炎症の話 その② 〜傷がなぜ腫れたり熱を持つのか〜

浮腫

やっぱり薫さんをからかうのは楽しいなー!沢尻は両手を大きく延ばして見る。白波ちゃんがこちらを不思議そうに眺めていて、それに右手を振って応えてみた。

山吹 薫
山吹 薫

何をしているんだ?まずは分かりやすく、転ぶか何かして白波君が傷を負ったとする。

白波 百合
白波 百合

相変わらず不吉な例えっすねー。

沢尻 悠
沢尻 悠

そうそう。こんな可愛い子に怪我をさせるなんて酷いなぁ。

進藤 守
進藤 守

それじゃぁ薫が今ここで、転んで傷を負ったとする。

なんでだよ。と薫さんは眉間に皺を寄せている。付き合いが長い分、進藤さんは容赦ないなーと沢尻は笑みを浮かべる。

山吹 薫
山吹 薫

どちらでも良いが、傷を負った細胞はまず痛みを脳に伝える。これは痛みについての話で話した通りだ。そして炎症に関連する細胞や傷を負ったサイトカインと呼ばれるタンパク質が発生する。

進藤 守
進藤 守

まぁ分かりにくいがその場所が異常が起きていて、それを治そうとする一連の反応を起こすための伝達方法みたいな。感じか?

沢尻 悠
沢尻 悠

そしてそこにいろんな細胞が集まってくるんだねー。体も体温を上げて細胞たちが働きやすいように環境を整える。

白波 百合
白波 百合

視床下部のセットポイントが上がるって事っすね!この前聞いたっす!

そうだな。と山吹は答える。百合ちゃんが部屋に来る前、珍しく薫さんが昔の話をしていた。酔ってもないのに本当に珍しいと沢尻は思う。

山吹 薫
山吹 薫

よく覚えていたな。他にも白血球やマクロファージ自体が熱を産生する。そして炎症に関わる細胞が傷を負った部位へと向かいやすくする為に血管の透過性が上がる。

沢尻 悠
沢尻 悠

そうやって血が集まる事で熱を持ったり、腫れたり、赤くなったりする訳だね。熱感、腫脹、発赤が派生するんだよー

進藤 守
進藤 守

最初に痛みが生じているから、疼痛もそうだな。そして薫が傷を負った部分を動かせなくなるから、その部分の機能が障害される。いわゆる機能障害という奴だな。こうやって五つの兆候。疼痛、熱感、腫脹、発赤、機能障害が出現する訳だな。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。頭で考えている訳でもないのに体は賢いっすねー!

だねーと沢尻は応えながら山吹を見る。寒くなってくると人恋しくなるからかなぁ。と沢尻は思う。薫さんにも人間らしい感情があるんだなぁと可笑しくなる。

白波 百合
白波 百合

でもそう考えると、傷を負った部位を下手に冷やさない方が良さそうな気もするっすね・・・

山吹 薫
山吹 薫

それに関しては色んな考え方があるな。だけども侵襲自体で生じる痛みや苦痛を和らげる意味では重要だと思う。

進藤 守
進藤 守

まずは炎症を起こしている原因を探る事だな。原因を探るのは全てに共通する事だね。

沢尻 悠
沢尻 悠

そうそう。目に見える侵襲以外は意外と自分では分からないからねー。

そうだな。と山吹は頷いている。本当に自分では分からない物なんだな、と沢尻は目線を西日が溢れる窓へと向ける。

山吹 薫
山吹 薫

もう少し炎症について詳しく話そうか。まず外傷が生じた時、交感神経が反応する。身体の危機だからな。そして傷を負った部位の血管は収縮する。

白波 百合
白波 百合

いきなり炎症症状が始まる訳じゃ無いんすね!確かに血が出る時はゆっくりだった気がするっす!

進藤 守
進藤 守

そうだね。その後にいわゆる白血球がその部位へと向かう。そして単球やリンパ球、他にもマクロファージといった細胞が向かう。いつか薫に免役応答の話も聞くと良い。

沢尻 悠
沢尻 悠

だねー。薫さん意外と寂しがり屋さんだから喜ぶよー。

誰がだ。と山吹は目を逸らし、白波はそうなんすね!と体を僅かに跳ねさせる。薫さんも前ばかり見て周りのことを見ないのは変わらないなぁと沢尻はため息を吐いた。

山吹 薫
山吹 薫

ここには以前話した血液凝固もまた深く関連する。そして損傷部位に血管が集まりだして細胞が分化し肉芽が形成される。まぁ損傷部位を修復するという訳だな。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。それがいわゆる恒常性(ホメオスタシス)という訳っすね。

進藤 守
進藤 守

体の中の環境を一定にする働きの総称だから、傷が治るということはその言葉の意味する一つではあるが。まぁよく出来た物だ。

沢尻 悠
沢尻 悠

まぁ同じ環境ではずっといる訳にはいかないけれどねー。

薫さんの眉がピクリと動く。それでも昔と比べると随分と変わった気がする。きっと百合ちゃんのおかげだなーと思う。

山吹 薫
山吹 薫

恐ろしいのは術後でもそうだが、その傷がさらに感染する。創感染だな。傷を負った部位を清潔にしなければ傷が治るところではない。そこからさらに炎症が広がる。だから特に侵襲後のリハビリを行う際には創部の観察を必ず行う。

沢尻 悠
沢尻 悠

そうそう。もちろん病棟スタッフが厳格に管理してくれてはいるけれどオレらもしっかりしなきゃね。

白波 百合
白波 百合

そうっすね!さっきの炎症症状が広がらないように自分たちもしっかりと管理するっす!

進藤 守
進藤 守

そうだな。そして生化学検査からCRPの確認もしっかりと行わなきゃね。そしてWBC(白血球)の増減もしっかりと把握する。欲を言えば好中球などのそれぞれ特異的に反応する白血球を見つつ原因を探すことも必要だけどね。

沢尻 悠
沢尻 悠

まぁ一番大切なのはカルテを読んで、他のスタッフとコミュニケーションを取ることだねー。一人で出来る事なんて少ないんだから協力しないと!

沢尻は山吹をチラリと見る。その言葉に頷いている。本当にわかっているのかは疑問に思うけれど、まぁいつか過去を乗り越えないと先の話もないからねー。と沢尻は両手を頭の後ろで組んだ。

白波百合のノート 54

・疼痛、発熱、腫脹、発赤、機能障害が炎症のサイン。そして必ず原因を把握する。目に見えない事も多い。みんなで原因の把握を行う。

・炎症を治す一連の働きは恒常性の一部。そのために種々の細胞が働いている。

・沢尻さんは意外と良い事を言う。なんだか薫さんに言っているようだ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました