腰椎圧迫骨折の話 その③ 〜リハビリを始める前に必要な事〜【白波百合とリハビリテーション】

圧迫骨折

また日が短くなったな。山吹は窓の外を眺める。すっかりと朝晩は寒くなった。

山吹 薫
山吹 薫

それで、その方はどんな人なんだ?

白波 百合
白波 百合

ん?胸腰椎圧迫骨折の人で・・・

山吹 薫
山吹 薫

いいや。患者の話ではなく君がリハビリをする人の話だよ。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

へぇ。山吹さん、そんな話もするんやね。医療の話ばっかりすると思ってたわ。

山吹 薫
山吹 薫

それはどういう事だ?

別に〜と坪井は笑みを浮かべ、ふん。と山吹は鼻を鳴らす。白波の頬は上気する。

白波 百合
白波 百合

90歳代の女性で家では一人暮らしっす。身の回りの事は何とか出来ていたみたいっすね。お茶を飲むのが趣味で昔はお茶の先生だったらしいっす!流派まではわからないんすけど穏やかで小さな優しい方っす。何度も転けていて言葉の端々から多分家での生活は続けたいと思うんすけど、悩んではいるみたいっすね。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

なんか目の前にその人が有り有りとわかるなぁ。でも家はちょっと難しいんとちゃうんかな。転倒を繰り返してるみたいやし・・・

山吹 薫
山吹 薫

そして君はどうしたいんだ?

白波 百合
白波 百合

当然在宅復帰が目標っす!もちろん転倒をしないように対策をするっす!

山吹はそうか。とだけ答える。当然そうだろうと思っていた。白波はこういう子なのだ。本当に患者様をよく見て考えている。かつての自分とは全然違うと可笑しくなる。

山吹 薫
山吹 薫

その人の生活の背景や思いを汲み取る箏は大切だ。もちろん疾患の重症度も重要だし治療の進行もまた重要だけど、その人がどういう人であるかを知らなければならない。患者とセラピストとは言葉だけだ。お互い同じ人でその役割が違うだけというだ。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

なんだか山吹さんらしくないセリフやなぁ。でもうん。忘れそうになってたわ。

白波 百合
白波 百合

そうっすよね!頑張るっす!

だな。と山吹は答える。このセリフもかつて自分が教えてもらったセリフだ。あくまで患者は患者であり、名前よりも疾患名で覚えていたと思う。今となっては恥ずかしい。

山吹 薫
山吹 薫

そして受傷機転を考えようか。単純に後方へ転倒した。というよりも何度も繰り返し転倒していた。そして高齢の女性である事から骨折はしやすいと考えられる。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そやな。嫌な言い方やけどたまたま今回圧迫骨折というだけで、大腿骨の骨折だったかもしれへんしな。

白波 百合
白波 百合

そうっすよね・・・あとは円背の姿勢をしているっす。

山吹 薫
山吹 薫

ならばその姿勢で常に脊柱にはストレスが掛かっている状態という訳だ。そしてそれが長期に渡ると、その姿勢で脊柱を支える人体や筋肉もその姿勢を維持するために固まる。脊柱に生じた拘縮と行って良いかもしれない

それでその人はどういう人だ?指導者から何度もそう聞かれた。その声色は褪せる事なく頭の中に流れている。

山吹 薫
山吹 薫

一度固まった関節を伸ばすとなると時間は掛かる。しかし再受傷のリスクを減らすために姿勢の指導も必要だな。もしくは代わりの方法を探すか。といったところだな。それでその情報はどこから?

白波 百合
白波 百合

えっ?いや患者様からっすけど・・・

山吹 薫
山吹 薫

例えば家族や周辺の知人、他にもかかりつけ医や居ればケアマネージャーからの情報は?

白波 百合
白波 百合

それはまだ・・・・あまり・・・

山吹 薫
山吹 薫

ならばその情報も必要だ。患者様を知るという事は、自分の視点と患者様の視点だけではなくその人を取り巻く人の視点が必要だ。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

なるほどな。視点は色々必要やもんなー。ついつい自分の考えにとらわれる事もあるもんな。

坪井の言葉に山吹は目を背ける。今でもそうではないかと問われれば自信がない。

白波 百合
白波 百合

そうっすね。その人となりを知るために情報収集っすね。複数の視点が必要っす。

山吹 薫
山吹 薫

そうだな。それが方向性の大きな指針となる事が多い。他にも合併所は何かあるか?高齢者であればあるほど一つの疾患に囚われてはダメだ。まぁ高齢者で無くてもそうだけれどな。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

ふむふむ。しっかしなんか説教みたいになってません?

そんな事はない。と言いつつ山吹はそうかもしれない。と思う。過去の自分をきっと白波君に重ねている。と山吹はそう思った。

白波 百合
白波 百合

とにかく情報収集を多角的に行いながら、疼痛の評価と生活指導、神経所見を見ながら・・・って感じっすかね。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そやな。そんでコルセットが完成してから・・・離床やな。本格的な運動療法の開始って訳やね。

山吹 薫
山吹 薫

そうだな。まぁ頑張るんだよ。

白波は目を丸める。坪井は尊大な笑みを浮かべる。自分らしくない言葉だ。と山吹は思うが宙に漂う言葉の余韻は消す事が出来ない。

山吹 薫
山吹 薫

とにかく腰椎圧迫骨折は、この方は胸腰椎圧迫骨折は本当に多い疾患だ。誰もが通る道だとも思う。それに高齢になれば成る程誰もが経験する疾患の一つかもしれない。だからよく勉強するようにな。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

ウチもウチもー!勉強させてもらいますー。意外と優しい言葉もいえるんやね。山吹さん。

山吹 薫
山吹 薫

別にそんな事はない。

白波 百合
白波 百合

うっす!絶対にまた望む生活に戻せるように頑張るっす!

そうだな。と山吹は白波を見つめる。自分がどんな表情をしているかは分からない。それでも結局人と人なんだな。そう思えた。

白波百合のノート 61

・情報収集はその患者様に関わる人から多角的に行う。そしてその人となりを知る。

・一つの疾患だけに囚われない。リハビリを行う前からリハビリは始まっている。

・先輩に流れる空気が柔らかい。もっと頑張らないと・・・

【告知】

『note』で連載中の【内科で働くセラピストの話】ノベライズ版!本編で語られなかった物語。ブログを加筆修正とより詳細に描かれる内科で働くセラピストの話。

こちらもどうぞ皆様ご覧ください。

第一話 はじまりの話 その①    【内科で働くセラピストの話】|tanakannaika|note
春はこの街に心地良い香りを運んでくる。 白波百合(しらなみゆり)は背中に寄りかかるバックをぎゅっと握りしめたまま大きく息を吸った。 春先のなんとも言えない穏やかな香りが体の中を満たしていく気分がした。肩まで伸びた淡いしっかりとした茶味のかかった髪は一つにまとまり、歩く度に揺れている。大きくはない背丈で踏み出される...

コメント

タイトルとURLをコピーしました