山吹薫の想い出 その⑧ 〜いつもの日々の中で〜

総論

この人通りなまばらな通りで、よく店を営んでいるものだな。と山吹薫はBARのドアを開ける。夜の帳はとうに降りていて足も自然を重たくなる。

進藤 守
進藤 守

よー!今日も遅くまでお疲れさん!明日は休みか?

山吹 薫
山吹 薫

そうだよ。ここで働いているって事はお前も休みなんだな。

まぁな。と進藤守は笑みを浮かべつつグラスを磨く。休みの前の日だけ実家のBARを手伝う不良STである同期の進藤。なんとも軽薄だとため息を吐く。

進藤 守
進藤 守

また良からぬ事を考えていただろう?毎日のようにあの容姿麗しい主任ちゃんとお勉強会などけしからん男にはそう思われる筋合いはないね!

山吹 薫
山吹 薫

まだ何も言ってないだろ。なんならお前もまた来るか?

進藤 守
進藤 守

・・・・まぁ俺は飲み会だけの賑やか要員で!

ふん。と山吹は渡された火酒がなみなみと注がれたグラスを口に運ぶ。

進藤 守
進藤 守

しっかし、俺らもそろそろ新人も卒業かー!そして君は新人君と呼ばれるのを卒業できるのか!?どうだい!?

山吹 薫
山吹 薫

うるさいなぁ。あのメンツの中だったらいつだって新人みたいなもんだろう。

進藤 守
進藤 守

まぁあの濃くも激しく、そして賢くたくましい人達の中にいたならな。でも、新人じゃなくなったら今みたいにかまって貰えなくなるんじゃないか?

それは・・・と山吹は言い淀む。未来が決して今の続きだとは限らない。そんな事は知っている。新人か・・・山吹はポツリと声を漏らす。

山吹 薫
山吹 薫

ともかくあの人達が、ただの年数だけなんかで人を認めたりはしないだろうな。

進藤 守
進藤 守

まぁねぇ。あとは薫に後輩が出来た時とかね!後輩を育てている姿を見たら誰も薫を新人だなんて呼ばないだろう?

山吹 薫
山吹 薫

まぁ人員補充が殆どないウチの部署でそれは叶わないだろうけどな。

どうだかねー!と進藤は自身に注いだ火酒を山吹に近付ける。後輩を育てるだなんて今はとても考えられないな。口に含んだ火酒はゆっくりとした速度で喉の奥へと落ちていった。

それでも新人の時期は終わる。今のままではいかないかもしれない。

だけども、主任との日々がずっと続けば良い。

そんな事を山吹は考えた。

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

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