栄養障害の話 その③ 〜フレイル・サルコペニア・カヘキシア〜

栄養

ふむ。と坪井は纏められたルーズリーフを眺めてみる。それがどうしても自分の母の事に繋がっている様で目を背けたくなる。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そんで、さっきから言ってるサルコペニアとフレイルってどんな事なん?ワードはよく聞くねんけど。

沢尻 悠
沢尻 悠

それなら先ずはフレイルからだねー。これは高齢になると生理的な予備能力が低下して何らかのストレスに対して脆弱性を呈して、まぁ疾患を患い易くなったり生活機能が低下するって事かな。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

それってある意味自然な事なんと違う?

沢尻 悠
沢尻 悠

そうとも言えるけど身体的、心理的、社会的が相互に影響してどんどん調子を落としてしまうって事かな?J-CHSという基準があって、体重の減少や筋力の低下、疲労感が強くなったり歩く速度が下がる、そして体操や運動習慣などの身体活動性の低下といった基準があるよ。それはすぐに出てくるから一度調べてみても良いかもねー。

そのJ-CHSを坪井はメモにとる。きっと母もまたこれに該当するのだろうだなんて考える。幼い頃は決して良い母ではなかった。とてもじゃないが好きだなんては思えなかったが今更思い出すなんてな。と自分を皮肉に思う。

沢尻 悠
沢尻 悠

そしてサルコペニアと言うのは「骨格筋・筋肉の減少」を意味する造語らしいねー。これにも基準があってすぐ出てくるよ。大まかに筋肉量の低下と筋力の低下、そして歩行速度が低下が項目だね。筋肉量自体は特別な機械が無いと難しいけど、例えば握力は腕全体の力と相関してるし、二の腕の太さが21センチ以下、ふくらはぎの太さが30センチ以下になると筋力低下の目安にもなるって言われているねー。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

へぇー。筋肉量が減少して筋力が低下して歩いたり身の回りがあまり出来なくなるって事でええんかな?

沢尻 悠
沢尻 悠

そうだねー。そしてその基準を満たしている事もまた条件だけど、この二つは良くオーバーラップするから二つとも覚えておくと良いよー。

なるほどと坪井は頷く。最後にあった時も母も随分と痩せていた。幼い時の母の記憶は殆ど無い。父と自分を置いて日本中を一人で飛び回っていた。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

つまりはフレイルはある意味全身状態に主眼を置いていて、サルコペニアは身体機能を主眼に置いて定義されてるんかな。

沢尻 悠
沢尻 悠

もしかした厳密に言うと違うのかもしれないけど、オレは分かりやすくそう思ってるよー。そして入院される患者様には必ず念頭に置いて評価をしたりカルテを読んだりするねー。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

リハビリがうまく進むかどうかって事なん?

沢尻 悠
沢尻 悠

それももちろん有るけど、疾患自体の治り具合にも大きく影響するからねー。体に栄養が満ちていて筋力も保たれていると予後もすごく良いし、そのまた逆もありえるからねー。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

入院前から全身状態や筋力が保たれていたかどうかの把握も大切って事やね。

母と再会したのは病室だったと坪井は思い出す。確か肺炎だった気がした。母は酷く痩せていた。そんな母を見てもどんな感情を浮かべて良いか分からない自分が酷く冷たく感じたのを覚えている。

沢尻 悠
沢尻 悠

うん。入院前からフレイルを呈していたりサルコペニアが進行した状態だと何かを患った時にそれもまた進行する。それらが進行した状態で治療後のリハビリテーションを行う時には時間も掛かる事が多いからね。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

なるほどなー。確かにこれは入院された時にしっかりと見とかんとあかんね。

沢尻 悠
沢尻 悠

そして後は心不全やCOPD、腎不全といった慢性疾患の有無もまたしっかりと見ておくことだねー。これらは既往歴に書かれていたとしても慢性的に患っているからね。それだけで人に比べて必要なエネルギー量は増えるし食事の制限から食事量も低下しやすい。疲れやすかったりする。よって普通に食事をしていてリハビリをしていても痩せる。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

確かに回復期でリハビリをしていて痩せていく人ってこう言った慢性疾患も合併していることも多いような気がするなー。

坪井は出来るだけ明るく沢尻にそう答える。母はCOPDだった。そして肺炎を起こし急性増悪を起こしていたのだ。自分勝手だと思った。

沢尻 悠
沢尻 悠

そして慢性疾患や癌といった体を消耗していく疾患は代謝自体に影響して、カヘキシア、悪液質も同義だね。そう呼ばれる。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

それって聞いたことあるけど癌の人がなるヤツやったような・・・

沢尻 悠
沢尻 悠

昔はそうだったけど最近は慢性疾患に関わる事も含めてそういうね。正直、サルコペニアやフレイルは周りの関わりで改善する事も多いけど、カヘキシアに関してはいつも頭を悩ませるんだよね。慢性疾患の急性増悪もまた視野に入れて皆んなで関わらないとダメだからね。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

それはそうやな。疾患と付き合って行かなあかんし、それだけ患者様もしんどいもんな・・・運動負荷にも気をつけなあかんしな。

今思えば自分を養うために仕事で自分を浪費していたのは理解できる。だけど幼い頃の記憶の喪失してしまっては今更普通の親子のように関われない。いつかきっと普通の親子のようになれるか。そればっかりは分からない。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

ふーむ。それにしても栄養障害の人のリハビリってほんまに難しいな。でもこればっかりは皆んなで関わらないとあかん事やな。

沢尻 悠
沢尻 悠

そうそう。皆んな得意分野も視点も違うしねー。一般病棟には特にそういう人が溢れてるから薫さんに聞いてみると良いよー。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そやなー。・・・そんで山吹さんの昔の話も聞かなあかんなー。

沢尻 悠
沢尻 悠

あの人中々話さないからねー。本当、憧れる昔の指導者さんと百合ちゃんの名前が一緒だからって毎日複雑な思いはしてると思うんだけどねー。絶対に表に出さないんだよね。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

アンタ・・・なんかサラッと重大な事を言うたな。

ん?と沢尻はすっとぼけている。天然なのか確信なんかホンマにわからへんなと坪井は目を細める。

沢尻 悠
沢尻 悠

ともかくお陰で良い休憩ができたよー。さーサマリー頑張ろー!

坪井 咲夜
坪井 咲夜

アンタの暇潰しに付きあえて光栄やわ。

沢尻 悠
沢尻 悠

本当!?どういたしましてー!

沢尻は飄々と腕をポケットに入れて病棟を去る。患者様の代わりに転んでしまえと思いつつ坪井は大きく伸びをする。どっこもかしこも問題だらけや!そう思う。だけども目を背けてはならない。そうとも感じた。

坪井咲夜のルーズリーフ 3

・フレイルは全身状態に主眼を置いて、サルコペニアは骨格筋量を主眼い置いたどちらも社会的に重要な概念だとウチは解釈する。慢性疾患の進行したカヘキシアは要注意!

・入院した段階でそれらをしっかりと念頭に置いておく。そして慢性疾患の有無も必ずチェック。

・やっぱりチャラいアイツは暇人や。

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