内科で働くセラピストの話 その②  〜疾患と運動処方とリスク〜

リハビリ

病棟の一角にある休憩スペース。西日の陰るその時間に、山吹薫は白波百合の言葉に耳を傾ける

山吹 薫
山吹 薫

これはきっと僕たち臨床で働くセラピストだけの話じゃないんだな。

白波 百合
白波 百合

そうっす!もちろん続きを聞いて欲しいっす!

うむ。と山吹は一度頷く。自分の話を聞いて欲しいか。その言葉はなんだか不思議な事に心の中に沈み込んだ。最初は僕の話を聞くのも一苦労だったのにと僅かに笑みを漏らす。

白波 百合
白波 百合

さっきお話しした一つの事例の方の発言・・・この発言の一つには要注意な発言もまたあったっす。例えば最近になって体力の衰えを感じる様になってこの方は日常生活の中で息切れを起こしているっすね。そして左肩が痛い事、足が浮腫み始めた。ここが要注意なポイントだったっす!見た目で分からない事でもこうやって患者様の訴えに耳を傾ける事でアレ?っとなる事もまた多いっす。要は問診という訳っすけど、普段行っている中で重要なスキルの一つっす!

後輩の成長は嬉しい。こんな気持ちを抱いたのは初めてかもしれないと思う。今までこんなに手の掛かる後輩はいなかったからなと山吹は言葉を聞きながらそう思う。

白波 百合
白波 百合

そしてそもそも心不全とは、何らかの心疾患が起因となり心臓が機能不全を高度に起こした状態っす。そしてそれには急激に発症する心筋梗塞やいずれはそれに至る狭心症が原因になる事も多いっす。つまりは心臓に必要な血流を流すはずの冠動脈が細くなっているって事っすね。そして心臓が血液を押し出すポンプとしての役割を果たす事が出来なくなるっす。その血流は酸素を運ぶ役割があるっすから、体の中でそれが減って息切れが生じるっすね。他にも血流が十分に巡らなくなるって事は血がどこかに滞るって事っす。その結果浮腫む訳っすね。それに大切な心臓の状態が悪化する訳っすから、本当に酷い人は命を落とす事もあるっす。

そもそもそれは何なのか。最初からそれは彼女にいつだって伝えてきた。そして今僕もそもそも自分が何でまだ臨床に居るのか。そんな思いにも目を向ける。

白波 百合
白波 百合

それを踏まえて先程の発言をもう一度振り返ってみるっすね!こうやってみるとこの人の発言にも心不全が進行していく症状が隠れているっす。急な体力の衰えや息切れえを感じる事になった事は、息切れ自体の進行。そして左肩が痛い関連痛。この方は軽度だったっすけど、ひどい人には動く事もままならず、冷や汗をかいたりするっす。こういう時は迷わず救急車っすね!そして血がうまく巡らない事で足の浮腫みも出てきているっす。この事から十分な検査を行わなくても「心臓に何らかの疾患があるんじゃないっすかね?」と予想出来たかもしれないっす。

もちろん目の前で苦しむ患者様に今できる最高のリハビリを提供する。それはもちろんある。だけども自分だって人間だ。それだけでは無い。そして自己研鑽を積むのもきっとそれだけでは無いのだと山吹は考える。

白波 百合
白波 百合

このお話はあくまで一例っす。多くのこの様な方は運動療法自体がその人の健康寿命や生命予後を改善させるっす。だけども多くは無くてもこういった事が確かに起きてしまう事も事実っす。多くはないから・・・と目を背ける事ももしかしたらあるかも知れないっす。だけども自分の行った運動処方が自分を頼って来てくれた人にとって不利益になってしまう。予想出来たはずのリスクを防ぐ事が出来なかったとも考える事もまた出来るっす。こういう時は・・・本当に悲しくなるっす・・・

山吹は彼女の言葉に耳を傾けるたびに、彼女に去年起きた事、そしてそれに真っ向に向き合いこうやって乗り越えようとしている事そんな想いが言葉にしなくても十分に詰まっている。そう思う。

白波 百合
白波 百合

そしてこれが果たして病院だけの話か?という訳では自分は無いと思うっす。もちろん病院でも全ての病院で必要な機器が揃っている訳でも無いっすから、病院でも十分に起きうる話だとも思うっす。そして現代では病院以外でもリハビリや、運動が提供される社会になってきたっす。その背景は医療費的な国の方針も確かにあるっすけど、高齢の方が増えてきたのと、その結果みんなの健康意識が向上したという予防医学の普及の側面もあるっす。それにリハビリという言葉が昔とは違ってみんなに認知された事も大きな要因だと思うっす。その為にニーズが増えたって事っすね。それ自体は素晴らしい事っす。だけどもその変化は運動を処方する自分達にも少しずつ変化を与えていると思うっす。

たとえ座っていても世の中は変わっていく。それはセラピストでもそうで無くても同じだ。そして僕もまたその上に立っている。白波はこうやって前へ前へと進んでいる。それに引き換え僕は、、、僕の気持ちはずっと過去を向いている。彼女を見ているとそう思うしか無い。

 

白波 百合
白波 百合

それは高齢の方は複数の疾患を患って生きているという事は誰でも知っているっす。その中には慢性疾患や難病といったその疾患自体と付き合いながら生きている人も数多くいるっす。そしてその人たちは健康になりたいという願いの中に生きてきて、どうすれば・・・という思いで相談に来られる事も多いっす。そして長期的なリハビリが必要だけど、制度の関係でリハビリが行えない・・・そんな人は自費のリハを行う人も多いっすね。だけども脳卒中になるという事はそれ自体の背景に何らかの要因、心臓や血管っすね。を抱えている人が多いっす。なのでこれからはもっと自分達に求められている事は多いと思うっす!

自分たちに求められる事。そして白波が自分に求めている事、かつて同じ名を持つ主任が自分に求めていた事。そして・・・自分が最も求めている事。すべては綺麗事では無いし独りよがりな事なのだ。

白波 百合
白波 百合

今までの病院以外での運動、ジムだったりパーソナルトレーニングと言った事だと思うっすけど、それは元々健康な人がより健康に、もしくは運動のパフォーマンスを向上させるために運動していたのが元々だと思うっす。だけども現代では何らかの疾患を患う人が、不安を抱えて病気にならない様に生活する。そう言った世の中になってきていると思うっす。そしてその方に運動を処方、もしくは指導するのは職種は関係なく運動に関わる人、全ての人だと思うっす。それをするには何をするのか。それはきっとみんな知っているっすね!

最後の言葉は括られて、白波はまっすぐ僕の目を見る。山吹は一度頷いてその続きを促す。白波のお話はこれからの続きを描いていく。そして僕のお話は過去の続きを望んでいる。同じ続きを描こうと踠いていてもそれは全く逆の方向を向いている。目を背けているだけなのかもしれないと山吹は一度目を瞑った。

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

【Tnakanとあまみーのセラピスト達の学べる雑談ラジオ!をやってみた件について】

『えっ!?マジでやるの!?雑談で学ぶ運動処方とか!!』【Tnakanとあまみーのセラピスト達の学べる雑談ラジオ!をやってみた件について】

【時間がない人にお勧めのブログまとめシリーズ!】

【ウチ⭐︎セラ! 〜いまさら聞けないリハビリの話〜】

コメント

タイトルとURLをコピーしました