はじまりの話 その②-1 〜まず入院時に考える事〜【白波百合とリハビリテーション】

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季節の変わり目は目まぐるしい。

白波はその大きな瞳と頭を繰る繰ると回しながら休憩室へと辿り着く。

それを見て山吹は僅かに笑みを浮かべつつ文献を揃える。

山吹 薫
山吹 薫

どうしたそんな賑やかな顔をして・・

白波 百合
白波 百合

賑やかじゃないっす。こうも忙しいのに先輩は何故故そんなに余裕なんすか・・・

山吹 薫
山吹 薫

まぁ慣れだよ・・・

救急病院に比べたら今の仕事は少しだけ余裕がある。といっても急患を受け入れても居るのだから忙しいのは忙しいが・・・慣れるものだな。と山吹は思う

山吹 薫
山吹 薫

そうだな。そろそろ患者様を任せてみようか。

白波 百合
白波 百合

本当っすか!?といっても今までは先輩におんぶに抱っこっすもんね・・・うす!ならば直ぐに初期評価に・・・

山吹 薫
山吹 薫

まてまて・・・何故そうも鼻息が荒いんだ・・・

白波 百合
白波 百合

人をイノシシみたいに!そうじゃないっす!やる気の表れっす!

猪というより犬だな。山吹はため息を吐く。それはそれでまぁ面白いのだが。と山吹はそう思う。

山吹 薫
山吹 薫

それで何をするつもりだったんだ?

白波 百合
白波 百合

えぇと患者様にご挨拶をして、関節の動きや筋力、他の所見がないかを確かめて、原因を明確にして、ゴールを設定して・・・

山吹 薫
山吹 薫

まるで学生のレポートのようだな。各検査項目から問題点を抽出してゴールを立ててプログラムを立案する。ボトムアップというやり方でまぁ正しい事だけど重要な事が抜けているよ。

白波 百合
白波 百合

むー相変わらず憎まれ口は変わらないっすね・・・そしてそれは何っすか!?

山吹 薫
山吹 薫

情報収集だよ。

ん?と白波は体ごと首を傾げている。今までは基本的に自分が指針を立てて白波に指導していた。リハビリの指示が出て患者は全て自分の担当として扱っていたが、、、そろそろ彼女にも働いてもらわないとな。山吹は白波がこの部屋に来るまででそう考えていた。

白波 百合
白波 百合

それって・・・当たり前じゃないっすか?

山吹 薫
山吹 薫

そうだな。全ての教科書にそう書いてある。しかしそれも基礎的な考え方を持ってそうするのとそうしないのとでは意味合いが変わってくる。

白波 百合
白波 百合

確かに・・・前は検査データや症状を見ていても目が滑って居たっすもんね・・懐かしい・・・

山吹 薫
山吹 薫

そんな昔の事ではないだろうに。

と言いつつ白波がこの部屋を初めて訪れてから随分と経つ。確かに早いものだと山吹は思う。

山吹 薫
山吹 薫

それで情報収集の時には何を考える?

白波 百合
白波 百合

それはもう患者様は今どういった状態で・・あるかっすか?いつも当たり前にやっていても何だか言葉にすると難しいっすね。

山吹 薫
山吹 薫

自身の考え方を言語化できないのは十分にプロセスとして構築できていない証拠だな。でもまぁ昔に比べて今どういう状態かはわかってきたんじゃないか?

白波 百合
白波 百合

む〜・・・でもお陰様で沢山勉強させて頂いたっすからね!みんな一緒に!

そうだな。と山吹はそう返す。確かにこの部屋は賑やかになった。空気が柔らかい。そう思う事も多い。

山吹 薫
山吹 薫

そもそも今の状態を推察するのは大切な事だが、忘れてはいけないのが入院時から既に退院支援を始めなければならないんだよ。

白波 百合
白波 百合

まだ入院したばかりなのにっすか!?

山吹 薫
山吹 薫

そうだ。予後予測と言ってしまえばそれまでだが、リハビリをしてからさてどうしましょう?では遅すぎるからね。

白波 百合
白波 百合

確かにそうであるっすけど・・・でも完璧に予後を予測するなんて難しいんじゃ無いっすか?

山吹 薫
山吹 薫

そうだな。僕らは神様では無いからな。予測外の事も沢山起こる。だからこそ、予後予測は複数行う必要が有る。

いつの間にか昔の指導者のような口ぶりになっている。山吹はそれが少し可笑しい。昔の事を最近よく考えるからかもしれない。そうとも思う。

白波 百合
白波 百合

予後予測を複数・・・っすか?

山吹 薫
山吹 薫

簡単に言うとこのまま順調に行った時順調に行かなかった時だな。病気が何の問題もなく改善し元通りの生活に何の問題も無く戻れる時。そしてそうじゃ無い時だ。

白波 百合
白波 百合

ふぅむ。でも目指す所は患者様の望む通りの生活に戻れるようにする事っすよね!

山吹 薫
山吹 薫

目指す所はそこだ。しかしそうでも無い事も多い。寂しいようだが、それもまた考えなければならない。退院の時期を決めるのは医師だが、そこには病棟スタッフやリハビリスタッフが退院後の生活をどう考えているかも重要な視点になる。

白波 百合
白波 百合

そうっすね・・主治医に全てを委ねる事はダメっすもんね。

山吹 薫
山吹 薫

そうだ。誰しも神様にはなれないからな。

そうっすね・・・と白波の顔は引き締まっている。誰しも神様にはなれない。そう言われたのは新人の時かと山吹は思う。気の遠くなる程昔だ。

山吹 薫
山吹 薫

まぁせっかくだから入院した時に何を考えるか。僕の考え方でよければ教えるが、自分で考える事も忘れないようにな。

白波 百合
白波 百合

うっす!でも・・・難しいっすね。

山吹 薫
山吹 薫

難しいし明確な答えも出ていない話だからな。だから僕の話に囚われずしっかり自分で考えるように。

ふむ。と山吹は白波に向き直る。その瞳はまっすぐと前を向いている。

いつまでもおんぶに抱っこをする訳にもいかないからな。

山吹は一度だけ頷いてみせる。白波はそれを見て首を横に傾げて見せた。

白波百合のノート 56

・退院支援は入院時から始まっている。そして予後予測も複数行わなければならない。

・退院は医師が決めるが、その意思決定を行う上でも病棟のスタッフの情報が必要。

・先輩が何だか少し遠くに感じるっす・・・

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