急性期と回復期のリハビリの話 その①  〜お互いから見たリハビリテーション〜

リハビリ

西日も陰る休憩室で白波百合は先日内海青葉から貰った月世界と呼ばれる大小二つ並んだサボテンを撫でる。その針と呼ぶには心もとないそれは、なんだか心地良い。ちゃんと先輩はお世話をしてるっすね。そんな事も思った。

進藤 守
進藤 守

よぅ。久しぶりだな。薫は?

白波 百合
白波 百合

なんか呼び出されてどっか行ったっす!進藤さんもお久しぶりっすね!

ここで会うのはなと進藤は笑みを浮かべる。そして続けるように休憩室のドアは再び開く。

沢尻 悠
沢尻 悠

おっつかれさーん!みんな大好き沢尻さんだよー!

桜井 玲奈
桜井 玲奈

沢尻さん。そんな品の無い挨拶はおやめなさいな!そして・・・薫さ・・山吹さんは?

白波 百合
白波 百合

みんなお揃いで先輩にご用っすか?先輩は今用事で席を外しているっす。

沢尻 悠
沢尻 悠

そうかー残念!ちょっと山吹さんと回復期の管理者さんがバチバチしたらしいじゃん!大変だったねー。

またお会いできませんでした・・・と肩を落とす桜井玲奈の横で沢尻悠はひょうひょうとそう話す。なるほどその事っすねと白波はどこか居心地が悪くなる。進藤守も口には出さないけどその事で来たんだろうと白波は思い。実はっすね・・・とその顛末を三人に話す。話し終わると桜井は腕を組んでむぅ!と眉を釣り上げる。

桜井 玲奈
桜井 玲奈

なんと山吹さんにそんな失礼な事を!白波さんもお気になさらずに!私(わたくし)もあの管理者は我慢なりませんの!

白波 百合
白波 百合

いやぁ自分が原因を作ったかもしれないっすから・・・なんとも・・・

進藤 守
進藤 守

百合ちゃんは気にしなくても良いよ。薫も大人気ないしな。

沢尻 悠
沢尻 悠

まぁそれは昔からだからねー。それにまぁ言い方が悪いだけで、でも決してその人も間違っていないかもしれないから難しい事だよねー。

どういう事ですの!?と憤慨する桜井に沢尻は両手をひらひらとさせる。しかし自分が引っかかっているのはそうなのだと白波は思う。それはきっと先輩の下で学んだから感じる気持ちなのだ。

進藤 守
進藤 守

薫が大人気ないのは置いておいて、そうだな。回復期で急変が起こってしまうという事は確かにある事だ。しかしそれは多くな要因がある。その一つにそうだな・・・急性期と回復期は大きく何が違うと思う?

白波 百合
白波 百合

それは・・・今居る急性期では発症直後で病状が落ち着いていない人が多いっす。そして中心は治療となってそれに合わせて自分達がリハビリを行うんすよね!合併症予防と廃用症候群予防って感じっす!

桜井 玲奈
桜井 玲奈

私達が普段いる回復期病棟では、治療がひと段落して、病状が落ち着いている人が多いですわね。そして多くが日常生活で必要な動作を獲得して転帰先に向けたリハビリを行う所でもありますわね!

沢尻 悠
沢尻 悠

そうだねー!言い換えれば、回復期では急性期のように積極的な治療や検査が行われる場所でないって事だね。いわゆる一般的なリハビリテーションの運動や動作の練習、家事や買い物といった日常生活を構築する物事に対しての練習を行う場所である。って事かな。

確かにと白波は思う。こうやって漠然と急性期と回復期の違いは考えていたし、実際に定義ではなく働いてみて分かる印象というものがある。そして自分のモヤモヤの正体はそこにあるような気がするっすとも思う。

進藤 守
進藤 守

二人の考えているイメージの通りだな。急性期や回復期を問わずに目的は患者様の早期退院だ。それは変わらない。病院は長く居る場所ではないからな。ただその場所場所で患者様の状態や行われる医療やリハビリの目的や手段が違うと言った所だ。

桜井 玲奈
桜井 玲奈

なるほどですわ。例えば回復期病棟では退院するに必要な身体機能や動作能力が課題となりますの。それを身につけるには長い時間が掛かりますわ。中~長期的な介入ともなりますわね。だけども治療は終了している方が多くてあとはリハビリって人が多い所ではありますの。だから積極的な治療や検査もまた必要な時にしか行われない事が多いですわね。

白波 百合
白波 百合

そう考えると急性期では退院するには病状の安定っすね。そのためにリハビリを行うっすから。もともと軽症の方や、身体機能を落とさずに病気が緩和した方は短期間で退院される事が多いっすね!そして中長期的にリハビリが必要だと思われる方は回復期病棟に移る事が多いような気がするっす。

沢尻 悠
沢尻 悠

二人とも二年目ともなるとしっかり分かってくるじゃーん!白波ちゃんの言ったことがまずは一つのポイントだね。山吹さんから言われたんじゃない?回復期病棟は健康で状態の良い人が行く場所というよりも、急性期で自宅に帰れる程、軽症ではなくて、逆に重症や病状が安定するまでに時間がかかった人が、長期のリハビリが必要になっていく事も多いって。

そうなのだと白波は思う。回復期病棟に行くには決して疾患が完治してからと言う訳ではない。そうなのだ。

白波 百合
白波 百合

前に聞いたっす。今考えると良く分かるっすけど、回復期病棟に移る必要性があるという人は、もちろん整形疾患の術後などしばらく様子を見る必要もある方も多いっすけど、急性期病棟で病状が安定するのに時間が掛かるほど重症な人も多いっすね。そして病状の安定とはその病気が完治することではないっす。決して現段階では悪化する兆候がないという事っすよね。

進藤 守
進藤 守

そうだな。もちろんいろんな要因はある。だけども元々の発症が重症であるか、入院中に急変する、病状の寛解が長期化した要因がある人という事だから言わんとする事はわかるな。

桜井 玲奈
桜井 玲奈

それは・・・誰しも急変するリスクがあるという事ですわね。それに一度落ちた身体機能を病前まで回復するには長い時間がかかりますし、必要なサービスの調整を行うにも時間は掛かりますわ。

沢尻 悠
沢尻 悠

そうだねー。そして病状が安定しても急変のリスクはあるし、特に慢性疾患は完治する事は少ない。そしてそれらの疾患は中~長期的な経過で徐々に増悪する事が多いんだよねー。だから回復期での急変は緩やかにでも確かに進行する事もある。そのためにちょっとここでお互いのリハビリに必要な事を考えて見ようか。

その珍しくまっすぐとした視線の先で白波はハイっす。と答える。言葉にしてしまうには呆気ないけれど、その過程を考えてみれば誰かが頑張れば良いとかそういう単純な問題ではない。それが自分のモヤモヤの正体なのだと白波は一度瞳を閉じた。

白波百合のノート121

・急性期と回復期ではそもそも目的が違う。そして期間もまた違いそこで働くセラピストに求められる事も違う。

・回復期病棟に行く人は病状が完治した人ではなく、病状が一旦安定している人。そして病状の進行は在宅と同じように緩徐に進む。

・自分のモヤモヤは単純な事では無いらしい。

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

【総集編!!】

【これまでの話 その①】

【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】

【時間がない人にお勧めのブログまとめシリーズ!】

【ウチ⭐︎セラ! 〜いまさら聞けないリハビリの話〜】

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