浮腫みの話 その③  〜患う事で浮腫むという事〜

アルブミン

しかし此処まで顔が丸くなるとはな、山吹はひっそりと笑みを浮かべた。

休憩室にはわずかに風が流れている。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

しっかし涼しくなったなー

上代 葉月
上代 葉月

季節の変わり目だからね。うん。涼しい。

山吹 薫
山吹 薫

確かに、救急の患者が増えると季節の変わり目を感じるよ。

白波 百合
白波 百合

だからそういう所がっすね・・・

何がだ?と山吹は首を傾げ、白波はため息を吐く。しかし本当に涼しくなった。その気候とは裏腹にこの季節には身が引き締まる。これも習慣だという事だろう。

山吹 薫
山吹 薫

とにかく話を戻そうか。浮腫には大まかに血液の流れによる圧力、血管内の膠質浸透圧、リンパ管この三つで調整されているといったね。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そうそう。それが破綻する事で浮腫が出る事やね。

上代 葉月
上代 葉月

あと身体所見に現れるという事は体が危険を知らせているサインって事ですね。

白波 百合
白波 百合

あとあと、それには原因がある事っすね!

うん。と山吹は頷く。自分がこうやって後輩に指導するなど昔の自分からは決して想像はつかなかった。

山吹 薫
山吹 薫

先ずは血液の流れが阻害される時、特に静脈に血液が溜まりすぎる事場合が怖い。一つは肝硬変や肝障害の影響がある。内臓から集められた静脈は肝臓を一度通るのだけど、その流れが阻害されると当然浮腫む。

白波 百合
白波 百合

血液が心臓に戻ろうとする道が混雑していると逆方向に押し出されるって事っすかね?

上代 葉月
上代 葉月

そうやって細胞間質の方へ血液が押し出されて、もしくは血管に戻る際の圧力に打ち負けて血管外に水分が溜まる・・・って事ですか?

坪井 咲夜
坪井 咲夜

まさかウチの足の浮腫もそうじゃないやろな・・・

山吹 薫
山吹 薫

黄疸だとか肝機能障害の症状が出てないから大丈夫だろう。その場合には両方の足が浮腫む。他にも心臓自体に血液を十分に拍出でき無い時、それでも同様に浮腫む。肝臓よりその先の道が混雑する。という訳かな?

白波 百合
白波 百合

そしたら・・足が浮腫む所じゃすまなそうっすね・・・

ふむ。と山吹は頷く。この子もよく成長したと思う。そしてかつての指導者やその周りにいた矢鱈と癖の強い先輩達も同様の気分だったかとも思う。

山吹 薫
山吹 薫

そうだな。当然内臓も浮腫む。内臓浮腫と呼ばれる症状だね。消化管の機能は低下し痩せてきたり十分に消化吸収ができなくなる。他にも血液の道が閉ざされる時、それは血栓が静脈にできた場合に起こる。まぁこれも血液の流れが滞った時に起きる事だから因果関係は複雑だね。この時には片足だけが浮腫むから要注意だ。

白波 百合
白波 百合

なるほどっすね・・・浮腫み方の種類にも要注意っすね。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

確かに片足だけ浮腫むって別に両方じゃ無いからええやん!って訳じゃないって事やね。

上代 葉月
上代 葉月

別にええやん!とは思わないけど、要注意ですね。

しかし賑やかだと山吹はそう思う。あの病院を辞めてからしばらく静かな日々が続いていたというのに相変わらずの喧騒の中だと改めて思う。少しだけ風景に色が付いた。そんな気がする。

山吹 薫
山吹 薫

そして次は炎症が起きている時、血管は傷ついた場所へ血液、まぁその部位を修復するためにだけど、必要な血液を集めるために一時的に細胞間質への道を広げる。そしてそこからアルブミンなど分子の大きいものが細胞間質に流れ出した結果浮腫む。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

なるほど所謂キュウリの中に塩分が流れ込んでしまうんやな!

白波 百合
白波 百合

キュウリの小鉢理論っすね!

上代 葉月
上代 葉月

キュウリが浮腫むって訳・・・なかなか良いネーミングセンスだね。

うへへ。と白波は照れている。論点がよくわからなくなるな、と山吹は笑みを浮かべた。そういえば最近はよく笑っている。そうとも思った。

山吹 薫
山吹 薫

そして相対的に血中のアルブミンが減少して、相対的に細胞間質の浸透圧が増加する事でも浮腫む。

白波 百合
白波 百合

アルブミンはタンパク質の一種だから・・・ご飯が食べられ無い時っすね!

坪井 咲夜
坪井 咲夜

なるほどーそれで低アルブミン血症で浮腫む訳やな!

山吹 薫
山吹 薫

他にも腎機能が低下する事で、本来あまり排出され無いアルブミンが必要以上に排泄されてしまい同様の機序で浮腫む事がある。よって腎機能の状態もまたモニタリングする必要がある。

上代 葉月
上代 葉月

やっぱりいろいろ見る必要があるんですね。

そうだな。と山吹は白波にそう返す。正直白波の名前を聞いた時には驚いた。かつての指導者と同じ名前だとは何の因果かと山吹は思った。

山吹 薫
山吹 薫

他にもリンパ管が例えばリンパ郭清術後など、様々な理由で閉塞せざるを得ない時も浮腫む。それはリンパ浮腫と言って酷く浮腫む時がある。

白波 百合
白波 百合

その人はまだ見た事ないっすけど、辛いっすよね・・・

坪井 咲夜
坪井 咲夜

ほんまやな。確か浮腫んだ方の腕で血圧も測ったらあかんのやんね?

上代 葉月
上代 葉月

それはしっかり覚えているよ。なんか他人の事のように思えなかったから。

山吹 薫
山吹 薫

他にも血管の炎症であったり、特発的に生じる事もある。でも一番大切なのはその浮腫の原因を明らかにする事だ。浮腫んでいるからといって何も考えずにアプローチすると逆効果になる事もある。まぁ深部静脈血栓症に関しては予防が一番だな。何事もだけれど。

そうっすね!と白波は体を傾けながら大きく頷く。他の二人も同様に頷いている。

山吹 薫
山吹 薫

とにかく浮腫みと言うのは一概に浮腫んでいる。と判断してはならない事はわかったかな?とにかく臨床では尚更に。それに原因も多岐に渡り今回話したのは最も良く見るものだから覚えているように。原因の追究も忘れないようにな。

上代 葉月
上代 葉月

はい。わかりました。肝に銘じておきますね。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

はーいわかりました先生ー!

白波 百合
白波 百合

先生わかったっすー!

山吹 薫
山吹 薫

だれが先生だ。先生ではない。

山吹はそう答えながら窓の外を見る。すっかりと西日は陰っている。季節の変わり目の病院は忙しい。その喧騒の中でまた昔を思いだす。

指導者を始めその時の先輩たちは何をしているのだろうか。ふとそんな事が気になった。

白波百合のノート 51

・浮腫にもいろいろな原因がある。そしてそれは心臓や肝臓、腎臓といった主要な臓器が関与したり、深部静脈血栓症などの症状でもあるから要注意。

・浮腫だからといって安易に介入するのではなくその原因を詳しく精査する必要がある。

・先輩が何やら考えている。最近は特に何かを考えているようだ。

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