低酸素の話 その①   〜呼吸を調整する場所〜

呼吸

西日の入る休憩室の中で白波百合は大きく伸びをする。今日は珍しく先輩の方が遅いんすねぇ。と体を揺らすとドアの開く音がする。

山吹 薫
山吹 薫

なんだ。今日は珍しく早いんだな。

白波 百合
白波 百合

ふふーん。これも成長したって事っすかね?

どうだかな。と山吹薫はそう答えて休憩室へと入る。その後ろから何処か眠たそうな目の進藤守も顔を出した。

進藤 守
進藤 守

おぉ百合ちゃん久しぶりだね。勉強は順調?

白波 百合
白波 百合

そりゃもう頑張ってるっす!今は呼吸についての勉強中っすよー!

進藤 守
進藤 守

そりゃ良かった。まぁ頑張りすぎないようになぁ・・・

山吹 薫
山吹 薫

何をあくびをしてるんだ。僕の方が頑張っているよ。

進藤は山吹のデスクに寄り掛かりながら口に手を当てあくびをしている。先輩の昔話に出てきた姿とは大違いっすねと白波は笑みを浮かべた。

白波 百合
白波 百合

そう言えばあくびで大きく息を吸うって事は体の中に酸素が足りてないって事っすか?

進藤 守
進藤 守

昔はそう言われていたが、今は諸説あるな。口を開けて脳に刺激を与えて覚醒させようとする、他にも脳の血流を上げて温度を下げようとする。いろいろだ。

山吹 薫
山吹 薫

身近な事なのにな。それはまだ人間の体の事は分かってない事の方が多い証拠だな。

進藤 守
進藤 守

そもそも一回の換気量が増えるだけだからな。酸素が回っていないなら呼吸の数自体が上がるだろうに。

進藤はそう言って再びあくびをする。つられて白波も思わずあくびをしてしまい、山吹はため息を吐く。

進藤 守
進藤 守

そもそも呼吸は無意識で行っているものとそうでないものがあるからな。あくびはそうでもないが、呼吸自体は自分でコントロールができる。これは覚えておいた方が便利だ。

白波 百合
白波 百合

言われてみればそうっすね!心臓の動きは勝手に早くなったり、遅くなったりするのに不思議っすね。

山吹 薫
山吹 薫

呼吸も心臓と同じ延髄に中枢が存在する。まあ生命活動に重要な場所でそこから呼吸や心臓の動きの調整がされる。そのためにいろんな場所にセンサーが存在する。せっかくだし進藤大先生にでもご教授頂こうか。

語るのは苦手なんだがな。と進藤は腕を組む。先輩の昔話ではペラペラ良く喋っていたような。と白波は人差し指を顎先に当て首を傾げる。

進藤 守
進藤 守

先ずは延髄、頭と首の間にある脳幹にある場所だな。そこには呼吸の調整を行う呼吸中枢がある。ここでは体内に増えた二酸化炭素を感知して呼吸の調整を行う。しかしいくら有能な中枢があっても、全身でそれが十分かどうかの情報が無いと上手く機能は出来ない。

白波 百合
白波 百合

ふむ。部下からの報連相が十分じゃないと上司も何をして良いかわからないっすもんね!

山吹 薫
山吹 薫

それは本当に頼むよ。そしてそのセンサー、受容体と呼ばれるものは大動脈と頚動脈に存在する。それぞれ大動脈小体、頚動脈小体と呼ばれるな。方や全身の血液に含まれる酸素の量を、方や脳に至る頚動脈の酸素の量をモニタリングしている。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。どちらも重要な場所っすもんね!

そうだと進藤は答えている。語るのは苦手だと言いながら、思えば中々のおしゃべりさんだと白波は思う。これも大人になった証拠っすかねとも思う。

山吹 薫
山吹 薫

他にも肺胞、口から繋がる気管支の末端の小部屋だな。そこが十分に伸びきる事も受容体として刺激を与える。そうやって十分に息を吸って膨らみきる事で、次は自然と吐き出す方に体は動く。

白波 百合
白波 百合

なるほど!そうやって自動的に切り替わるんすね!

進藤 守
進藤 守

上手く出来ているだろう?大まかに中枢とこの三つのセンサーで呼吸の数や深さが調整されている。不足すると呼吸の中枢が主に肋間筋や横隔膜に働きかけて不足した酸素を取り入れるように、そして過剰な二酸化炭素を体の外に出すように働くんだよ。

白波 百合
白波 百合

そしてその調整が上手くするには肺や胸郭がしっかりと膨らんで、そして肺胞に至るまでの通路がしっかり整備されている必要があるんすね!

その通りと進藤は柔らかく笑みを浮かべる。先輩も大まかにはな。と答える。進藤さんに比べて先輩は昔とあまり変わってないかもっすねと、白波は思う。

山吹 薫
山吹 薫

何だってそうだが、組織の指導者や司令系統がしっかりとしていても、その末端の器官が上手く動かないと組織の働きも破綻する。逆に末端の器官が上手く働いていても上層部が上手く動かないとやはり組織は上手くいかない。それと一緒だな。

進藤 守
進藤 守

それを俺らはしっかりと考えてリハビリを先ずは行わないとな。どちらにしても破綻すると体の中の酸素は十分ではなくなる。そして何もしなければそれは死に至る。

白波 百合
白波 百合

それはそうっすけど、呼吸だけしっかりしておけば良いって訳ではなさそうっすよね。運ばれていくる人を見る限りではっすけど・・・

進藤と山吹はほう、と互いに顔を見合わせる。何か言ったっすかね?と白波は首を傾げる。

進藤 守
進藤 守

そこが重要だと俺は思う。さて次はそれを語ろうか。

白波 百合
白波 百合

よろしくお願いっす!

なんだかんだで語るんだなと山吹はため息を吐く。昔はこうやって二人を主任さんは眺めていたんすかねぇ。白波は体を僅かに揺らした。

白波百合のノート 78

・延髄の呼吸中枢、大動脈と頚動脈の小体、肺胞の受容体で呼吸の深さや数は調整されている。

・中枢と末梢の働きが互いに作用して正常を作る。どちらの事も考える。

・進藤さんはなぜ語るのが苦手になったのだろう。

【これまでのあらすじ】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

【これまでの話 その①】

【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】

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tanakannaika|note
理学療法士でパーソナルトレーナーなブロガーです。また動画編集や過去には脚本執筆や演出、撮影、編集など多岐に渡って活動しておりました。楽しみながら学べる『内科で働くセラピストの話』を執筆中。

ちなみに千奈美さんの第一話はこちらから

その1 『伝えたいことを思い出せない』|tanakannaika|note
ここはとあるクリニックのリハビリ室。そこには僕こと、高橋を含めた4人のリハビリスタッフがいる。そしてそこの主任は千奈美さんであるのだ。 瞳と同じくらい小さな整った丸顔で、それに合わせて栗毛が緩く巻かれている。 そして業務の終わり、僕は千奈美さんから呼び止められた。 「高橋くん高橋くんちょっと待ってー!」 「そん...

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