血管の話 その③ 〜血管が患う事で起きる障害〜 【山吹薫の昔の話】

山吹薫の昔の話

さて。随分と夜も更けてきたな。石峰優璃はそんな事を考えた。

目の前の新人君といえば、頭から煙が出そうなのを抑えているのか額に手を当てている。なんとも可愛らしい。そうとも思う。

石峰 優璃
石峰 優璃

さて今まで話していた血液の旅の話。それはなんと呼ぶのかな?

山吹 薫
山吹 薫

体循環でしょう。心臓から出た血液が四肢の末端や内臓をめぐり心臓に帰ってくる。それが肺を巡るのが肺循環ですよね。

石峰 優璃
石峰 優璃

細かく言えば。脳を巡るのが脳循環、肝臓や腎臓も血液は細かく巡る。それぞれの話はまた今度だな。それぞれ興味深いもんだよ。それにまだ細胞までの話はしていないしな。

山吹 薫
山吹 薫

気が遠くなる話ですね。

だなと石峰は笑みを浮かべる。そしてまぁこの新人君もいつか自分の元から去るのだろう。と笑みを浮かべる。

石峰 優璃
石峰 優璃

そして冠動脈循環だな。上行大動脈の圧力で当然心臓にも血管を通り血液が行き渡り、心臓を親指から中指までの三本で包むように走行している。細かい分岐もあるがな。

山吹 薫
山吹 薫

どれが大切かどうかは別として、詰まると危険な血管の一つですね。

石峰 優璃
石峰 優璃

詰まらなくとも細くなるだけで日常生活は著しく制限される。他の血管でもそうだが狭くなると血の流れが阻害される。そうしたら必要な酸素や栄養が行き渡らずにそれぞれの障害を起こす。

山吹 薫
山吹 薫

それに静脈は流れがそもそも悪いので、動かないと血栓もできますね。深部静脈血栓症。それが肺や心臓、脳に飛ぶと致命的になりますね

しかし、この新人はよく勉強しているな。と石峰は感心する。そもそもこの救急科に憧れていても志望する新人は少ない。長続きする新人も少ない。無論私の元でだけなのだけど。

石峰 優璃
石峰 優璃

そうだな。運動療法の前に血栓の有無を確認するのは重要だ。血栓が由来の疾患を患っていたら尚更だな。

山吹 薫
山吹 薫

でもその人たちに必要なのは運動療法でしょう?

石峰 優璃
石峰 優璃

薬物療法と併用してだな。体を動かすということは単純に血の巡りを良くする。血圧や高脂血症の改善にも繋がる。それはあくまで生活の中での話だな。重要なことだが。

山吹 薫
山吹 薫

ここは治療と並行してのリハビリが必要ですからね。リスク管理は重要だと思っていますよ。

人の時間の流れは人によって違う。時間という概念そのものが不明確だからなんとも言えないが、おそらく自分と他人の生きる速度は違うと石峰は思う。

石峰 優璃
石峰 優璃

例えば脳血管の梗塞や頚動脈や椎骨動脈の狭窄。これは血圧をある程度保つ必要が有る。

山吹 薫
山吹 薫

脳に血液が行かなくなると障害範囲も広がりますからね。

石峰 優璃
石峰 優璃

当然出血だったら範囲もシビアになるし、心臓外科手術後であっても血圧の管理もシビアだ。脳の出血であれば運動に伴う過度な血圧の上昇は避けなければならない。心臓外科術後であれば高いことも問題だが、運動負荷で必要な血圧の上昇も得られない、それもまた問題になる。そして症状が落ち着くまで安静にしていると今度は合併症が生じるし、いざ動こうとするタイミングで動けない。

山吹 薫
山吹 薫

そこは先生と相談しながら、展開を予測するんですね。

石峰 優璃
石峰 優璃

そうだな。ここにいると、患者様が落ち着くまで休みが要らないな。

まぁ今の私にはこれくらいしか無いのだから良いのだけどな。とも石峰は思う。これが私の生きる速度なのだから。

山吹 薫
山吹 薫

そしてそれらには血管の構造と分布、役割の理解が必要ですね。血管自体が硬くなったり、脂肪が付着し流れが阻害され狭窄する。そして血栓ができていく。

石峰 優璃
石峰 優璃

組織の代謝にも大きく関わっていることも知らなければならない。

神経系にもそうだな。血液の流れは血液がドロドロだったとしても流れは悪くなる。末端の終末にある毛細血管でそうならば十分な栄養も流れない

山吹 薫
山吹 薫

高血圧の問題もありますね。血圧が高い状態が続いて流れが悪いところに強引に通り過ぎると、やはり血管の障害につながりますね。

石峰 優璃
石峰 優璃

他にも腎臓に血が行かないと、血圧が低いと体は判断する。そして血圧を高めようとして血管に負担がかかることも多い。

山吹 薫
山吹 薫

堂々巡りですね。

そうだな。と石峰は答える。堂々巡りだ。何事も。

石峰 優璃
石峰 優璃

だから安全な範囲での運動は効果的だな。遺伝性もあるが生活習慣における血管へのダメージは減らすことができる。

山吹 薫
山吹 薫

運動ですか・・・

石峰 優璃
石峰 優璃

ひょろっこい体をしている君は運動が得意そうではないな。

そんなこと・・と言い掛けて山吹は口を噤んでいる。どうやら図星らしいな。と石峰は笑みを浮かべる。なんとも分かり易い事だ。

石峰 優璃
石峰 優璃

血管の破綻は特に大きな動脈ほど致命的になり易い。しかし細い血管、心臓に分布する血管や脳血管の障害も大きい。現代ではそれらの治療法が発展してきたからこそ、リハビリテーションも必要となる。

山吹 薫
山吹 薫

それ故にしっかりと知識をつける事が必要なのですね。

石峰 優璃
石峰 優璃

それだけでは無いがな。

分かりやすく新人君は首を傾げている。眉まで潜めているのだから釈然とはしていないのだろうなと石峰は思う。それはまぁまた今度の話だ。

石峰 優璃
石峰 優璃

成り行きとはいえ遅くまで付き合わせてすまんな。

山吹 薫
山吹 薫

本当にそうですよ。まぁとにかくまた付き合ってくださいよ。このままじゃ来年になっても新人君と呼ばれそうですからね。

ほぅ。と石峰は目を開く。こんなにもグッタリとしているのに強がりだな。若いとも言うのかね。と石峰は片方の唇を上げて笑みを作る。

石峰 優璃
石峰 優璃

さぁなら帰ってさっさと休め。あと12時間もしないうちに明日の業務が始まるぞ。そして・・・

山吹 薫
山吹 薫

そして・・・何ですか?

石峰 優璃
石峰 優璃

楽しいリハビリテーションの時間だ。

その言葉を聞いて山吹はがっくりと肩を落としている。まだまだ新人君だな。石峰は緩くなってちょうど良い温度のインスタントコーヒーの口元に近付けた。

山吹薫の覚え書 4

・体循環の他にも脳や肺への循環もありそれぞれを勉強する必要がある。

・循環器は特に介入前にリスクの予測と軽減を図る。治療後の生活指導も必要。

・この主任はいつ休むんだ?

【これまでのあらすじ】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。』

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