栄養管理の話 その① 〜低栄養の概論と知るべき問題〜

栄養

日々の変化は緩やかに移りゆく。それは街中だけではなく休憩室でもまた同じだ。何だかいつもと様子が違うっすね。と白波百合は内海青葉をじっとみる。

白波 百合
白波 百合

あっ!思い出したっす!内海先生っすよね!?違うクラスの担任の先生っすよ!

山吹 薫
山吹 薫

僕の時といい、君の学生時代の記憶は一体どこに行ってるんだよ・・・

白波 百合
白波 百合

えへへー。でもちゃんと先輩の時と違ってちゃんと思い出したっす!

内海 青葉
内海 青葉

後輩ちゃんも酷いなぁー。まぁ、あまり関わりはなかったもんねー。

進藤 守
進藤 守

しかし、学校の先生をされていたんですね。

そうだよー。と内海は奇妙に大きく体を曲げる。それに合わせて白波も体を歪め、二人でえへへー。と笑い声を上げる。それを見て山吹薫と進藤守は深く深くため息をついた。

内海 青葉
内海 青葉

さぁさぁー。君達の考える栄養管理ってなんだろねー?新人ちゃんとは久しぶりに話すから楽しみだなー。

山吹 薫
山吹 薫

いい加減その呼び方は止めてください。ならまずは、栄養管理という事は広義です。ここでは臨床の事に絞ってお話します。まずは臨床での栄養管理とは現在では必須の治療の一つだと思います。それは方法は違えど、超急性期から回復期、在宅に至るまで基本となる治療の一つです。

進藤 守
進藤 守

そうです。薫の事は気軽にかおるんとお呼びください。そして栄養障害もまた大きな問題の一つです。無論、そう呼ばれる前でも確かに存在していて、注目される様になったのは現代であるのでしょうけど。なんらかの理由で必要な栄養が摂取できない、そしてその為に活気も出ずに活動量が減少する。そして日常生活にも支障を来しサルコペニアを呈する。そしていずれは種々の疾病に罹患、若しくは重症化を招くフレイルの状態ともなる。そういう事ですね。

白波 百合
白波 百合

ふむふむー。何だか難しいっすけど、つまりはお腹いっぱい食べられないから、元気も出ない!だから体が弱ってしまうから、どうにかしなきゃいけないって事っすね!

そういう事ーと内海は頬に人差し指を当てて大きく頬に弧を作る。こんな面白い先生だったんすね!と白波は内海を眺める。そして先輩が、新人ちゃんと呼ばれるのは何だか面白かった。

内海 青葉
内海 青葉

じゃぁーかおるん!後輩ちゃんと言う通り、極論すると沢山食べて沢山運動して老いても健やかに過ごせれば問題はないよねー。でもみんなそうなのかなー?

山吹 薫
山吹 薫

その呼び方もやめてください。そうだったら話は簡単ですが決してそうではありません。高齢になればなるほど加齢に伴い食事量も減少する。もしくは社会的な役割の変化、多くは配偶者の死去によって精神的な変化も伴い食事量の低下を来します。

進藤 守
進藤 守

それに嚥下や呼吸に関する筋力の低下に伴いムセ込んだり、今まで通りの食事も取れなくなる事、もしくは歯が抜け落ちるといった口腔内環境の加齢に伴う変化によっても食事量は減少するので、問題は社会的な部分も含めて単純ではありません。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。でもそれはある意味それは自然な事ではないんすかね?みんなおじいちゃんおばあちゃんになる事で、それは止められないっすし、だからと言って若者のように沢山食べて沢山運動!と促してもやっぱり受け入れられないモノがあると思うっす!

緩やかに動き続ける内海の体がピタリと止まり、大きく笑みを作りつつ白波を見つめる。その丸いメガネの向こう側の考えを、とてもじゃないが伺う事は出来ない。白波は不思議だなと首を傾げた。

内海 青葉
内海 青葉

ふむふむ。面白い後輩ちゃんだねー。なら理想的なサルコペニアを未然に防ぎ、低栄養患者が居ない朗々健康とした社会はどうすれば良いのだろうねー。

山吹 薫
山吹 薫

理想論を言うならば、まずは社会的な関わりでしょう。現在でも多くの先生方がそれに取り組んでおられます。サルコペニアやフレイルの危険性を周知し、そして食事を取るための身体的、精神的関わりの方法をみんなが理解する。そしてロコモーティブシンドロームのように身体の変化も防ぐ。個人レベルはもちろんですが、医療従事者だけではなく社会全体で取り組む事が必要だと思います。

進藤 守
進藤 守

それに誤嚥性肺炎のリスクの周知も必要です。食事形態の変化や安全な食事方法などリスクを未然に防ぎつつ、かつ栄養摂取の必要性の理解や指導。それを広く周知する。無論病院でもですが、それが必要だと思います。

内海 青葉
内海 青葉

うんうん確かにそうだねー。みんなが健康で、健康に対しての理解もあり、そして低栄養にならないように社会全体で支える!予防医学の必要性をより認知する!病気になったら病院にという考え方から病気にならないように!って感じに!・・・さて後輩ちゃんはどう思う?

白波 百合
白波 百合

いやー。先輩達みたいに難しい事は分からないっすけど、でもきっとみんなも知っているっすよ!ご飯を食べなきゃ病気になる。医食同源って言葉もあるっすよね?あと足は第二の心臓!なんて言葉もあるっすから!でもそれが出来る人は入院しないっすからねぇ。自分も気を付けなければいけないっす!

一瞬の静寂と集まる視線に白波の背筋は伸びる。なんなんすか?と首を傾げると、それ以上に体ごと首を傾げて白波の顔を覗く内海が居た。

山吹 薫
山吹 薫

時々、君は確信を突くというか、何というか・・・

白波 百合
白波 百合

だから何なんすかー?まぁ自分は先輩達みたいに難しい事を知らないだけっす!

進藤 守
進藤 守

いや、確かに百合ちゃんの言う通りだと思ってな。ちょっと見直した。

内海 青葉
内海 青葉

だねー。新人ちゃんには勿体無いくらいの後輩ちゃんだねー。ボクが言いたいのはそこなんだよねー。極論すると健康に気を付ける事の出来る人はあまり入院しない。もちろん不慮の事故はあるし、なんらかの不幸な疾患にかかる。だけどもボク的にはただ単純に食事量が減少した低栄養に関連する身体変化によって入院する事よりも別の問題への対策が必要だと思うのさー。もちろんそれは少なからずある事だけど、そして更に言うと低栄養に関連した疾患で入院する人は、そうなるだけの理由があるって事。単純に加齢による食事量の低下や運動量の低下だけでは述べる事は出来ないって事だねー。だからボク達は声高々に低栄養やサルコペニアやフレイルの危険性を周知し、指導するだけではなくて、そこに至った原因の本質に対して、アプローチしなければならないと思うのだよねー。果たしてそれは何なのかなぁー?

その前にちょっと休憩ー!と内海は右手を天井に上げて腰に手を当てる。やっぱり内海先生は面白いっす!と白波もまた笑みを作る。そして何だか先輩の昔のリハビリ室はこうだったのかな?そんな事を考えた。

白波百合のノート103

・栄養障害もまた社会全体で取り組まなければいけない事の一つ。

・栄養障害自体ではなく、そこに至る本質に介入が必要。

・内海先生の動きは面白いっす!

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

【総集編!!】

【これまでの話 その①】

【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】

コメント

タイトルとURLをコピーしました