山吹薫の想い出 その⑨ 〜憧れた背中に思う事〜

総論

こんな時間になってしまったな。辺りは暗く街のイルミネーションだけが夜道を照らす。

救急科のERは今も尚、煌々と赤い光を点滅させている。それもまた変わらない日々だ。

新人としてここに配属を望み、そしてもうその日々は終わりを告げようとしている。年末で賑やかに彩られる街並みを歩きながら山吹薫はそう思う。

そして同時に思うのは、自分はこのままで良いのか。と言う事である。

百戦錬磨の個性的な先輩達から学ぶ事は多く、新人にしてはよく頑張っているという自負もある。

だけども学べば学ぶほどその距離を実感してしまい、焦りは感じる。

新人だから焦らなくても良い。そんな言葉はそう考えるたびに脳裏を過ぎる。それでも・・・

「おやおや新人君。どうしたんだねこんな所で!」

山吹はふと肩を叩かれ、後ろを振り返る。自分の肩より視線を下げるとそこには石峰優璃の姿があった。真っ白のコートに身を包み、赤いコートは冬の風に揺れている。

成人しているとは思えないほどの童顔であり、そんな姿であるから余計に幼く見える。

「主任こそどうしたんですか!今日はお休みのはずでは?」

「うむ。だけども何だか気になってしまってな!」

全く・・・と山吹は額に手を当て首を振る。その姿が可笑しいのか少女の様な無邪気な笑みで石峰は笑う。

「主任・・・そんな仕事ばかりしてたら体を壊しますよ。」

「はっは。私も新人くんに心配される日が来るとはな。」

いつだって心配してますよ。そう言う言葉は心の中に潜めたままに山吹は続ける。

「少しは周りを信用しても良いのでは?僕だけならまだしも、他の人もいるんですから。」

「分かっているよ。ただな、私はあの場所に居ないと行き場がないんだよ。何と言うか・・・よく分からんが」

その言葉の後に石峰は本当に考え込んで居る様だった。自分の心の中を統合と解釈をしている様に、僅かに俯き口元に手を当てる。全くこの人は・・・と山吹は思う。いつだって他人の病状の事には必要以上に詳しいくせに、自分の事になると、とんと無頓着になる。そして他人の感情にもだ。

「こんな年末の夜にリハビリ室で過ごすつもりですか?リハビリする相手は今の時間はいませんよ?」

「まぁ確かにそうだな。なら帰るか!明日もまたキミも早く来るのだろう?」

「そうですね。確かにそうですね。」

業務時間よりずっと早く来て勉強をする・・・いやいつもの様に主任と話す。それがいつしか当たり前の様で、あの救急科のリハビリ室で過ごす時間は他の場所で過ごす時間よりもずっと長い。

何故だろうか・・・口元に手当て考えていると、主任がこちらを見つめているのが分かった。薄い紅色をした口元には僅かに笑みを浮かべている。

「キミは私と似ているな。」

その言葉にハッとして山吹は再び主任の顔を見る。少女の様な無邪気な笑みは、凍えそうな空の下でいつもより白く見える。

「まぁともかくこのまま帰るのも何だ!進藤の店でも寄っていくか!」

そうですね。と言葉少なく返事をしつつ山吹は石峰の僅か後ろを歩く。小柄な姿であるのにも関わらず彼女の歩む速度は人よりもずっと速い。

あぁそうか・・・と山吹は思う。

きっと僕は主任の隣に並びたいのだ。追い越すことは決して出来なくても、少なくともその隣に。

これが多分自分が目指す場所で、その場所にはずっと遠いからこんなにも焦っているのだ。

そう考えてみると何だか肩の力が抜ける様な気がした。

そして僅かに歩む速度を上げて、山吹は主任の隣に並ぶ。

隣に並ぶと主任は再び無邪気に笑みを浮かべる。その意図は分からない。

だけどもそれは自分にとって・・・何よりも大切なものだと山吹は思うのだった。

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

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