓

救急科で働く上で必要な事は、まずは情報収集でありその情報量に伴い必然的に朝は早くなる。朝日が照らす救急科のデスクにいつものように山吹薫は辿り着く。新人の日々ももう直ぐ終わりに近づき。外の空気は変わらず冷たい。

石峰 優璃
石峰 優璃

おぉ!新人君じゃないか。今日も早いもんだな。

山吹 薫
山吹 薫

主任こそ。僕が昨日帰った時と同じ姿勢じゃないですか。

まぁいわゆる仕事中毒だ!と片手に持った黒い犬のマグカップを掲げて石峰優璃主任はそう笑う。その成人しているかは分からない童顔は西洋人形のように白く、脆いほどに整っている。

石峰 優璃
石峰 優璃

ふむ。そして昨夜急患が来ているよ。交通外傷だな。そして外傷に伴う急性大動脈解離。今はまだ術中だよ。

山吹 薫
山吹 薫

そうなんですな。また今日もバタバタとしそうですね。

そうだな。と石峰はぐるりと背もたれの軋む椅子を回して、山吹へと向き直る。そして足を組むとまるで幼子のような笑みを浮かべる。

石峰 優璃
石峰 優璃

それでは新人君。つまるところ心臓とは何なのか私に教えてくれないか?

山吹 薫
山吹 薫

聞かずとも知っているでしょうに。良いでしょう。いい加減慣れましたから。心臓とはつまりは血液を全身に流すためのポンプの働きをしています。その働きは不随的、つまりは自動的に動く自動能があります。勝手に止まっても困りますからね。

それから?と長い黒髪に触れて主任はそう続ける。オレンジ色の匂いがふわりと揺れた。この口頭試問にも似た会話は、ここに配属されてしばらくしてから始まった僕と主任との挨拶のようなものにもなっている。

山吹 薫
山吹 薫

心臓は四つの部屋に分かれています。ちょうど左と右に上下に部屋があります。それぞれ上を房、下を室と分けて、それぞれ右心房、右心室、左心房、左心室の四つですね。そしてそれぞれを区切るドアのように、それぞれの境に弁があります。右心房と右心室を区切るのは三尖弁、右心室の出口にあり、肺動脈へのドアは肺動脈弁です。そして左心房と左心室を区切るのは僧帽弁、そして左心室からの大動脈への出口にあるのは大動脈弁です。

石峰 優璃
石峰 優璃

相変わらずまるで教科書のような口ぶりだな。まぁ良い。そして右の部屋には全身から流れてくる多くは酸素を失って暗赤色をした、静脈血が流れ込み、肺へと送る。そして肺で酸素を得て明るい赤色となった血液は左の部屋に流れ込み、そして全身へと血液を送る。そのために必要なのは圧力だが、さて新人君。確かに全身に血液を送ることはポンプとしての心臓の働きとしては重要だな。しかし血液を送る事だけと考えて良いのかな?

ふふふ。と笑みを浮かべたままに透き通るように色素を失った人差し指で、石峰は山吹の心臓を指し示す。その手が揺らした長く細い髪は光に透過し薄い紅色をしている。また今日もこの会話からか。と山吹は一度首をふり、そして主任に気が付かれないように僅かに笑みを浮かべた。

山吹薫の覚書 58

・心臓はポンプの働きをしており、自動的に動く自動能がある。そして上下左右に四つの部屋に分かれて、それぞれのドアのように弁がある。

・右には静脈血が流れ込み、そして左から酸素を多く含む動脈血が全身へと流れていく。

・今日もまたこの口頭試問にも似た会話が始まった。でもまぁ・・・嫌いじゃない。

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

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