アルブミンの話 その① 〜栄養状態だと考える前に〜

アルブミン

白波は休憩室へと向かう。その廊下にはいつも西日が差し込んでいる。

窓の格子が作る影を、踏まないよう歩きながら、白波は休憩室のドアを開ける。

すっかりと毎日の習慣となってしまった。と少し楽しい。

進藤 守
進藤 守

・・・・。

白波 百合
白波 百合

・・・?

僅かに開いたドアの向こうには、どこかで見かけた人がいる。

山吹のデスクに、もたれながら腕を組んでいて、その瞳はどこか微睡んでいるように見えた。

白波 百合
白波 百合

(たしか言語聴覚士(ST)の進藤先輩だったような・・・)

このまま覗くのも気まずいっすね。と白波はドアを開ける。

白波 百合
白波 百合

こんにちは・・・

進藤 守
進藤 守

おぉ。すまん。邪魔してる。

白波 百合
白波 百合

いえいえ。山吹先輩は・・・?

進藤 守
進藤 守

病棟から呼び出されたみたいだな。

少し早口の先輩と違って、進藤の口調は緩やかだ。

不思議なテンポの人っすねぇ。と白波は思う。

進藤 守
進藤 守

・・・なんか飲む?

白波 百合
白波 百合

ん~大丈夫っす。

進藤 守
進藤 守

そうか。

なんとも間が持たないっすねぇ。と白波は思う。進藤は大きな欠伸をしている。さてどうしたものっすかね・・・と白波が考えていると休憩室のドアが開いた。

山吹 薫
山吹 薫

なんだか珍しい組み合わせだな。

白波 百合
白波 百合

先輩!

進藤 守
進藤 守

なんだもう来たのか。白波ちゃんと会話を楽しんでいたのに。

進藤はゆっくりとそう答える。会話らしい会話をしていないような・・・と白波は思う。

なんか先輩とは違った意味で独特な人っすねぇ。とも思った。

山吹 薫
山吹 薫

会うのは初めてか?これは同期の進藤守。不良言語聴覚士だよ。

進藤 守
進藤 守

どういった紹介だよ。

白波 百合
白波 百合

・・・不良なんすか?

進藤 守
進藤 守

この歳で不良も何も無いだろうに。偶に訪ねたら憎まれ口か。

山吹 薫
山吹 薫

いつもの仕返しだよ。

山吹は笑ってデスクに座る。進藤は腕を組んだまま、もう一度欠伸をした。

あまり見た事ない表情だと白波は思う。何だか新鮮だった。

白波 百合
白波 百合

先輩にもお友達がいるんすね!

山吹 薫
山吹 薫

何を失礼な!友達はちゃんといる!

進藤 守
進藤 守

数はとても少ないけどな。

お前な。と山吹は進藤を睨む。微睡む瞳で進藤は視線を逸らす。

山吹 薫
山吹 薫

・・・そうだ。今日はアルブミン(Alb)について話そうか。

白波 百合
白波 百合

うっす!

進藤 守
進藤 守

俺はそろそろ席を外すよ。

山吹 薫
山吹 薫

いや、説明するのは進藤にやってもらう。アルブミンについては、特に言語聴覚士と深く関連する。

進藤 守
進藤 守

いや、俺は席を外そう。

白波 百合
白波 百合

是非ともお願いっす!

白波は目を大きく開く。それは西日に反射して橙色に輝いている。

唇を歪ませ進藤は頭を掻きながら、まぁ良いかと答えた。

山吹は満足そうに頷く。

進藤 守
進藤 守

アルブミンとは何を表すか分かるかな?

白波 百合
白波 百合

えぇと・・・タンパク質だという事は知っているっす。

進藤 守
進藤 守

確かにタンパク質だ。血漿タンパク質と言って、まぁ血中に流れるタンパク質と言っても良い。その中で一番多いのがアルブミンだ。

山吹 薫
山吹 薫

必ず検査データに含まれているのは、知っているだろう?

白波 百合
白波 百合

確かにいつも見てるっすけど、働きは分からないっす。

うん。と進藤はゆっくりと頷く。

進藤 守
進藤 守

大まかに体の浸透圧調整と体の中の物質を運搬する働きがあるよ。後は栄養状態の予測にも使える。

白波 百合
白波 百合

血液の中にタンパク質が沢山あると、確かに沢山筋肉が付きそうっすもんね。それが一番しっくりと来るっす。

山吹 薫
山吹 薫

確かにそのイメージは正しいが一言にそうとも言えない。それは進藤にしっかりと説明してもらうとして、僕からは浸透圧調整について簡単に話そうか。

進藤 守
進藤 守

頼むよ。あまり沢山喋るのには慣れていない。

白波 百合
白波 百合

言語聴覚士なのにっすか?

進藤 守
進藤 守

まぁ運動不足の理学療法士がいるのと一緒だね。

山吹 薫
山吹 薫

それは僕の事を言っているのか?

睨みつける山吹から進藤は笑いながら視線を逸らす。どうやら本当に友達みたいだと白波も楽しくなってくる。

山吹 薫
山吹 薫

とにかく。アルブミンは分子量が大きく、血管の中に多く存在する。浸透圧と言ってしまえば難しいが、簡単に言うと水分がより濃度の高い場所へ流れるという事だ。

白波 百合
白波 百合

白菜の塩揉み、みたいなもんっすか?

山吹 薫
山吹 薫

そうだな。白菜が細胞で、塩の入った容器を血管内と捉えても良いかもしれない。

ブフッと進藤が吹き出した。変な所がツボなんすねぇ。と白波も笑う。

山吹だけが眉をしかめる。

山吹 薫
山吹 薫

とにかく、浸透圧を調整する大きな役割がある。それが破綻すると、どうなるか分かるか?

白波 百合
白波 百合

・・・白菜で考えると・・・水を吸い過ぎたり、吸わな過ぎたりするんすか?

山吹 薫
山吹 薫

そうだ。そしてその吸わな過ぎるのが問題であって、細胞の中に水分は溜まり続ける。これは水分の出納、in-outに大きく関わるから注意する。なぜ必要かはまた教えるから、アルブミンの増減がまずは水分の出納に関わることだけ理解する様に。

白波 百合
白波 百合

了解っす!

じゃぁ次はお前だな。と山吹は進藤を見る。

講義は得意じゃないんだけどなぁ。と進藤は大きく伸びをした。

白波はいつもより賑やかな休憩室が何とも新鮮だった。

白波百合のノート 19

・アルブミンは浸透圧に大きく関わるから注意。

・浸透圧とは細胞内外の、濃度差を水分が均一にする。←白菜の塩もみの様な物だと理解。

・先輩にも友達がいた。(ちょっと変わっているけど良い人そうだ。)

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