窒息の話 その③  〜窒息を予防する為に私達が出来る事〜

急変

ふぅ。と白波百合はゆっくりと息を吐く。心の揺らぎが少しずつ収まって体が軽くなる。それに合わせて上代葉月も坪井咲夜も表情を和らげている。また心配かけちゃったっす・・・とちょっとだけ申し訳なくなる。

山吹 薫
山吹 薫

まぁもう一度言うが窒息というのは広い言葉だと僕は思う。そして今回話しているのはその中で上気道が狭窄、もしくは閉塞してしまう状態の話だ。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

それはわかっとるけど、急変といい、窒息といいならん事に越した事は無いわな!

上代 葉月
上代 葉月

そうだね。どんな病気でも予防が一番大切だと思うけど、やっぱり難しい事だよね。

白波 百合
白波 百合

でもでも!自分達に少しでも出来る事があって、患者様やそのご家族に手伝える事があったなら、やらなきゃなら無いっす!

そうだな。と山吹薫が言葉少なくそう答える。気が付かれないように向けられる視線から、きっと自分の事を心配してるっすね。と笑みを零す。

山吹 薫
山吹 薫

まずは誤飲に関してだが、これは加齢に伴いやはり生じる事も多い。別に食べさせたらいけない物を食べさせる事なんて誰もやらない。だけども普段と同じ食事をしていたのにも関わらず生じる事も確かにある。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

ふむふむ。それは普段の嚥下機能を見ている必要があるわな。口腔内に食べ物の残りが無いかとか、むせ込んでいないかとか、後はご飯の食べ方やな!こう一口を大きくたくさん食べようとするとそれもまたリスクやな!

上代 葉月
上代 葉月

普段の生活は簡単には変えられないもんね。だけども例えば食事のスプーンを少し小さくしたり、食事に使う道具の調整で変えられる事も多いかもしれないね。

白波 百合
白波 百合

そうっすね。案外自分では気がつかない事も多いっすから。後は普段話している時に喉に何か詰まっているような、ゴロゴロとしている音があっても要注意っすね!

そう話しながらきっと過去の自分に話しているような気分になると白波は思う。過去は変えられないし、決してそれは防げなかった事かもしれない。自分一人の所為でもない事は知っている。だけどもついそう考えてしまう。

山吹 薫
山吹 薫

他に僕らが出来る事は単純な事も多い。特に自分で痰を吐き出せない人に関してもそうだな。季節にもよるが口腔内から気道にかけて痰は溜まる。詰まるほどではなくても硬くなる。

白波 百合
白波 百合

それでは普段から加湿や口腔ケアが必要っすね!それで痰を柔らかくして聴診しながらしっかり吐き出してもらう。もしくは出せなくても看護師さんに頼んで吸引してもらうとか。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そやな。仰向けに寝たまま痰は出せへんしな。なんやったら病態が許す限りしっかりと起きる習慣も付けておく必要があるわな。

上代 葉月
上代 葉月

そうだね。リハビリや起きる前にしっかりと気道を綺麗にしていればちょっと安心だね。その習慣とやっぱり咳が出にくいとか弱いとか、痰が自分で出せるかどうかや多いか少ないかはしっかりとチームで知っておくべき必要があるね。

そんな自分の気持ちを知ってか知らずかさっきから先輩が自分達に何ができるのか、何をするべきかの話をしている。ただ慰めるのではなく、過去を乗り越えるために。

山吹 薫
山吹 薫

他にもたくさんあるが、それは基礎の基礎だな。無論意識障害が先行して舌根沈下の状態や喉頭浮腫が見られる時、他にも声帯自体の麻痺によっても障害は助長される。それは速やかに報告し医師と共に対策を練る。そして多くは痰の貯留も見られるからエアウェイの挿入や挿管されたとしても呼吸リハビリテーションを行う必要がある。

白波 百合
白波 百合

そうっすね。ある意味気道が確保されたらその原因と合併症の予防を行う必要もあるっす。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

ここでも原疾患の治療に合わせて合併症予防か・・・。まぁそんでもそうやって治療が奏功するように介入するのもうちらの仕事やからな!何もしないよりもやっぱり何か出来る方がええわ!

上代 葉月
上代 葉月

そうだね。でもどうにも出来ない事もあるけど、どうにか出来る事も確かにあるもんね。そのためのチームだもの。

そうっすね。と白波は答える。一人じゃないという事はなんとも心強い事だろうと思う。そして自分にも何かが出来るという事が分かるのは何だか気持ちも前向きになる。

山吹 薫
山吹 薫

とにかく気道の確保と異物の除去、そしてそれが進行しないように早期発見と予防。全てが防げる訳ではないけれど、それでも出来る事は確かにあるよ。そして次には再発予防だな。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

それが一番難しいわな。だけども他の急変もそやけど、急性期だけではなくどこにでもリスクは潜んでいるもんやなぁ

上代 葉月
上代 葉月

だね。それは私達だって無関係ではないもんね。

白波 百合
白波 百合

とにかく、窒息する原因に上気道の閉塞があって、それは食事や痰といった異物が詰まる事や意識障害に伴う舌根沈下、喉頭浮腫や声帯麻痺によっても起きて、そしてそれらは互いに相互しつつ病態が進むような気がするっす。

山吹 薫
山吹 薫

そうだな。その因果関係を検討しながら僕たちも出来る事をやらなければならない。もちろん予防をまず考える。誤嚥のリスクを考えつつ、痰が溜まる事を防ぎ、そして意識障害や喉頭浮腫、声帯麻痺といった様々な症状をリハビリの中でアセスメントする。そしてそのリスクが高い人ほどチームで共有し、在宅に帰る際の指導の一つにもなる。まぁ僕らが出来るのは多くは体位ドレナージや咳の練習、姿勢の調整や離床の習慣、そして口腔ケアの指導や誤嚥のリスク評価と情報提供。そして・・・

ちょっとまってめちゃめちゃあるやん!と坪井が口を弛緩させると、だな。と先輩が自分を見て困ったように笑みを浮かべている。なんて不器用な先輩なんすかねぇ。と思う反面、単純な慰め言葉より嬉しく感じる。

山吹 薫
山吹 薫

ともかく、当たり前の事だと思うがそれはとても重要な事だ。それに急変の中の一つであるから、他にも知らなければいけない事は沢山あるよ。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そやなぁ。でも一個一個調べるのは途方もない事やからな。こうやってなんかおかしい!もしかしてこれちゃうか?って思えるだけで全然違うと思うわ。

上代 葉月
上代 葉月

だね。何にも知らないのと、ちょっと知っているのでは全然違うからね。

白波 百合
白波 百合

そして怪しいと思ったらすぐに人を呼んだり、相談するっすね!何も無かったらそれは良い事っすから!

当たり前だと山吹はデスクに視線を戻す。その顔には笑みが浮かんでいるを白波は確かに見えた。あとは自分がどうしていくかっすね。と白波はぎゅっと右手を握った。

白波百合のノート 112

・加齢により誤嚥のリスクはその都度考える。むせ込んだり、食事が口の中に残っているなら要注意。声にも着目。

・排痰はしっかりと行う。口腔ケアや加湿からしっかりと気道を浄化していくことは重要。窒息は気をつけていれば予防できる事も多い。

・後は・・・自分がどうするかっすね!

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

【総集編!!】

【これまでの話 その①】

【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】

【時間がない人にお勧めのブログまとめシリーズ!】

【ウチ⭐︎セラ! 〜いまさら聞けないリハビリの話〜】

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