腎機能の話 その② 〜生化学検査の中の腎機能とその障害〜

生化学検査

休憩室の音がいつもより大きい。山吹はそう感じる。

おそらく白波の同類項が居るからだと思った。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

なーなー。ここ始めて来たけど居心地がええな!

白波 百合
白波 百合

そうっす!お腹が空いたらお菓子もあるっすよ!

坪井 咲夜
坪井 咲夜

それもええなー!楽しみにしてるー!

白波 百合
白波 百合

うっす!

山吹 薫
山吹 薫

・・・そろそろ話に戻ろうか。

はーい!と二人は声をそろえて山吹にそう答える。学校の先生には決してなれない。そう思った。

山吹 薫
山吹 薫

腎臓は主に濾過と再吸収を行う事は話したね。その結果、体液を量、質共に調整している重要な場所だ。

白波 百合
白波 百合

要らないものを体の外に出したり、必要なものを体の中に戻すだけじゃ無いんすか?

山吹 薫
山吹 薫

もちろんそうだが、前に話した電解質もまた大きく関わる。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

電解質?

白波 百合
白波 百合

そうっす!とても大切な物質で、それが崩れると神経がうまく働かなかったり、細胞自体の動きが上手く行かなくなるっす。Na-Kポンプ関連っす。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

なるほどなぁ。老廃物だけの話とはちゃうんのやな。

そういう事だね。と山吹は返す。ちゃんと覚えているじゃないかと少しだけ関心もする。

山吹 薫
山吹 薫

先ずは生化学検査で尿素窒素(BUN)とクレアチニン(Cr)を見た事があるだろう?尿素窒素はタンパク質の代謝産物で、クレアチニンは筋肉が働いた時に代謝されるクレアチニンリン酸の代謝産物だ。本来これは腎臓から排出される。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

なるほど!やったら腎臓が働けないとそれが溜まるって事やね!

山吹 薫
山吹 薫

そうだ。だから単純にそれら二つの数値が上がっていたら、腎臓の機能が低下していると考える。クレアチニンは再吸収されないから、腎機能障害を疑う際にはよく見ておくように。ただし、尿素窒素は脱水でも上昇するから、身体所見も必ず見る必要がある。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。逸脱酵素とはまた別の理由で検査データが上がるんすね。

山吹 薫
山吹 薫

よく覚えているじゃないか。臓器が障害されて酵素が逸脱するのではなく、排泄すべき代謝産物が蓄積してデータが上がる。よってそれで機能が下がってる事が分かるということだ。

白波は片手をぎゅっと握る。ちょっと達成感を感じた。そして咲夜の方を見る。咲夜は目を丸めて頷いている。

山吹 薫
山吹 薫

しかし、この二つは他の障害によっても上昇するからこの二つだけで判断するのは危険だね。そのためにクレアチニンクリアランス、GFRを確認する。これは腎臓の濾過量を直接表すもので、まぁ計算式もあるのだけど生化学検査結果の中に記載されてるから、それも異常がないかを確認する。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

めっちゃ見るやつがあるやんー!

白波 百合
白波 百合

本当にそうっすよー!

まるで示し合わせたかのように、同時に仰け反る二人を山吹は眺める。

一気に話しすぎたかとも思う。

山吹 薫
山吹 薫

まぁつまりは、尿素窒素、クレアチニン、GFR。先ずはこの三つを生化学検査の中で確認して、腎機能に障害がないかを確認すると良い。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

でも一般病床みたいにそんなに検査を沢山する訳でも無いし、わからへん時もあるやんね?

白波 百合
白波 百合

確かに回復期病棟とか、他の場所だったら異常がない限り検査をしない時も沢山あるっすもんね。

山吹 薫
山吹 薫

その時は身体所見からも予測できる。濾過が出来なかったら尿量も当然減る。もちろん心機能が低下して腎臓に流れる血流量が減ることも考えられるが、どちらにしても尿量の減少は特に注意しておいた方が良い。それを報告すべきだよ。

白波 百合
白波 百合

患者さんの尿量が減ってきたらアレっ?と思ったら良いっすね。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そやね。体も浮腫んでくるやろし、でも老廃物が溜まりすぎたらどうなるんやろ?

山吹 薫
山吹 薫

中枢神経に作用した時が重篤だ。尿毒症は聞いたことがあるだろう?最悪昏睡に陥ることもある。

それは怖いなぁ。と坪井はそう零す。

山吹 薫
山吹 薫

怖いんだよ。そして腎機能の障害が長期間続くと、腎不全となり自分で濾過が行えなくなるから透析が必要となる。人工の器具でその機能を代償する。そこまでする必要が無い人もいるが、それでも腎機能に障害があることは変わらない。なので検査データや身体所見の推移は念頭に置いておくように。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

でも腎不全になったら、すぐにめっちゃ良くなる訳でも無いやん。リハビリはどうしたらええのですか?運動したらあかんの?

坪井は不安そうに山吹を見上げる。猫を被っている時より、普段の仕草の方が可愛いのが何とも不器用ではあるけど、羨ましいと白波はそう思う。

山吹 薫
山吹 薫

そういう事は無いよ。でも内容には注意する。腎臓に達した血液は糸球体を通り濾過される。その糸球体の機能が破綻し濾過は行えなくなる。つまりは循環に影響を与えるような高度な筋力トレーニングは行う事はいけない。

白波 百合
白波 百合

血圧が上がりすぎると、勢い良く腎臓に血液が流れ込むから・・・頭がパンクしそうな人に知識を大量に流し込む感じで更に疲れるって事っすか?

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そりゃあかんわ!まさしくウチらの事やんな!

白波 百合
白波 百合

つまり!ゆっくりと優しく流し込めば負担も少ないって事っすね!

山吹 薫
山吹 薫

まぁそうなのだが引っかかるな。高度なレジスタンストレーニングを避けて、話しながら出来る様な低い負荷の有酸素運動などを行う事で腎臓への血の流れも緩やかになるし、逆に機能の改善もみられる。生命予後も向上する。

白波 百合
白波 百合

何事もほどほどが一番って事っすね!

そういう事だな。と山吹はそう結ぶ。

山吹 薫
山吹 薫

それに最初に話したように腎臓の機能は何も濾過だけではない、体の機能を量と質共にバランスを整える重要な臓器だ。その説明はまぁ休憩してからにするか・・・

坪井 咲夜
坪井 咲夜

さんせー!

白波 百合
白波 百合

あっお菓子を用意するっすね!

何ともまぁ賑やかな事だと山吹はため息を吐く。そしてすっかりそのペースの中に嵌められているような気がして、もう一度山吹はため息をついた。

白波百合のノート 26

・生化学検査結果で、尿素窒素、クレアチニン、GFRを確認して腎機能に障害がないかを確かめる。

・腎不全を患う人には運動内容を考える。がっつり筋トレは控えて愛護的な有酸素運動を実施する。

・尿量の変化は必ず確認する。腎障害の予測と心臓の機能の予測にもなるらしい。←いろんな意味がありそうなので今度聞く!

・先輩も咲夜みたいな子が良いのだろうか。

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