腎機能の話 その③ 〜腎臓の障害は腎臓だけの障害ではない〜

アルブミン

休憩室に差し込む西日は広げられた菓子の類に影を作る。

得意気に菓子を広げる百合は楽しそうやなぁと坪井は思う。

そして、これなら百合も通うはずやな。と一人笑みを浮かべた。

白波 百合
白波 百合

何を笑ってるんすか?

坪井 咲夜
坪井 咲夜

何にもあらへん。そんで山吹さん。続きを聞いてもええですか?

山吹 薫
山吹 薫

二人してモグモグと・・・

山吹さんは食べ無いんやろか?坪井は白波と共に小分けにされたチョコレートを口に入れながら、目を細める山吹を眺める。

山吹 薫
山吹 薫

腎機能を反映する検査データを伝えたけれど、それは全てではないのは、腎臓の役割を考えると分かるな?

白波 百合
白波 百合

えぇと・・・再吸収の働きもあったっすから・・・

坪井 咲夜
坪井 咲夜

その再吸収されるヤツも増えたり減ったりする。という事やねんな?きっと・・・

山吹 薫
山吹 薫

まぁ肝心な事が抜けているが、一つは電解質の異常だな。その調整が行えないから電解質の異常もセットで考える。特にカリウムが蓄積すると・・・どうなる?

白波 百合
白波 百合

それは教えてもらったっす!致死性の不整脈につながる。っすね。

ふむ。と山吹は満足そうに頷いている。クールを装っている割にはわっかりやすいなぁ。と坪井は思う。そしてその表情を見て白波も分かりやすく笑みを浮かべるものだから、お尻の下がもぞもぞとする。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

なるほどなー。腎臓に血が通ってもそれを濾過する力が落ちてたら、溜まったらあかんものも溜まる。低負荷の有酸素運動で流れる血液を増やして機能を維持したりするって事なんやねぇ。

山吹 薫
山吹 薫

それだけではないよ。腎臓には血圧を調整する役割もある。レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系の事は憶えているだろう?

坪井 咲夜
坪井 咲夜

・・・・なんやったっけ?

白波 百合
白波 百合

あれっすよ。腎臓から出てくる何かっす。

山吹 薫
山吹 薫

・・・漠然としているなぁ。腎臓の糸球体に流れる血液が少なくなると腎臓から特に抹消血管へと作用するホルモンが放出されて血圧は上がる。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

自分のところに血液をもっとよこせや!みたいな感じなんやろか?

山吹 薫
山吹 薫

そんなに物騒な物言いではないけどな。

そうやろか?と坪井はまっすぐと山吹を見て、大きく笑みを浮かべる。そして山吹は身を仰け反らせ、白波を見ると口を尖らせて目を逸らしている。なるほど分かりやすいなぁと坪井は呆れる。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

でもええ事なんちゃいます?だって腎臓は役目を果たせる訳やから。

白波 百合
白波 百合

だからって無理はダメっすよ〜。

山吹 薫
山吹 薫

安静時でそれが生じるのはマズイ。それは腎臓が機能を果たせず、仕方なく行っている事なのだから、今度は心臓に負担が掛かる。普段以上の仕事を行う訳だからね。逆に言うとどうだろうか?

坪井 咲夜
坪井 咲夜

せやし心臓の機能が低下して、腎臓に血が行かへんくなると、あぁそっか、心臓に更に働け!言うてるとの一緒やね。

山吹 薫
山吹 薫

その通りだね。故に腎臓の機能低下を確認したなら心機能もまた念頭に置かなければならない。二つはよく合併する。そんな状態で筋力増強なんて言えないだろう。もちろん低負荷ならば逆に負担を減らす事もできる。他にもそれに伴いエリスロポエチンという造血に関連するホルモンが出るから貧血とも関連性は深い。

ふむふむ。と白波はメモ帳に言葉を書き付けている。そういえば最近ずっと大切そうに持っているメモ帳やなと坪井は思い出した。

なるほどそこには大切な言葉が沢山書かれている訳やな。と微笑ましく思う。

山吹 薫
山吹 薫

肝心の肝という字は心臓の意味とも取れるし、心の字は腎とも取れる。肝心なことは、肝腎という事だな。

白波 百合
白波 百合

あっ上代のセリフのパクリっすね。

山吹 薫
山吹 薫

そういう事はない。参考にはしたが、

坪井 咲夜
坪井 咲夜

ははーん。それがずっと言いたかったんとちゃいます?

そういう事ではない。と山吹は目を逸らして、口元にマグカップを運ぶ

山吹 薫
山吹 薫

ともかく、腎機能の低下は分かり難く、症状が進行してから分かる事も多い。だけども濾過と吸収が行われず体のバランスが崩れている兆候、尿量の低下と、それに伴う疲れ易さや浮腫みの経過を追う事も大切だ。些細な事だと思っても、それは重要な所見だよ。

白波 百合
白波 百合

なるほど。いろいろ繋がっているんすねぇ。

山吹 薫
山吹 薫

血は全身を巡っているからな。そのどこに障害が起きても必ずどこかに繋がる。何処から始まるかが重要で、何処に繋がっているかを分析するんだよ。全てデータとして現れる訳ではないからな。

白波 百合
白波 百合

うっす。

なるほどなぁ。坪井は頭の中にメモりつつ、山吹さんのセリフが何処か格言めいていて、違う人の言葉にも聞こえる。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

山吹さんもこないな事、色々な知識は山吹さんの先輩から教わったんですか?

山吹 薫
山吹 薫

まぁ全て独学とはいかないだろう。

坪井は白波をちらりと見る。メモを取りつつ耳が大きくなっているのが分かる。ははん。なるほどなぁ。と坪井は楽しくなってきた。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

さぞかし素敵な女性やったんですねぇ。

山吹 薫
山吹 薫

知っているのか?

坪井 咲夜
坪井 咲夜

いえいえ、今知りました。

山吹は口を紡ぎ、不機嫌そうに目を背ける。白波はその場で固まっている。ホンマにこいつはと、坪井は目を細める。そして坪井は深く息を吸う。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

ともかく大まかに纏めさせてもらうと、検査データを確認して、特に危険な電解質異常や老廃物の蓄積に伴った、特に中枢に作用する尿毒症の所見には気をつけなアカン事と、電解質異常や心疾患の合併やったり重篤な症状を呈する所見も見なアカンという事やね。ほんで確認したら高強度のレジスタンストレーニングではなく、低負荷で機能維持を中心とした有酸素運動を行う。という事で大丈夫なんでしょか?

山吹 薫
山吹 薫

・・・まぁそういう事だな。

人差し指を立ててペラペラと流暢にしゃべる坪井を見て、山吹は目を丸めている。それを見て白波はがっくりと肩を落とす。

白波 百合
白波 百合

頭空っぽな風に見えて、咲夜って意外と頭良いんすよ。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

なんや失礼な言い方やなー!

そうか。と山吹は平静を装っている。コイツはうちの事をアホの子やと思ってたんやな。と坪井は目を細める。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

ほな何や楽しい場所と分かったんで、また寄せてもらいますー。

山吹 薫
山吹 薫

どういう事だ?また人が増えたぞ。

白波 百合
白波 百合

こっち見ないでくださいっす。ウチのせいじゃないっすから。

坪井は何やらワチャワチャしている、オレンジ色に染まった二人を見る。なんともまぁ分かり易く不器用やなぁ。そう思いつつ菓子を頬張る。

とりあえずは、ウチをアホの子扱いした山吹なる者をどうにかせんとアカン。そう静かに心に決めたをした。

そして・・・ここはええ場所やな。休憩室の景色を眺めながらそう思った。

白波百合のノート 27

・腎機能障害が見られたら電解質異常も無いかも確認する。

・心疾患の合併する事も多い。貧血や疲れやすさ、浮腫みなどの症状も確認する。あと尿量の変化は要注意!

・全てデータとして現れる訳ではないからな、何処から始まるかが重要で、何処に繋がっているかを分析するんだよ。

・先輩は咲夜の事が苦手なようだ。←ホッとした。なぜだ?

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