血圧の話 その② 〜高血圧が続く事で起こる恐ろしい事〜 【山吹薫の昔の話】

山吹薫の昔の話

さて・・・山吹薫は隣で脳画像を覗き込み何やらむにゃむにゃと、言葉にならない独り言を話す石峰優璃を見る。長い髪からは小ぶりな白い耳が覗いている。

山吹 薫
山吹 薫

せめて僕にも聞こえるように話してくれませんかね?

石峰 優璃
石峰 優璃

あ・・・あぁすまん。癖なんだ。血圧の話だったな。血圧がどう保たれているかは分かったかな。ならそれが破綻するとどうなる?

山吹 薫
山吹 薫

高血圧や低血圧になるって事ですか?

石峰 優璃
石峰 優璃

先ずはその話だな。そのものの成り立ちと役割が分かったのなら、その条件が崩れて正常に戻らないのが異常だという事だ。

そういう考えもあるのかと山吹は思う。病院で働いているとある意味異常な状態ばかりだから、正常には目が行き難い。

山吹 薫
山吹 薫

ならば例えば高血圧になると言う事は心臓の収縮力が増したり、心臓自体の拍動が増える事でしょうか。

石峰 優璃
石峰 優璃

確かに合ってはいるが、正しくはないな。それは普段の私達でも起こる。

山吹 薫
山吹 薫

ならそれが高いままである時、血圧が高い状態が続くのが高血圧という事ですね。

石峰 優璃
石峰 優璃

そうだな。大きな原因の一つが動脈硬化だな。喫煙や食生活、運動習慣の欠如によって起こる事が多い。もちろん遺伝的な要因もある。いろいろな原因が現在も研究されている。

主任がまっすぐと自分の目を覗いている。その先を語れという訳か。山吹は一度息を吐く。

山吹 薫
山吹 薫

一つは加齢でしょう。血管も年をとる訳ですから固くもなる。そして食生活の変化ですね。脂肪もまた栄養の一つですから代謝されて体の中を巡ります。それが過度だと血管に張り付きます。後は塩分もそうですかね。濃度の濃いものですから、細胞から血管の中に血を引き寄せて循環血液量が増えます。

石峰 優璃
石峰 優璃

小さな血管ほど当然流れも悪くなりやすい。よって心臓もまた血圧を上げようとする。特に細い血管を通って老廃物を処理する腎臓なんかは流れる血液が少ないと更に血圧を上げようとホルモンを出す。

山吹 薫
山吹 薫

レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系の話ですね。

石峰 優璃
石峰 優璃

よく覚えているじゃないか。後は血糖値だな。例えばアイスクリームを溶け出したものはドロドロとして流れるのに時間が掛かるだろう?糖尿病を患っていても血圧は高い状態で維持される

不意に甘いものは好きか?と主任は小首を傾げて訪ねる。嫌いですと山吹は言葉短くそう答える。それよりも今はその先の話を聞きたい。

山吹 薫
山吹 薫

そうやって常に血圧が高い状態が続くという訳ですね。心臓にも負担が掛かりそうです。

石峰 優璃
石峰 優璃

当然負担も掛かる。それ以上に血管に負担が大きく掛かる。自分の許容できる範囲以上の仕事をするといつかは破綻する。どうだ?担当を増やすつもりはないか?

山吹 薫
山吹 薫

現状でもう手一杯ですよ。なるほどそうやって血管が障害されていく訳ですね。

石峰 優璃
石峰 優璃

高血圧自体も悪いが、その先にある障害の方が恐ろしいね。

そう言って石峰は細い左手で脳画像を指す。その先には広範に出血像を来した画像がある。そんな事は知っている。山吹薫は一度目を伏せ、主任の目を再び見る。

山吹 薫
山吹 薫

血管が破綻する。という事ですね。

石峰 優璃
石峰 優璃

順序立てて話そうか。常に血管に負荷がかかる、そしてコレステロールや粥状のドロドロとしたものが血管にあると当然その道は細くなる、そして血圧を上げてそこを通ろうとする。流れる川に巨石を落とした事はあるか?

山吹 薫
山吹 薫

無いですよ。でも想像はつきますけど。まさかとは思いますが主任はあるんですか?

石峰 優璃
石峰 優璃

はっは勿論無い!だけどもその部分で流れが変わる。渦が生まれる。それもまた血管を障害する。そしてそこに血液が停滞する。そしてやがてそれは固まる。そしていずれは飛ぶかもしれない。

主任の瞳はまっすぐと山吹を見ている。僅かな感情の揺れ幅さえも観察するかのように。

石峰 優璃
石峰 優璃

飛ばずとしても血管の通り道が細くなる訳だから、その先の重要な臓器に血が巡らなくなる。そうするとその部分の機能障害が起きる。腎臓ならば腎機能障害、心臓ならば心機能障害・・・これは動悸がしたり普段と同じ生活なのに疲労感が強く息がきれる。そして心臓を巡る血管が詰まると心筋梗塞。胸部痛が強まり致死的な時も多い。

山吹 薫
山吹 薫

当然足先にも血が巡らなくなれば血栓が出来たりしますよね。

石峰 優璃
石峰 優璃

それが高度になると息は切れていないのに、足の筋肉に十分に血が巡らずに足先が極端に冷えたり、白くなる。そして歩く距離も制限されひどい時には痛みも生じる。

山吹 薫
山吹 薫

閉塞性動脈硬化症ですね。そして形成された血栓が肺に飛んだら肺塞栓症、そして脳に飛んだら・・・

脳梗塞だな。と石峰はそう答える。笑顔なのが不思議だ。この人の感情の動きは全くもってよくわからない。

石峰 優璃
石峰 優璃

そして血管もその血圧や流れの変化に耐えられなくなりいつかは破綻する。一部破綻すると血管の膜の合間に血がたまり瘤となる。動脈瘤だな。胸部、腹部と大きな血管で起こると破裂する危険を常に孕む事になる。爆弾を抱えるようなもので、それは脳動脈瘤でもそうだな。

山吹 薫
山吹 薫

そして脳の大きな動脈が破綻すると・・・

石峰は変わらない表情で一度頷く。山吹の目にはそのまだ出会った事もない人の脳画像が先ほどよりもしっかりと目に映った。

山吹薫の覚え書 6

・加齢する事に加え、血が十分に巡らなくなり血圧が高い状態が続く、もしくは流れが変わる事で血管は障害される。

・種々の疾患と関連し長い時間をかけて致死的になる事もまた多い。

・主任は自分の何を観察しているのだろうか。

【これまでのあらすじ】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。』

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