電解質の話 その③ 〜ナトリウムだけを見る事は無い〜

生化学検査

山吹はムシャムシャと飽きもせずに菓子を食べている白波を見る。こう毎日菓子を食べて何故太らないのかが疑問だった。そしてスナック菓子の破片が頬についているのが気になった。

白波 百合
白波 百合

そういえば先輩。喉が乾きませんか?

山吹 薫
山吹 薫

それだけスナック菓子を食べていればな。

白波は相も変わらず口をモグモグと動かしている。

ふむ。と山吹は口先に手を当てる。

山吹 薫
山吹 薫

丁度良いな。ナトリウムの話をしようか。この前もちょっと触れたがね。

白波 百合
白波 百合

なんでそんなに薄笑いしながら、話し始めようとするんすか?

山吹 薫
山吹 薫

なんでもないよ。塩化ナトリウムは体内に入り、ナトリウムとクロールに分けられる。それぞれ電荷を持っているから電解質だという事は話したね。

白波 百合
白波 百合

うっす。お塩を舐めたら電解質という事っすね。

山吹 薫
山吹 薫

まぁうん。それで良い。

何かさっきから引っかかるっすねぇ。と白波は首を傾げる。

山吹は白波の頬に着く菓子のカケラから目を逸らす。

山吹 薫
山吹 薫

ナトリウムは主に細胞の外に存在する。血管の中や細胞の周りの細胞間質といった所だね。そしてカリウムと違い食べ物から多く摂取され、そこに分布される。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。お塩を舐めるとそこに流れていく訳っすね。聞いてるだけで体がしょっぱくなりそうっす。

山吹 薫
山吹 薫

聞いてるだけではならないよ。そしてカリウムやカルシウムと共に体が正常に働くのを助ける。ナトリウムーカリウムポンプだね。これも前に説明した通りだよ。

白波 百合
白波 百合

入れ替わり立ち替わり刺激を伝えていくやつっすね。

山吹 薫
山吹 薫

うん。そういう事だ。カリウムに比べるとナトリウムの補正はまだ楽だと思う。例えば白波君は学生時代にどんなスポーツしてたんだ?

白波 百合
白波 百合

陸上競技やってました!なかなかの長距離ランナーだったんすよ?

いきなり何っすか?と白波は目を丸める。それで無駄に体力がある訳だと山吹は思った。

山吹 薫
山吹 薫

なら想像はしやすいだろう。高度の脱水症状、まぁ熱中症を予防するには水だけではダメだという話は聞いた事があるだろう?

白波 百合
白波 百合

確かにスポドリ飲んだり、マネージャーさんがよくお手製のドリンク作ってたっす。

山吹 薫
山吹 薫

まぁそのマネージャーさんのお陰で元気に走り回れた訳だよ。ナトリウムは汗や尿から排泄される。それを水分と共に補う事で体は正常に働く訳だね。

白波 百合
白波 百合

まぁしんどかったっすけどねぇ。

白波は青春時代の何かを思い出しているようだと、山吹はそう思った。

まぁ大して今と変わらんだろうと鼻を鳴らす。

山吹 薫
山吹 薫

そして問題になるのが、体の中のナトリウムが極端に減ったり増えたりする状況だね。それには水分が大きく関わる。

白波 百合
白波 百合

水だけ飲むのはダメってやつっすか?

山吹 薫
山吹 薫

あくまでバランスの問題だよ。例えば今の君みたいにスナック菓子と共に多量の塩分を摂取したとしたら相対的に体の塩分濃度は上がる。臨床ではもちろん塩分の制限が掛かるだろう。高ナトリウム血症もまたよく見る。

白波 百合
白波 百合

入院したらお菓子は食べれないっすからねぇ。

山吹 薫
山吹 薫

君は入院しそうにないけどな。

繊細な乙女に失礼な!と白波は口を尖らせる。もし入院したら患者指導が大変そうだと山吹は眉をひそめる。

山吹 薫
山吹 薫

とにかく水分とのバランスが大切と言ったね。塩分を摂りすぎなくても体の水分が減っていったらどうだろう?

白波 百合
白波 百合

そしたら、塩分の方が多くなるっすね。

山吹 薫
山吹 薫

そうだね。特に脱水症を呈している患者は特にナトリウムやクロールの数値を見ることが必要だ。他にも輸液治療中の患者もまた時折、ナトリウムがプラスに傾くことも多いから注意が必要になる。

白波 百合
白波 百合

なるほどっすねぇ。じゃぁナトリウムが増えてないかをしっかり確かめる必要があるっすね。

山吹 薫
山吹 薫

それだけではないよ。当然減ってないかも確かめる必要がある。

ふむ。と白波は頷く。さっきからスナック菓子は減っていない。

少し言いすぎたかと山吹は白波から目を逸らす。

山吹 薫
山吹 薫

ナトリウムは汗や尿から排泄されると言ったね。例えば日頃リハビリをするときに汗をダラダラ描きながら運動負荷を与えることはあるかい?

白波 百合
白波 百合

若い患者さんとかの時はありますけど・・・

山吹 薫
山吹 薫

入院患者の多くは高齢者だからそれは少ないね。高度の腎障害があったらなら話は別だけど、そうでなくても低ナトリウム血症が生じることがある。

白波 百合
白波 百合

汗を掻くまで運動はしないのにっすか?

山吹 薫
山吹 薫

水分とのバランスが必要と言ったね。今度は体の中の水分量が増えれば増えるほど相対的に血中のナトリウムは低下する。量は減らないからまぁ割合が低下すると言い換えても良い。尿の排泄量が減少している状態の心不全患者なんか特にね。それに塩分制限も掛かっているから余計に注意だ。

白波 百合
白波 百合

なるほど。体の中の水分の量を念頭に置いてナトリウムの量を見る必要があるんすね。

そうだ。と山吹は答える。白波がスナック菓子をチラチラと横目で見て、手を伸ばそうとしないのも目に入る。

山吹 薫
山吹 薫

なので、そこに目をやりつつ検査データを見ると考えやすい。当然カリウムと一緒で刺激の伝達に関わる重要な電解質だ。そのバランスが過度に増減することで、主に中枢神経への作用が問題になる。倦怠感や高度の場合には昏睡状態となることだってある。そんな状態では運動負荷はかけられないね。

白波 百合
白波 百合

それは当然っすね。そんな時に運動したらダメっすもん。

山吹 薫
山吹 薫

だから検査データがなくても、それらを念頭に置いてリハビリを行うようにするのが大切だよ。

白波 百合
白波 百合

うっす。でもお腹いっぱいになっても頭がぼぅっとするから注意っすね!

山吹は目を細める。どうやら決して気にしていた訳ではないようだ。

山吹 薫
山吹 薫

まぁお腹いっぱいになるほどスナック菓子を食べる君にとっては遠くはない話かもな。

白波 百合
白波 百合

なんで先輩ちょっとムッとしてるんすか!?

別に。と山吹は答える。

どうしたんすか!?と目を丸める白波の声だけが休憩室に響いていた。

白波百合のノート 18

・特にナトリウムのバランスを考える時には、必ず水分とのバランスを知る。

・検査データが無くても、状態を予測しながらリハビリを行う。

・ちょっと先輩の前でバクバク食べるのは遠慮しよう。(スナック菓子に関しては)

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