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なんとも心配して来てみたが、なんだ上手い事やってるじゃないか。と進藤守は山吹薫のデスクに寄り掛かりながら一息ついた。目の前の沢尻悠もいつもと同じ表情に近い。
そして呼吸不全の話を続けてきたが、状態にもよるがその際にもリハビリテーションは介入する事も多い。そして介入する時に考える因子もまた多く、一概に何が正解かはその時々による。よってまず念頭に置いて話を進めようか。
そうだねぇ。まずはそもそもの呼吸機能もまた大きく関係すると思うよ。いわゆるスパイロメトリーってやつだね。もっとも基本的な呼吸機能検査でやった人も多いんじゃないかなぁー。吸って吸って吐いて、呼吸機能を評価するやつ。
検診などでも行う時がある検査だな。これは大まかに肺活量と一秒量から呼吸機能を推測する。一秒量は一秒間に吐き出せる息の量だな。正常ならば70%以上息を吐ける訳だがこれもまぁ障害される事も多い。
何より坪井咲夜への外線をとり、たまたま近くにいた白波百合に声をかけたのは自分だった。その空気で状況は切迫している事は言い様のない空気でよく分かる。と進藤は思う。その空気はあの救急科で嫌という程経験した。
まずは測定結果は年齢などの因子から予測されたその人の正常値と比較される。そしてそれぞれ%肺活量、一秒率と名前を変えて数値に表さられてそれぞれの基準値となる。
まずは%肺活量が80%以下となる時、これは拘束性換気障害と呼ばれる。いわゆる胸郭や肺が何かで拘束されるように動きが十分では無くなりたくさん息を吸えなくなる病態とも言えるかもな。これはもちろん胸郭自体が硬く広がらない事の他に高度の胸水、横隔神経麻痺によるもの、肺切除後で元々容量自体が少ないと言った事や、高度の腹水貯留や排泄物の通過障害といった事も原因になる事も多い。
でも臨床で良く出会うのは、長期間の喫煙で肺や胸郭が硬くなってしまった状態や、高度の円背や側弯によって胸郭が広がらなくて、息をたくさん吸えない、吐けないと言った事かな。
進藤は何やら頭を抱える山吹薫を一瞥して、息を吐く。外線を繋いだ坪井の悲壮な表情、付き添っている白波百合と、桜井玲奈、状況が落ち着いてそれを山吹に伝えようとしたら、頬を押さえて押し黙る沢尻が居た。
話を続けようか。次に一秒率。これはまぁ本来吐ける筈の時間で息が吐けないと言った状態で、閉塞性の換気障害と呼ばれるな。もちろん努力的に腹筋を使って息を吐けない事もまたあるが、それ以上に上咽頭が腫れていたり、気管支の肥厚や肺胞が虚脱する事もまた影響する。
空気などの通り道が狭くなると、確かに勢いは強くなるけど、それ以上に押し出す力も多く必要になるからね。その力に打ち勝てないと素早く息を吐けないからね。
そして気管の肥厚と共によく見るのが肺胞の障害に伴う、虚脱だな。たくさん蓄えられた肺胞の中の空気を吐き切るまでに肺胞の通り道が虚脱する、潰れると言い換えても良いかもしんが、通過するまでに時間がかかり一秒率が延長する。空気が通る道が閉塞に近づく障害とも捉えられるな。
そしてそれらはしばしば合併する。高度に進んだCOPDがまさにそれだな。それに全ての施設でこれらの検査が行われる訳ではないが、予測は出来ると俺は思う。例えば極端に声を出す時間が減少していると肺活量自体の問題が考えられると思うし、その時には出来るだけ長く声を出してもらう、もしくは会話の言葉の数でも推測する事を俺はやっているな。それに咳が弱い、とか単語自体の声量が低下している時、それは一秒率が低下していると推測できると思う。まぁ基礎疾患やレントゲン各種データと照らし合わせながらだな。
状況はよくわからなかったが、しばらく二人のやりとりを扉の前で聞いていると、何となく状況は分かった。しかし山吹も成長したとも思う。
それに問診や聴診、触診といった事で胸郭自体の硬さや呼吸運動を知る事もまた必要で、喫煙歴や体重、BMIと言った事もまた重要になる。そして生活の中の息切れの程度もだな。
元々どれだけ動けていたかもまた、呼吸機能の予測にもなるね。例えば徐々に息切れする回数が増えてきたか、急激に息切れが生じていたかでも判断には大きく違いが出るし、その後のリハビリテーションの考え方も違ってくるね。
そうだな。例えば体重の減少や活動量の減少からは元々フレイルが進行しているとも予測できるから、リハビリテーションには栄養管理も含めた中長期的な戦略も必要だと思うし、逆に急性の発症であり、体重もまた保たれていたら治療の奏功によって短期の戦略が必要になるかもしれない。しかしやはり、体感的にはフレイルやサルコペニアの進行に伴い、なんらかの疾患が呼び水となって呼吸不全を発症してしまった。という方をよく経験があるよ。
しかし心配なのは坪井咲夜だと進藤は思う。何事もなければとも思うが、医療の発達には前にいた救急科で多くの事を経験できた。大丈夫だろう。そう思えるのもその経験があるからかもしれない。
まぁ何事も準備が必要という事だな。どれだけ初回の介入前に発症前の生活や状態を知る事が必要であって、病態の把握とその後の予測も十分に必要だな。そして初回の介入でその情報を元に呼吸機能を中心に全身状態の評価を行う。呼吸不全の状態は決して呼吸機能の話だけでは無いからな。
そういう事だ。本当に状態によるから大まかな事しか話せないが、それでも高度の呼吸不全に対しても対処が早ければ救命出来る可能性も高くなる。そして、それにはリハビリも必要だがな。
なるほどね。と沢尻は答える。やはり言葉尻になればなるほど言葉はか細くなる。何も起きなければ何も気に病まなくて良いのだ。身内であればあるほどそういう時は普通ではいられない。セラピストもまた人なのだ。進藤はそんな事を思いつつ、やはり語るのは苦手だ。そう思った。
山吹薫の覚え書 53
・換気障害は大きく閉塞性と拘束性に分かれる。しかしそれらは重症であるほど合併する事が多い。
・如何なるリハビリでも事前の情報をどれだけ集められるかが重要。
・こんな時何も出来ないのはやはり・・・
【〜目次〜】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
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