Spo2測定の話 その① 〜正常の中の異常〜

Spo2

1日の業務が終わると休憩室には西日が差し込む。オレンジに部屋を染め、山吹は煩わしそうにカーテンを閉める。

それは今まで通りの業務後に流れる風景だった。

白波 百合
白波 百合

先輩おつかれっすー!

ドアの音が鳴り響き、白波が元気良く休憩室へ入ってくる。

てっきり落ち込んでいるものだと思っていた山吹は面食らう。

山吹 薫
山吹 薫

どうしたそんなに。いつも以上に元気じゃないか。

白波 百合
白波 百合

先日、友達と呑みに行きまして、元気いっぱいっす!

そうか。と返答しながら山吹は内心ホッとしている。

白波 百合
白波 百合

先輩どうしたんすか!?元気ないっすけど、もしかして貧血っすか?酸素足りてますか?Spo2計りましょうか!?

山吹 薫
山吹 薫

うん。今まさに貧血になりそうだよ。

心配そうに、そして半分楽しそうに尋ねる白波を見て山吹は頭を抱える。

山吹 薫
山吹 薫

なら丁度良いか。Spo2を測ると言ったね。

白波 百合
白波 百合

うっ・・・確かにそう言いましたけど。

山吹 薫
山吹 薫

なら測ってもらおうか。

白波は視線を逸らす。山吹は片方の唇だけを上げて笑い、ポケットから器具を取り出す。

山吹 薫
山吹 薫

これはパルスオキシメーターだね。今、白波君が言ったようにSpo2を測定する。サチュレーションを測定すると言ったりする。それは何だ?

白波 百合
白波 百合

だからそれはSpo2じゃないんすか?血液の中の酸素の量を測ってるんすよね?

ふん。と山吹は鼻を鳴らす。白波は眉間にシワを寄せる。

山吹 薫
山吹 薫

話を続けようか。これで測定するのは経皮的酸素飽和度だよ。または血中酸素飽和度を見ている。飽和とは溶液に溶質が溶けている事で、その割合という事だからつまり?

白波 百合
白波 百合

ちょっとちょっと!難しい言葉がいっぱい出てきてるっす!

山吹 薫
山吹 薫

ふむ。まぁ、このパルスオキシメーターで測定しているのは血中の酸素の量では無いよ。血中にどれだけ酸素がヘモグロビンと結合しているかをパーセンテージで表している。

白波 百合
白波 百合

・・・それの何処が違うんすか?

そうだな。と山吹は顎先を摩りながら天井を見上げる。

山吹 薫
山吹 薫

先日君が作り出した、菓子の戸棚にはお菓子が沢山入っている。

白波 百合
白波 百合

なんすかいきなり・・・食べちゃダメっすよ?

山吹 薫
山吹 薫

食べないよ。戸棚に一杯お菓子が入っているから戸棚に対して菓子は大体割合的に100%入っているとするね。

白波 百合
白波 百合

いっぱい補充してるっすからね。

山吹 薫
山吹 薫

そうだ。なら僕があの戸棚の半分に文献やら書籍を追加したりする。戸棚の面積は凡そ半分になる。しかし菓子は一杯入っている。それでも大体、戸棚に対して中に入っている物の割合的には100%だ。

白波 百合
白波 百合

ダメっす!お菓子の量は半分になるっす。

山吹は満足そうに頷いている。白波は疑わしそうに眉間にシワをさらに寄せる。

山吹 薫
山吹 薫

そうだね。同じ100%でも君に重要なお菓子の量は半分だ。そしてパルスオキシメーターで測定できる結果にも当てはめる事ができる。数値が100%だからと言って、それは必ずしも血中の酸素の量が十分ではない事もある。心臓から出た血液は肺を通り酸素を得て末梢へと向かう。さて酸素は何によって運ばれる?

白波 百合
白波 百合

赤血球っす!

山吹 薫
山吹 薫

赤血球の?

白波 百合
白波 百合

・・・えぇとヘモグロビンっすね!

山吹 薫
山吹 薫

そうだね。酸素を持たない還元ヘモグロビンが酸素と結合して酸化ヘモグロビンとなって血中を流れる。そして抹消に運ばれ必要な組織へと酸素を与える。それをパルスオキシメーターを使用し、ヘモグロビンの割合を指先で測定する。

白波は自分の指先を目の高さまで上げて首を傾げる。

白波 百合
白波 百合

ヘモグロビンっすか?

山吹 薫
山吹 薫

そう。君のその細い指先が、必要以上に赤く見えるのも酸化ヘモグロビンが十分に巡っている証拠だね。

白波 百合
白波 百合

ここにヘモグロビンさん達が沢山居るんすねぇ。ここにヘモグロビンさん達がぎっしりといると、Spo2が100%になるんすか?

山吹 薫
山吹 薫

誰だよそれは。全体のヘモグロビンの数に対して酸化ヘモグロビンがその指先にどれだけの割合で運ばれているか。という事だね。当然、酸化ヘモグロビンが充足しているならば100%になる。

へぇ。と白波は珍しそうに指先に取り付けられたパルスオキシメーターを眺めている。

白波 百合
白波 百合

でもそれだったら酸素の量と言っても別に大丈夫なんじゃないすか?

山吹 薫
山吹 薫

健常人で運動するならばね。だけどもここは病院だ。例えばもちろん心臓や肺の疾患等で酸化ヘモグロビンの割合が減ったらSpo2は低下する。指先まで十分に血液が流れていないなら測定すらできない。それは血圧測定と脈拍測定の時に話したことを思い出せば良い。

白波 百合
白波 百合

う〜うっす。

山吹 薫
山吹 薫

なら逆にSpo2が100%でも異常である時もある

白波 百合
白波 百合

なんか矛盾していないっすか?

山吹 薫
山吹 薫

矛盾ではないよ。量と割合の話。つまりお菓子の戸棚とお菓子の割合の話を思い出すと・・・

白波は1度目を閉じてはっと目を開く。

白波 百合
白波 百合

ヘモグロビン自体の数が、例えば先輩のように貧血で赤血球数が少ないと、酸素の量は十分ではないって事っすね!

山吹 薫
山吹 薫

僕は貧血では無いけど、まぁそういう事だね。Spo2が100%だから正常では無い事が分かったなら十分だよ。他にも考える事は沢山あるけど・・・

白波 百合
白波 百合

はい!とりあえず糖を補給します!あっ先輩もコーヒーっすよね。

なにやらノートにメモを取ると白波は勢い良く立ち上がる。山吹は流されるままに、自然と頼むと答えている。心配するだけ損だった。と山吹は視線を逸らしながら胸を撫で下ろした。

白波百合のノート 8

・Spo2はヘモグロビン全体と還元ヘモグロビンの割合を測定している。

・量と割合は違う。割合が正常でも量が減っていると問題。

・病院では特にSpo2の値だけで判断しないほうが良い気がする。

・先輩は意外と分かりやすい。

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

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