発熱と熱源の話 その② 〜そもそもなぜ発熱するのか〜

発熱
山吹 薫
山吹 薫

・・・で何だこれは?

白波 百合
白波 百合

だってみんな集まってるっすから。

デスクには種々のお菓子が広げられている。山吹は呆れるように頬杖をつき、進藤と上代は無言で菓子を口に運んでいる。

上代 葉月
上代 葉月

なるほどこれもエネルギーになる訳ですね。

進藤 守
進藤 守

そうだな。この一つ一つがエネルギーになる。薫は食べないからエネルギーが産まれない。熱も産生されない。

白波 百合
白波 百合

先輩大変っす!凍死するっす!

山吹 薫
山吹 薫

室温が一定なのに誰が凍死するんだ。

ちょっと百合・・・と声をかけつつ、上代は進藤が笑みを浮かべているのを見た。無表情だと思ったけれど決してそうでも無いらしい。

山吹 薫
山吹 薫

とにかく、視床下部のセットポイントの話はもうわかったな?

白波 百合
白波 百合

体の中の設定温度を決めてくれるって事っすね。

進藤 守
進藤 守

そのセットポイントが上がる時はわかるかな?

上代 葉月
上代 葉月

先ほど話していた、体に異常が起きた時ですね。

山吹 薫
山吹 薫

そうだな。例えば熱が出るのは色んな原因があるが・・・例えばインフルエンザなどのウイルスによる感染、唯の風邪でも良いが、外部からの侵害に対して免疫応答を円滑に進めるために体内の環境調整を行うためだ。

白波 百合
白波 百合

体の中で戦う環境を作るって事っすね!

上代 葉月
上代 葉月

でも手術の後とかでも熱は上がりますよね?それも感染って事ですか?

進藤 守
進藤 守

それはね。感染でもそうだけど体が炎症を起こした時に出る物質、総称してサイトカインと呼ばれるんだけど。それが関係する。

無口なようで流暢に話すんだなと上代を進藤を見て思う。それは山吹も一緒だから、それでこの二人は仲が良いのかとも思った

山吹 薫
山吹 薫

発生したサイトカインは血流に乗り、視床下部へと到達する。そしてそこで体内の環境を整えるためにセットポイントが上がるんだ。

白波 百合
白波 百合

なるほど、体は燃え上がり悪を打つ!というやつっすね。

山吹 薫
山吹 薫

何かに影響されていないか?だけどもすぐに体温は上がらない。エネルギーを産み出すにも時間が居る。

進藤 守
進藤 守

だから熱が出始めたら悪寒を感じる。熱の出始めはやたらと寒く感じるだろう?

上代 葉月
上代 葉月

なるほど。体内の設定温度が上がった事で相対的に体の現在の温度が低く感じてしまうから、寒く感じるんですね。

進藤 守
進藤 守

そうだ。だけど薫はお菓子を食べないから熱が上がらない。

白波 百合
白波 百合

先輩大変っす!ほら。このオレンジピールのチョコレートを!

お前ら楽しんでないか?と山吹は眉を釣り上げる。山吹さんにこんな事を言えるのは進藤さんだけだろうな。と上代は思う。

山吹 薫
山吹 薫

だから患者が悪寒を訴えたら体温が上昇する兆候だ。体温の上昇が見られた時には必ず悪寒の有無を聞くように。

白波 百合
白波 百合

まだ熱が上がるかの確認っすね!

進藤 守
進藤 守

他にもシバリング・・・震えの有無を確認する事が必要だ。それもさらに熱が上がる兆候だ。

上代 葉月
上代 葉月

寒いと震えるのには理由がある・・・とは思うんですがちょっと想像はつきません。

山吹 薫
山吹 薫

体温の発生の話に戻ると、筋肉で使うエネルギーが産生される時に熱が産まれるだろう?シバリングは筋肉のふるえ・・・とも表現できるかな?筋肉が同時に収縮弛緩を繰り返し、動く事で熱が生まれて体温を上昇させるって事だね。

上代は目を丸めて頷く。同時に自分がこの場に自然に居る事が不思議に思う。それは百合のお陰だろうけど、なんだか気持ちが浮き上がる。

白波 百合
白波 百合

じゃぁプールに入った後に震えるのは、体温を上げようと筋肉が頑張ってるからっすね。

山吹 薫
山吹 薫

状況はちょっと違うがな。その時には視床下部のセットポイントは上がっていない。

進藤 守
進藤 守

逆に言うと外気温が上がり続けた結果体温も上がる。それはうつ熱と呼ばれる。そして夏場によく聞く言葉だね。

上代 葉月
上代 葉月

熱中症、熱射病とも呼ばれるものですね。という事は感染などによる発熱とは大きく違うんですね。

山吹 薫
山吹 薫

そうだね。根本が違う。だから原因の精査は必要になる。そのために問診や各種の検査があるのだけどね。

そういって山吹がオレンジピールのチョコレートを口に運ぶのを上代は眺めた。どうやら押しには弱いらしい。百合の相手をずっとする訳だ。そして果たして理由はそれだけなのだろうかそう疑問にも思う。

白波 百合
白波 百合

でもそれなら視床下部さんもずっと体の体温を上げておけば免疫応答も強くなって風邪に負けなくなるんじゃ無いんすかね?

山吹 薫
山吹 薫

熱を上げるのにエネルギーがいると話しただろう。つまり普段の体温から熱を上げ続けるなんてしたらエネルギーなど枯渇する。

上代 葉月
上代 葉月

熱を出した後はぐったりしますもんね。

進藤 守
進藤 守

だからある意味、発熱時にはエネルギーが必要なのだけれど、消化管の働きも落ちるから難しくはなる。だから可能な範囲での栄養摂取を意識するのが必要だね。

チョコレートを口に運ぶ山吹さんを見て、百合は楽しげに体を横に揺らしているし、進藤さんは満足気に笑みを浮かべている。何の拘りだろうか気にはなる。

白波 百合
白波 百合

じゃぁモリモリ食べたらみんな元気になるっすね!

山吹 薫
山吹 薫

みんな君みたいに食いしん坊では無いからそうとも言えない。

白波 百合
白波 百合

なんすかー。それに食いしん坊じゃ無いっすー。

進藤 守
進藤 守

でもここで大切になるのが熱源の話だ。それによっては口から沢山食べさせる事自体が悪化させる要因となる事もある。

上代 葉月
上代 葉月

口から栄養を摂る事がですか?

進藤 守
進藤 守

そうだ。発熱はあくまで結果だから、その原因、、、、熱源が一番重要なんだよ。

うん。と上代は素直に頷く。進藤さんとは見た目に反してよく喋る人だと感心もする。山吹さんもそうだけど。日常会話の無い休憩室でも楽しく感じる。上代は休憩室の空気を大きく吸い込み目を閉じた。

白波百合のノート 44

・発熱にも視床下部のセットポイントが上がる発熱と上がらずに体温だけが上がるうつ熱がある。(熱中症や熱射病)

・発熱するにも原因があってその鑑別が重要。下手に口から栄養をとって悪化する事もあるらしい。

・上代もなんだか楽そうにしている。賑やかで嬉しい

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