栄養管理の話 その⑤ 〜栄養管理のリハビリテーション〜

栄養

なんとも面白い事になったねー。と内海青葉は体を傾けそう思う。そして自分の動きを楽しそうに真似する白波百合には好感を抱いた。もしこうなる事が分かっていれば学生の時からもっと関わるんだったなぁとも思う。

白波 百合
白波 百合

しっかし臨床で必要なエネルギーを摂取しつつ、リハビリを行う事が難しい事が分かったっす。それでもやらなければならないんすね!

山吹 薫
山吹 薫

まぁあくまで超急性期や急性期の話だからな。それにこの定義がいつまでも同じという訳でもないから難しいところだ。それに回復期やそれ以降ならば、もちろん適正なエネルギー摂取を目標に介入する。

進藤 守
進藤 守

十分な食事ができるという事は自宅生活を続ける事ができる判断になるからな。それに再入院のリスクも減る。病棟から在宅へ繋げる。必要な情報を指導し、共有する。ある意味歩行の可否以上に必要な事だな。

内海 青葉
内海 青葉

何だか二人とも大人になったねー。昔みたいにキャピキャピしないのー?

キャピキャピっすか!?と白波は楽しそうに笑みを浮かべる。それに内海はそうだよーと答えると、山吹薫も進藤守も声を揃えて、していません!と答える。でも成長したとは素直に思う。

山吹 薫
山吹 薫

まぁ現実的に発症直後から適正なカロリーを摂取するのは難しい。最初から経口摂取が可能で摂取量も十分なら良いが、重症になればなるほど最初は鼻からチューブを入れて栄養を摂取する必要がある。そしてそれは多くは液体だ。

進藤 守
進藤 守

元の疾患を増悪させる誤嚥のリスクも高いからな。しかしそのチューブで栄養をとる事も万能ではない。1200キロカロリーをとるのにも相当の量が必要だ。だけどもそれは必要な事なのは分かるな?

白波 百合
白波 百合

確かに長めの時間とはいえ、それだけでもお腹いっぱいになりそうっす・・・

内海 青葉
内海 青葉

もちろん腹圧が掛かって嘔吐のリスクもあるよー。しかもその状態で嘔吐すると肺の方に流れ込んでしまえば、それでも誤嚥性肺炎になる。しかも重篤になり易いし、窒息のリスクも高いのさー。だから時間を空けて間欠的に行う方法以外にも集中治療室なんかでは1日かけてコントロールする持続的な栄養方の選択もなされるの。それもまた議論の余地はあるけどねー。みんなより良い方法を見つけるために頑張ってるのさー!

そうっすね!と白波は両手を握る。だけどもこんな熱心な生徒だったかな?と内海は首を傾げる。だけども学校での成績がセラピストの全てではない事は知っている。

山吹 薫
山吹 薫

当然その状態でも離床が目標になる。栄養の観点から言うと適正なカロリーを摂取できていなくても、身体を更に低栄養に来す状態を回避しなければならない。

白波 百合
白波 百合

合併症の事っすね!肺炎や尿路感染といった更に栄養状態を低下させる状態を回避する・・・廃用症候群予防!合併症予防という事っすね!

進藤 守
進藤 守

そうだな。特に人工呼吸器を使っていてもそれは今や必須だ。超急性期の文献や書籍を見ると、治療の一つに肺理学療法や呼吸理学療法として記載されている。

内海 青葉
内海 青葉

二人もよく主任ちゃんに駆り出されていたよねー。三人以上の人数で看護師さんや臨床工学技士さん、もちろん先生も一緒に体を起こしたり、時には立つ練習、歩く練習をしたりするの。適正なカロリー摂取を出来ていないけど、更なる重症化を防ぐには必要な事だね。それにそこを脱すれば栄養自体にも積極的にアプローチ出来るから、栄養管理の上では時には長い目で見る事も必要なのさー。

新人ちゃんもまた変わったなと内海は思う。自分の教え子が誰かに教えている。しかもかつて自分たちが伝えた言葉を使って。これほど嬉しいものはないと内海は思う。

内海 青葉
内海 青葉

まぁ栄養状態の改善という事は結構長い目で見なければいけないとボクは思うねー。それに急性期と回復期、維持期や在宅でそれぞれ問題点は違う。もちろん基本は一緒だけどね。それに疾患のコントロールもしっかりと意識しないと、沢山食べても痩せていく。という事にもなりかねないからねぇ。

山吹 薫
山吹 薫

炎症が治まって急性期を脱したら、今度は異化によって失われた体に蓄えられたエネルギーを食事などで蓄えなければなりませんからね。そしてそれと同時に運動療法を行い筋肉への合成を促す。その見極めを僕らはまずは念頭に置かなければならないと思いますよ。

進藤 守
進藤 守

食事だってそうだな。安全に食べやすいものを美味しく食べられる。そのために姿勢だけではなく、食事内容や食事形態の工夫やるべき事は沢山あるし、興味深い取り組みも沢山ある。

白波 百合
白波 百合

そうっすね!だけどもやっぱり・・・食べられなくなってそれで段々と最期を迎える。それもまた自然な事だと思うっす。悲しいことっすけど・・・

ふーん。と内海は俯く白波を体を捻って覗き込む。かつての主任ちゃんと同じ名前だけどやっぱり中身は全然違うねぇと改めて思う。多分主任ちゃんに一番欠けていて、一番求めていた所を持っているんだなぁと悲しくなる。

内海 青葉
内海 青葉

そうだねぇ。終末期の考え方も必要。現代の医療現場ではとても難し事ではあるけれど。その人らしく最期を迎える。医療が発達していない昔だったら当たり前だった事が、医療が発達した今では難しくなるのは皮肉な事だよねー。

山吹 薫
山吹 薫

だけども死んでしまうより、生きている方が良いでしょう。そのために僕らのリハビリテーションもまた有ると思います。

進藤 守
進藤 守

それには賛否は有るだろう。答えの出ない問題だ。だけどもまぁ最期まで元気ではいたいよな。

白波 百合
白波 百合

そうっすね!頑張らなきゃっす!

ふーん。と答えつつまぁ結局の所根っこは似ているんだな。と内海は思う。それはきっと新人ちゃんも同じだとも思う。さてと・・と内海は大きく伸びをする。もうこの二人には新人なんて言えないな。そう考える。

内海 青葉
内海 青葉

うーん。長居しすぎちゃったかな。まぁ問題児な新人ちゃんと進藤ちゃんの成長が多少なりとも見えたし楽しかったなー。

白波 百合
白波 百合

こちらこそ色々教えていただき嬉しかったっす!あっ同じクラスの桜井玲奈ちゃんも今は此処で働いてるっす!いずれ近い内に母校訪問するっすね!

内海 青葉
内海 青葉

へー!なら楽しみにしておくよー!・・・それじゃ山吹先生と進藤先生

・・・ウチの生徒をよろしくお願い致します。

内海はそう一度頭を下げると、足取りも軽気に部屋を出て行く。

進藤 守
進藤 守

なぁ。聞いたか?

山吹 薫
山吹 薫

あぁ。どうやら新人は卒業したみたいだな。長い話な事だ。

白波はどこか嬉しそうに笑みを隠す二人を眺める。内海先生の瞳の奥は見えないけれど、何だか気持ちは伝わった気がする。窓辺から西日の光は格子型の影を長く作る。何だか季節が変わる。そんな気がした。

白波百合のノート 106

・超急性期や急性期では低栄養リスクを有る程度許容して、合併症予防を行う必要もある。当然、それを脱すれば栄養面への介入を積極的に!

・栄養管理は長い目で考える。もちろん放っておいていい時はない。その時々で優先順位を見極めながら介入する。

・先輩なんだかとっても嬉しそうっす!

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

【総集編!!】

【これまでの話 その①】

【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】

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