上代葉月の帰り道 その④ 〜いつもと違う帰り道〜

総論

「もうええって!帰らせて!」

その言葉は響いたのはある日のリハビリ室。上代葉月は自分の患者様へのリハビリを行いながら、その声の方を振り向く。

ずいぶん若い女の子の声だった。高齢者が多くを占めるこの病院でその声を聞く事は少なからずあるのだけどやはり珍しい。

「大丈夫っす!早く家に帰るためにもうちょっと頑張るっす!」

その声に応対するのは白波百合の声だった。珍しく困ったように腰と額に手を当てている。

「・・・もう疲れた・・・帰る。」

そう言って、白波百合を置いて車椅子を漕ぎ出した少女の後を白波百合は困り果てたようにトボトボと追っている。

年の頃は中学生くらいだろうか。随分と細身で髪は背中に一括りにされている。

どうしたんだろう?上代は一度首を傾げて自分の患者様へのリハビリを続ける。

その日の夕暮れの帰り道、上代はばったりと白波に廊下で出会う。

「お疲れ様。今日は何だか大変そうだったね。」

その声に白波はぐったりと肩を落とす。

「本当っすよー。もう絵に描いたような生意気娘っす。だけど・・・気持ちもやっぱり分かるっす・・・」

「そうなんだね・・・どうしたの?」

「部活の練習後にしばらくして動けなくなって、それでこの病院に運ばれてきたっす。大会前だったみたいで、すっごく落ち込んでて・・・状態は落ち着いたんすけどね。どうやら熱中症に伴う横紋筋融解症・・・との事っすね。先輩曰く」

なるほどと思いつつ、その疾患は初めて聞いたような気がすると、上代は思う。

それ以上に気になったのは部活の大会前に倒れたと言う事である。

「そろそろ休憩室に戻らねばならないっす・・・それじゃぁ葉月また後で!」

うん。と右手を振りつつ白波を見送りながら上代はちょっと自分の事を思い出す。

自分は高校のインターハイ直前に倒れた。

怪我ではあったけどそのシーズンの競技には復帰出来ずに、チームメイトにも迷惑をかけた。

その思いがあってか今でもそのチームメイトに顔を合わせる事は出来ていない。

その挫折の思い出はずっと今でも心に残り続けているし、きっとこれからも残り続ける事だろうと覚悟している。

何もかもが良い思い出として残る訳でもない。ずっと引き摺る訳でもないのだけど、それでも心の中には残り続ける。

上代は一旦病院の玄関へと向かう自分の足を引き止めて踵を返す。

今日の帰り道は、そのままではいられない。そう思った。

【〜目次〜】

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