熱中症の話 その②  〜気が付けないと恐ろしい兆候〜

熱中症

しっかし暑いなーと坪井咲夜は両手でパタパタと顔を仰ぐ。そんでこの二人は相変わらずいつも通りなんやなと白波百合と山吹薫を見比べる。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

でもやっぱ熱中症ってよく聞くけど、熱射病って言葉は無くなってしまったん?

山吹 薫
山吹 薫

そうではないよ。熱射病とは heat strokeと言われて熱中症が重篤になった場合と考えて良いよ。つまりは熱中症が高度に進み、体に種々の障害が生じてショック状態になったという事だね。この場合には集中治療室での治療や特別な治療もまた必要になる。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。熱中症と熱射病は言葉は似ていても、その重症度はぜんぜん違うって事っすね。混同して考えていたっす。

上代 葉月
上代 葉月

確かにそうかも。ならどうやって熱中症は進んでいくんですか?

上代葉月は指を顎先に当てて首を傾げる。この子はなんでこういう事に鈍いんかぁと坪井は体をデスクに預ける。まぁ元々ポヤンとしているからなぁとも思う。

山吹 薫
山吹 薫

それは日本救急医学会の熱中症分類が分かりやすいな。まず1度熱中症では大量の発汗に伴いめまいや立ちくらみ、筋肉の硬直、、、まぁ足が攣るといった事かな。そういう状態が生じる。これは熱けいれんや熱失神とも言われる。この状態では現場で早急な応急処置が必要となる。体を休めて冷やして、十分な水分と電解質の摂取を促す。この場合には僕らやトレーナーの迅速な判断と対処が必要になる。

上代 葉月
上代 葉月

私も昔はスポーツしてたんですか、確かにこれで動けなくなる友達を見た事がありますね。

山吹 薫
山吹 薫

そうだな。これからの季節は特に起きる。そしてⅡ度の熱中症では、頭痛や嘔吐、集中力や判断力の低下といった中枢神経系にも影響が及び始める。1度の状態が改善せずに進んでしまった状態とも言えるな。その際には病院での受診が必ず必要になるから、これも現場での対応が必要だな。これは熱疲労とも呼ばれる。

白波 百合
白波 百合

自分達は病院で働いているっすけど、トレーナーの活動をしている人は屋内外でも知っておかなければ大変な事になるっすね!

坪井 咲夜
坪井 咲夜

ホンマやな。でもこれは1度だから大丈夫って訳でもなさそうやん?場所によっては状態は刻々と進んでいく訳やから油断は禁物やな!

そういう事だと山吹は答え、白波もそうっすね。と山吹に顔を向ける。随分と知らん間に二人の間の温度もまた変わったんやなぁと、坪井はその瞬間を見れなかった事が悔しいと思う。

山吹 薫
山吹 薫

そしてⅢ度の熱中症だな。これは早急な入院加療が必要となり、場合によっては集中治療室での管理が必要となる。この時には中枢神経の障害、意識レベルの低下以外にも種々の内臓の障害や血液をサラサラにする力が弱まり、全身に血栓が生じ、ショック状態となることもある。これがいわゆる熱射病だな。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。確かに言葉の整理は出来てきたっすけど、熱中症が進んでいくってこんなに怖いことなんすねぇ。

上代 葉月
上代 葉月

そうだね。スポーツをしていた時には習うことはなかったから、知っておけば良かったかなって今になって思うよ。でもしっかりと伝えなきゃね。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

ホンマやなぁ。ここまで重症になって中枢神経にまで影響が及ぶなら後遺症が残っても不思議じゃないもんな。そんで横紋筋融解症ってあるやろ?それも合併するんやろか?

ほぅ。と山吹は露骨に眉を上げて驚いてみせる。自分だって勉強はしてるんやけど、この不器用鉄面皮はウチのことをアホの子扱いしている節があると眉を潜める。

山吹 薫
山吹 薫

よく知っているな。何も熱中症だけが原因にならず外傷などといったことでも生じるが、高度に進んだ熱中症に合併するのが横紋筋融解症だ。これは文字通り筋肉を構成する横紋筋が融解する。

上代 葉月
上代 葉月

名前を聞くだけでも恐ろしいですね。やっぱり筋力がすごく低下するとかなのでしょうか?

山吹 薫
山吹 薫

多くはリハビリ開始時には廃用と合併しているから何とも言えないが、それよりも考えなければいけないのが、筋肉を構成する物質が体の中に放出されるということだな。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そやな。筋肉のミオグロビンやクレアチンニンキナーゼ、細胞の中にあるカリウムだってそやな。それがドバーッと出てしまうから体の中も大変や。

白波 百合
白波 百合

血液の中にカリウムが沢山流れると高カリウム血症になるっすね!それは心臓自体に影響するっすから、徐脈になったり致死的な不整脈になることも多いっすね!

ふむ。と坪井は白波を見る。こんなに長い時間一緒にいるのだから賢くもなるだろうと思うのだけど、それ以上に仲が進展しないのも不思議やなと思った。

山吹 薫
山吹 薫

それでその重篤な合併症が急性腎障害だな。これには特にミオグロビンというタンパク質が原因となる。発症機序には種々あるが、横紋筋の融解に伴う循環血液量の減少による相対的な障害、および障害されたことによる活性酸素、フリーラジカルの出現から直接的な障害により尿細管が壊死する事と言われているな。ただし熱中症だけが問題とならず原因は多岐に渡る。それに関してはまた話すよ。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

なるほどなぁ。そんで過度な尿量の低下や、筋肉の色に似た尿が出るミオグロビン尿が出るんやね。

白波 百合
白波 百合

ふむふむ。というか言葉って本当に怖いっすね。熱中症ってよく聞く言葉っすからすっかり慣れてしまってたっすけど、こんな事が起こるっすね。

上代 葉月
上代 葉月

本当だね。予防ができる事だけど、それでも起きてしまって、しかも気が付けなかったら取り返しのつかない事にもなるんだね。

そやな。と坪井はそう返す。そして再び白波と山吹に視線を移しながら、多分この人らの性格というよりも多分もっと何かあるんやろな・・・そう思い沢尻悠に事情聴取を再びせねば。そう思った。

白波百合のノート 85

・日本救急医学会の熱中症分類を要チェックするっす。結構誰にでもわかりやすいっす!

・熱中症の症状は刻々と進んでいくっすから、例え発見した時に症状は軽くとも油断しない。

・咲夜ちゃんはキョロキョロしてどうしたんすかね?

【これまでのあらすじ】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

【これまでの話 その①】

【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】

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tanakannaika|note
理学療法士でパーソナルトレーナーなブロガーです。また動画編集や過去には脚本執筆や演出、撮影、編集など多岐に渡って活動しておりました。楽しみながら学べる『内科で働くセラピストの話』を執筆中。

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