石峰優璃の本の中 その④ 〜装飾される自分の事〜

総論

「それじゃぁ」リハビリに行ってきます。」

そう言い残して疲れたように席を立つ、山吹薫を見送りながら石峰優璃はカルテに向き直る。いつものように。その隣で高橋美奈はじっと石峰を見つめている。

「どうした?美奈はまだ行かなくても大丈夫なのか?」

全く・・・とその返答に高橋は首を傾けながらゆっくりと笑みを浮かべる。その笑みに含まれる気持ちの深いところはまるで分からない。

「いっその事、全部新人ちゃんに話してしまえば良いのに。何を隠しているのかは分からないけれど。」

「何の事だ?」

そうカルテから視線を逸らさずに答えてみる。随分と長い付き合いになってしまったから、こう気持ちの深い所まで覗かれるようになったのか。もしくは彼女が作業療法士であるからか。

・・・・いやそれは関係ないな。と石峰は思う。

「まぁ。それは優璃に任せるけど、もう独りじゃないんだからね。」

その言葉を残して高橋は席を立つ。その純粋なまっすぐな言葉は胸の奥に出所の知らない生暖かい液体となって沈んでいく。

純粋に嬉しく感じた。だけども独りじゃないと言う気持ちは正直まだよく分からない。

今までずっと独りだったからか、それとも両親の顔すら知らないからか。

愛着障害と言ったっけな?でもそれとも違うような気がする。

きっと美奈は私自身よりも私の事を解っているような気がする。自分自身が自分の事を全て解っているということはない。それはどんな疾患を患っていても当の本人がどこか他人事のように感じてしまうように、それは誰だって同じだ。

主観的な情報なんていくらでも脳内で装飾する事が出来る。自分自身の都合の良い感情で、視覚から得られる情報はこの小さな頭でいくらでも都合の良いものになる。

だからこそ何事でも他人の目を言うのは必要だ。

もう誰かから評価されるなんて少なくなってしまったからな。果たしてあの先生は生きているのだろうか?と石峰は思う。臨床を離れて今は教員をしているらしいが・・・さらに老け込んでいそうだな。

そうかつての指導者を思いながら、石峰は自分自身の心に向き合うことから離れる事にした。

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

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