炎症の話 その③ 〜身近にある炎症の傾向と対策〜

呼吸

ふむ。と進藤守は腕を組む。三人が店以外で揃うだなんて久しぶりだ。そんな事を考えていた。

進藤 守
進藤 守

炎症のざっくりしたイメージは付いたかな?

白波 百合
白波 百合

もちろんっす!

沢尻 悠
沢尻 悠

さすが百合ちゃん!

山吹 薫
山吹 薫

何を笑ってるんだ?

うへへと頬を緩ませる白波を進藤は眺める。この子の存在はやはり山吹にとって良かったのだろう。と思う。

山吹 薫
山吹 薫

最初に話したけれど、特に緊急入院の時にはその炎症の渦中でのリハビリを行わなければならない。その際にまず僕が気をつけている事は苦痛の除去だ。

白波 百合
白波 百合

痛み・・・って事っすか?

進藤 守
進藤 守

そうだな。痛みは続くと当然辛い。その痛みの原因をしっかりと評価して情報を共有する。そうでないと主治医も疼痛コントロールのための薬を処方できないからな。

沢尻 悠
沢尻 悠

他にも痛みがどうやったら楽になるのかも一緒に患者様と考えないとねー。姿勢だけでも変わる事も多いし、訴えを傾聴するだけでも気が楽になる事も多いからねー。

うっす!と白波は大きく頷く。こうも素直に話を聞いてくれるのは、話している方にとっても話し易くなる。学ぶ才能というのもあるのだろうと進藤は考える。

山吹 薫
山吹 薫

そしてこの時期に多いのは肺炎だから、その際には呼吸理学療法が必要となる。例えば痰の出し方や安楽は呼吸方法・・・といった練習が必要だ。もちろんそれは肺炎だけではないけれど、呼吸器の合併症予防自体が炎症を抑える方法ともなる。

進藤 守
進藤 守

それに誤嚥性肺炎も良く見られる。これに関しては適切な栄養摂取の方法や口の中の環境を良好に整える必要がある。

白波 百合
白波 百合

確かにこの時期は肺炎も多いっすからね。この病棟に来て冬が恐ろしい事が初めてわかったっす・・・

沢尻 悠
沢尻 悠

だよねー。本当にバタバタするしねー。あと体が動きにくくなるから骨折の術後も増えるしね。

だな。と進藤は応える。そして白波が来る前の、沢尻がこの病棟にいた時の事もなんだか思い出す。今とは違う賑やかさがそこにはあった。

沢尻 悠
沢尻 悠

骨折の術後も炎症症状の真っ只中だからねー。それに痛い!だけどもね。痛みが治まるまでじっとしている訳にも行かないからねー

白波 百合
白波 百合

関節が固まったり、筋力が落ちたりするからっすか?

山吹 薫
山吹 薫

確かにそれもあるが、先に話したサイトカイン、プロスタグランジンなどの痛みを伝える物質がその場所に滞ると痛みは続く。そのために痛みのコントロールを行いながらしっかり動かす必要がある。

進藤 守
進藤 守

まぁ簡単に言うと血の巡りを良くして悪い血を流すって事だな。

白波 百合
白波 百合

なおさら痛みの評価とそのコントロールが大切っすね!

昔はこんなに薫が話す事なんてなかったから、一方的に沢尻が絡んでいただけだけど、それはそれで薫のために良かったのだろうと思う。

沢尻 悠
沢尻 悠

でもリハビリを進める事自体が炎症症状を事前に防ぐ事にも繋がるんだよー。例えば転倒を予防する事はそのまま骨折の予防ができて、手術もしなくて済むしねー。

進藤 守
進藤 守

他にも適切な栄養摂取方法を検討すれば誤嚥性肺炎予防にもなるし、感染症に対する生活指導を行えば肺炎予防にもなる。

山吹 薫
山吹 薫

あとは早期離床を行えば、新たに生じる肺炎予防も行えるし尿路感染症の予防も行える。

白波 百合
白波 百合

尿路感染症・・・っすか?

もっと昔の事を思い出すと、こんなに穏やかに休憩室で過ごす事などはなかったな。と進藤は笑みを浮かべる。山吹の新人の頃は特にそうだった。

山吹 薫
山吹 薫

そうだ。簡単にいうと殆ど臥床していると膀胱の中に菌が生じる。トイレでの排泄へとうまく結びつけるとその菌は繁殖せずに熱を出す事も少なくなる。

沢尻 悠
沢尻 悠

だけどもそれには転倒のリスクも生じるから難しいところなんだよねー。

白波 百合
白波 百合

確かにそうっすね。でも入院直後からリハビリするのは大切っすね!

進藤 守
進藤 守

まぁ誤解もされる事も沢山あるがな。だから十分な必要性の説明をする事が必要だな。生活指導とその理解は十分な効果を発揮する

そうだなと薫が答えている。随分とまぁあの生意気な目つきの悪い新人が丸くなったと思う。そして急に昔話なんてするのだから歳はとりたくないものだ。

山吹 薫
山吹 薫

しかし逆に言うとリハビリが進まないと新たな炎症が生じてしまう事もまぁある。それは全身状態と比例するから難しい。

進藤 守
進藤 守

それに慢性化する炎症もある。多くは慢性疾患、COPDや心不全他にも色々と言ったところかな。それに慢性、、と名の付く疾患は慢性的に炎症が続く事もある。

沢尻 悠
沢尻 悠

ガンもそういう事だね。難病だってそうだからみんなで考えていかないとねぇー。

白波 百合
白波 百合

そうっすね!いろんな方法はあるけれど皆んな目的は一緒っすからね!

だな。と薫が穏やかな顔の儘に答えている。昔話をする事は過去の事を受容し始めているのだろうか。そんな事を進藤は考える。

だけども、過去の話にするにはきっと薫の中では何も終わっていないのだろう。さよならも何も無かったのだから。進藤は再び腕を組む。季節は巡りもうすぐ冬だ。指導者が居なくなった冬が来る。

白波百合のノート 55

・炎症の原因に対して早期からリハビリを行うメリットは大きい。でも患者様は辛いから十分な説明と指導が必要。

・患者様の生活が落ち着くとそれ自体が新たな炎症を防ぐ事に繋がるので頑張る!

・進藤さんがなんだか寂しそうな表情をしてるっす・・・

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