いつもと同じ様でそれでも違う。ただ主任が居ないだけなのに、なんだか気持ちが落ち着かないと山吹薫はそう思う。目の前で主任の業務を分担しながら疲れた目をする二人の先輩が居たとしてもだ。
とにかく改めて心筋梗塞について考えてみると、やはりとても危険な疾患の一つですね。
ぬはは!それは当たり前だ!どの疾患でも重大であるが直接的に死につながる疾患の一つでもあるからな。
そうだねー。発症までの予兆はあろうとすぐにそれが心筋梗塞では?なんて結びつける事ができる人は少ないと思うんだよねー。そして普段から健康に気を付けている人じゃなくて、そうじゃない人に起きてしまうから悩ましいよねー。
遥かに小さく見えるキーボードを操作しつつ岩水静は笑い、そして内海青葉は両手をデスクに置いたままに奇妙に体を傾ける。
そして多くはすぐには消えない胸痛や息苦しさなどの症状から病院を受診、多くは救急搬送されるんだけど、そこでその心筋梗塞であるかどうかと、その梗塞した部位を特定するための検査が行われるんだよねー。
いろいろあるな!そして12誘導と呼ばれる心臓を四方八方ほとんど逃さずに見る心電図だな。健康診断でもやった事があるだろう?それによって右室なのか、前壁の中央部分か、左の横っかわなのか。それを調べる。そこで厳密にどの心臓を栄養する冠動脈が梗塞しているか、完全には分からないが、特徴的な波形から心筋梗塞か否かは分かる!。
心電図は心臓の電気の流れを測定しますよね?心臓の刺激伝道の始まりである右房の洞房結節をからの動きを表すP波、そしてそれに続いて心室が収縮を表すQ波から針の様に尖るP波、そしてS波が一旦下がって、心臓の収縮が終わり回復する電位であるT波がありますね。そして心筋梗塞ではいわゆるST上昇・・・という事でしょうか?。
手振り身振りで心電図の波形を表す山吹を見て、二人はニヤリ何処か邪悪な笑みを浮かべ、山吹は目を細める。
それは発症後数時間から12時間経った時の波形だな。まぁ病院に搬送されて検査する時にはその波形をよく目にするが、冠動脈が詰まって脳と同じ様に時間経過に伴い梗塞は完成する。そのため発症後数分単位ではQ波やST波の変化はまだ変わらないこともまた多い。だけどもs波は極端に下がる。またT波の高さも非常に高さを増す。よって入院中でも臨床所見とともに普段と違う波形、特にこの様な波形をモニター上で確認したら要注意だな!
そしてST上昇が確認されるその後一週間くらい経つと心臓も回復していってSTの上昇は減ってくるけど、Q波は異常に下がっていて、T波も逆向きになる。そして慢性期になっても異常なQ波は変わらない。T波もまた元に戻ってくるけどね。異常Q波の有無は確認することは重要で、もしかしたら診断されてはいないけど、過去に梗塞があったんじゃないか?という予測にもつながるね。
ふむふむ。何事も時系列が大切ですね。今どの段階にいるのか・・・もしかしたら過去にそうあったのではないか・・・確かに重要です。
なんだか素直になったものだな!しかしそれもまた寂しいものだ!あの小さな時の小生意気さはどこにいったのだろうな!。
そんな時は知らんでしょう。と山吹は眉を潜めつつ、なんだか昔よりはずっと人の話を聞けている。そんな事を山吹は思う。ちょっとずつ何もかも変わっていくのだろうか。成長かな・・・?ちょっとだけニヤけた山吹の表情を逃さずに、内海はそれ以上の奇妙な笑みで山吹を眺め、山吹はうひゃぁと情けない声をあげるのだった。
山吹薫の覚書69
・特に心筋梗塞の心電図波形は時系列を意識する。
・心筋梗塞だけでは無くて、普段と違う波形を確認したらそのままにしない。
・少し僕も成長したのかな?
【〜目次〜】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
【Tnakanとあまみーのセラピスト達の学べる雑談ラジオ!をやってみた件について】
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