免疫の話 その③ 〜異常な免疫反応と出来る事〜 【山吹薫の昔の話】

免疫

ふむふむ。と山吹薫は免疫の働きを頭の中で纏めてみる。しかしその脳裏では外敵と戦う岩水静と、それを指揮する石峰優璃が占拠している。果たして自分は何なのだろう。そう考えてみて、山吹は頭を横に振る。

石峰 優璃
石峰 優璃

大分頭はまとまって来たかね?

岩水 静
岩水 静

さぁ悩め新人よ!それが新人の仕事だ!

山吹 薫
山吹 薫

二人のイメージが強すぎるんですよ・・・

山吹の言葉に二人は同時に首を傾げる。頭の中などは伝わない。山吹は一度息を吐く。

山吹 薫
山吹 薫

その免疫応答が過剰に働いてしまう時、それがアレルギー反応として出るんですよね?自己免疫疾患もまたそのようなものでしょうか。

石峰 優璃
石峰 優璃

大まかに言えばな。ただアレルギーには抗原が存在する。動物の毛や食べ物といったものだな。それらに抗体が過剰に反応する。それはかゆみで済めば良いが、時には気管に炎症を起こし呼吸困難となるから注意だ。

岩水 静
岩水 静

それにアナフィラキシーショックというものもある。有名なのがスズメバチに二度刺される事だが、薬剤性もある。これは致死的になるから最重要だな。

果たしてスズメバチであったとしても、この岩水さんの皮膚を貫く事は出来ないだろうな。山吹はそんな事を考えた。

石峰 優璃
石峰 優璃

そして自己免疫疾患とは難病にも属していて、その原因は不明だ。細胞のエラーや異常な変化を遂げた免疫細胞、もしくは正常を異常と考えてしまう。多くは先天性だ。

山吹 薫
山吹 薫

それでも今はいろんな薬によってコントロールはされていますよね。

岩水 静
岩水 静

そうだな。長い治療を要する事もある。そしてそれはアレルギー、過敏症だな。それも関連してくる。1型アレルギーは即時型と呼ばれていて、その反応も迅速だ。肥満細胞に含まれるIgE、ヒスタミン等が関与してアナフィラキシーショックも含まれる。花粉症もまたこれだな。

石峰 優璃
石峰 優璃

そしてⅡ型は自己免疫疾患細胞障害型では自分の細胞膜が抗原とされてしまう。IgGやIgMがホルモンの受容体や神経伝達物質を障害してしまう。自己免疫性の溶血性貧血やバセドウ病、重症筋無力症などだな。

重篤な疾患が多いのだなと山吹は思う。臨床では見る事は多くはないがそれでもやはり見ない事はない

岩水 静
岩水 静

次はⅢ型だな、これは免疫複合体型と呼ばれていてⅡ型に関わる抗体が関わる。これは文字通り免疫複合体が異物として感知されてしまう。そしてこれは膠原病、膠原とはコラーゲンとも呼ばれ皮膚や関節、筋肉の組成にも使われる。それが障害されるから膠原病というのだな。全身性エリテマトーデスや関節リウマチも分類される。

山吹 薫
山吹 薫

だから関節や皮膚に障害がみられるのですね。

石峰 優璃
石峰 優璃

そうだな。そして最後にⅣ型、遅延型と呼ばれていて反応は最もゆっくりだ。接触性の皮膚炎もそうだが、臓器移植後の拒絶反応もまたそうだ。これは異常な細胞もそうだが正常な細胞もT細胞によって攻撃されてしまう。

ふむ。と山吹は腕を組む。これに関してはリハビリがどうこうする事は出来ないような気がした。その考えを察してか岩水はその巨大な手で山吹の肩を叩く。

岩水 静
岩水 静

何も我々は無力ではないぞ新人!例えば気管支喘息、これは重篤化する前に治療が必要だが、それに並行して呼吸指導も必要だ。口をすぼめてゆっくりと呼吸をする。ゆっくり吐く事を伝える事で呼吸苦を減らす事が出来る。

山吹 薫
山吹 薫

なるほど、膠原病、特に関節リウマチでは、運動機能の維持とその生活に対して福祉用具などの選定もまた重要ですもんね。

石峰 優璃
石峰 優璃

そして自己免疫疾患と言えど、生活の指導や症状のコントロールに合わせて運動を処方する。過度に運動の機能が低下すると、さらに症状は進む事もある。合併症を伴ってな。

山吹 薫
山吹 薫

確かに・・・症状の進行を遅らせたりその生活を維持できますもんね。今出来る事をやる・・・という事ですか。

分にはまだ出来る事は少ないけれど、まぁこれもまた努力だな。と山吹はそう思う。

石峰 優璃
石峰 優璃

そして適度な運動は免疫機能を上げる、というか下げない事に繋がるな。何事も体力があって困るものではない。免疫応答にも当然体力が必要だ。

岩水 静
岩水 静

栄養を摂取する事もな。有事の際に蓄えておく事だ!そしてバランスの良い食事は腸内の環境も良くする。そして運動は腸の運動もまた促進させる。腸の中に免疫細胞は多く住むからな!新人もまずは肉を食え!肉を!

山吹 薫
山吹 薫

肉だけじゃダメでしょうに。それに喉に詰めたらどうします。あっ・・・確かに高齢なほど食事に制限がかかったり、誤嚥のリスクもありますね。

石峰 優璃
石峰 優璃

長期間食事を摂れていないと腸管の活動性も衰える。絶食を余儀なくされる事もあるからな、これはバクテリアルトランスロケーション(BT)と呼ばれる症状を引き起こす。腸管粘膜の防御能が破綻し感染が生じる。誘引もないのに絶食中に発熱が続く、重症化すると敗血症性ショックに繋がる。

そうなると感染も増えてしまう。やはり安全に早期離床は必要だと山吹は思う。

岩水 静
岩水 静

そして我々は呼吸器合併症を防がなければならない、痰を出せずに感染を遷延させる。そのために呼吸リハビリと早期離床。ICUでの我々の役割の一つだな。

石峰 優璃
石峰 優璃

なんらかの感染症で重症化し、そして感染をし易い状態となる。そして更に重症化してしまうからな。

山吹 薫
山吹 薫

確かに僕たちにやれる事は多いですね。

岩水 静
岩水 静

そしてもう一つ大切な事がある!

何ですか?と尋ねる山吹に岩水は顔半分ほどに口を広げ、山吹の両頬をぎゅっと握る。

岩水 静
岩水 静

笑え新人!それもまた重要だ!

山吹 薫
山吹 薫

そう頬を握られては笑えませんよ。

確かにな!そう岩水は豪胆に笑う。そしてそれを見て石峰もまた腹を抱えて笑ってみせる。全くもって笑えない!山吹薫は口をへの字に曲げた。

山吹薫の覚え書 17

・アレルギーや自己免疫疾患、膠原病、それらに対して限定的であはあるがリハビリが介入できる。必要性も高い。

・腸内の環境を整えるために食事療法や運動療法が必要。もちろん活動性が許す限り。

・最後に僕が笑ったのは何時だ?

【これまでのあらすじ】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。』

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