腰椎圧迫骨折の話 その⑦ 〜第一歩を踏み出す前に必要な事〜【白波百合とリハビリテーション】

圧迫骨折

病棟の中央にある食堂には、昼時になると患者さまが揃ってくる。車椅子に乗った方、介護士に付き添われて歩く人とその姿は様々である。

その中に白波の受けもつ白髪の老女の姿もある。

良い感じっすね。誰に言うでもなく白波はそう呟く。今では毎食事の車椅子離床と、その後の整容動作、そしてトイレでは何とか見守りのもと自分で下衣の上げ下げが行えているらしい。

白波 百合
白波 百合

第一段階終了っすね。

ほっと白波は方を撫で下ろし休憩室へ向かう。その足取りはちょっとだけ軽い。休憩室に入るといつもと変わらぬ姿勢で山吹薫が居た。気だるげに椅子の背もたれに体を預け文献のページを捲っている。

白波 百合
白波 百合

先輩やったっす!患者さまの車椅子離床がちゃんと定着したっす!

山吹 薫
山吹 薫

それならば、とりあえずひと段落だな。

そう言うと山吹は白波の方を向き直り足を組む。ふふーん。と鼻歌をワンフレーズ漂わしながら白波は山吹の前に座る。

山吹 薫
山吹 薫

やけに上機嫌だな。

白波 百合
白波 百合

そりゃそうっすよ!ちょっとずつ患者様も生き生きしてきてるんすから!

山吹 薫
山吹 薫

それは何よりだな。・・・で、この先はどうなりそうだ?

白波 百合
白波 百合

それは・・・

とりあえず目の前の事ばかりに見ていて、勿論考えていない訳ではないけれど、どうしてもまだこの方が家で一人で生活する姿が思い浮かばない。

山吹 薫
山吹 薫

まぁそうだろうと思ったよ。この方に後必要な事は何だ?勿論自分の方向性を加味してだが。

白波 百合
白波 百合

えぇと、玄関から家に入るまでの段差昇降、後は居室からトイレまでの往復と・・・・後は食事の準備や入浴と・・・沢山っすね・・・

山吹 薫
山吹 薫

そこまで考えていたら上出来だよ。常に自分達の決めたゴールを念頭に置かないと例えば歩けるだけでどうする?といった話になりかねない。でもまぁ移動に関しては僕らが考える事が多いのは事実だけどな。

白波 百合
白波 百合

そうっすね・・・今やっと平行棒で立ち上がる事が出来るっすけど、そこからは歩く練習にはまだ踏み込めないっす。

ふむ。と山吹は細い顎先に右手を当てる。白波は仰ぐようにその顔を覗く。

山吹 薫
山吹 薫

確かに立ち上がる練習から歩く練習に移行する際には気を使う。もちろん練習中の転倒リスクも跳ね上がるからな。その際に事前に確認する事もある。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。それは何っすか!?

山吹 薫
山吹 薫

一つは入院前の移動能力、もちろん入院前から歩けていないと、すぐに歩く。という訳にはいかない。そして次に立って居れるどうか。歩く練習中に不安定になった時に立ち止まれるかどうかも重要な視点となる。

白波 百合
白波 百合

確かにそうっすね!なるほど段階的に確認するっすね!

目的が定まっていても手順が分からないと前に進む事も出来ない。一から教わる事は最初は恥ずかしかったな。と白波は思い出す。

山吹 薫
山吹 薫

そして歩き出す前に一度足踏みしてもらうと良い。片足で何かを支えにしても体を支えられないと足を踏み出す事も出来ない。

白波 百合
白波 百合

それならまず最初は平行棒の中でトライするっすね!両手で体を支えたら、足は確かに前に進めそうっす。

山吹 薫
山吹 薫

その時点で不安定だと、先ずは何かを支えに片足を上げる練習を僕はよくやるよ。その時に膝が折れたり大きくフラつけなければ足を一歩だけ踏み出してみる。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。いきなり歩く練習をやるのではなく段階的に進める。って事っすね。

もちろんだ。と山吹は答える。やけに今日は自分の目をまっすぐと見るっすね。と白波は不思議に感じる。

山吹 薫
山吹 薫

そして平行棒の中で歩いたら、次からはどんどん支えを減らしていく。もちろん、何も無しで歩くのが目標だが何事も段階というものがある。

白波 百合
白波 百合

それで歩行器で歩く、杖で歩くと段階的に進めるんすね!

山吹 薫
山吹 薫

色々な考え方や手法があるけどな。兎に角リハビリ中の時間以外の方が長いんだから、病棟で安全に歩いて移動する方法を考えて、並行してどうやって転帰先で移動できるかも考える。

白波 百合
白波 百合

確かに病棟で出来ていない事が家で一人では出来ないっすもんね・・・

今の現状は、車椅子でやっと起き上がる事が出来た所だ。入院して10日位で順調に感じるけれどゴールは果てしなく遠い。

山吹 薫
山吹 薫

福祉用具を使いながら歩く練習を行い、歩くために必要な筋肉も鍛えなければならない。単純に立ち座りを繰り返すだけでも腰や膝、足首周りの筋肉は鍛えられるから過負荷にならないように行う。

白波 百合
白波 百合

ロコモ体操にもあるっすね!かわいい名称で大好きっす!それにみんな分かりやすいっすからね!

山吹 薫
山吹 薫

まぁ確かに可愛いかもな、覚えやすくもあるし・・・兎に角歩く練習と歩くために必要な筋肉の練習を行う。そしてそこで僕らは考えなければいけない事もある。

ふん?と白波は首を傾げる。今の話を聞いているとリハビリが順調に進んでいくようなビジョンしか浮かばない。

白波 百合
白波 百合

どういった事なんすか?

山吹 薫
山吹 薫

合併症の話だよ。

山吹は白波を見て一度だけ頷いた。ちょっとだけ言葉が重い。白波はそう感じた。

白波百合のノート 65

・歩行練習は段階的に進める。最初に立っている練習、足踏みをする練習そして安全を確保して段階的に歩く練習っす!

・リハビリ時間よりも病棟の生活の方が長いから、病棟で安全に移動する方法も考える。

・自分の患者様は無事に歩けるようになるっすかね・・・

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