桜井玲奈は正面に座る山のように大きな岩水静を座りながらも見上げる。こんなに屈強な方が山吹さんの知り合いにも居られたのですわね。そんな事を考えた。
ぬはは!それでは、低アルブミン血症の話の続きだな。まずはあれだ、栄養状態の低下によってもちろん生じるが、低アルブミン血症によって、栄養状態の低下が生じている訳ではない事をまずは考える事だな。
えぇと同じように見えますが、それはどういう事なのですの?
それはねー。順序の違いだねー。低栄養の状態が続くと血中のたんぱく質も当然減るよね?もしくは肝機能障害によりその合成が阻害される。腎機能の低下に伴いたんぱく質が過剰に排泄されてしまう。それらによって低アルブミン血症が引き起こされるって事。まずはその症状を呈する原因があってその症状が引き起こされて、低アルブミン血症によって引き起こされる症状とはまた別って事だねー。
ふむふむ。なるほどですわ。と桜井は気怠そうにテーブルにその身を預ける沢尻の言葉に頷く。何事にもその順序が必要なのだ。多分それは生きていく上でも。
その通りだな。ならばその低アルブミン血症により引き起こされる症状についても話していこうか。一つは浮腫みというやつだな。なぜ起こるかは分かるか?
えぇと。普段アルブミンは血中にあって、それは膠質浸透圧に大きく関わりますわ。簡単に言うと血中の中に水分を保つ力、主に毛細血管から細胞に移動した水分を血中に再びその濃度の違いによって引き込むという事ですわね。それが破綻して、簡単に言えば毛細血管から細胞に圧力によって移動した水分を再び血中に戻す事が出来なくなって、それで浮腫むって事かしら?
すがオレのプリセプティだねー!まさにそういう事ー。そして浮腫みと聞くと足が浮腫んで腫れたようになって気になるし靴も入らない。それも一つなんだけど、それは全身に起きているって考えが必要さー。
生きるための順序、それは自分が成長するための順序とも言い換える事が出来ると桜井は思う。目の前の岩水さんも沢尻さんもそれぞれが自分の順序で成長して、今自分の眼の前に居る。
そういう事だな。それは重症な患者様ほど深刻になる。一つは腹水。これは腹部の細胞の間質に水が溜まるという事だな。そして胸水と言って肺の細胞の間に水が溜まるという事にも繋がる。これらは心不全と大きくが関わり、往々にして合併する。そして心不全患者は既に、フレイルに伴い低アルブミン血症を呈している事もまたあるから、当然だな。
なるほどですわね。ならば浮腫みに伴い血中の水分が相対的に減っているという事は、腎臓によって代謝される量もまた減るという事ですわね。それで当然尿量も減ってしまうって事ですわね。
そうだねー。そして今言った様に相対的に血中の水分量が減ってしまうという事はねー。当然血圧にも影響するって事だよねー。いくら心臓が正常でもそれを押し出すための血液が無かったら、その圧力が保てないのも良く分かるよねー。だから血管内の脱水に伴い血圧は低くなる。体が浮腫んでいるからといって必ずしも血管の中にも水分が沢山あって血圧が保てている。なんて事はないから注意だよねー。
流石ですわね。と桜井は息を吐く。山吹さんの元で学べばこの様に慣れるのかしらと桜井は首を傾げる。そして元々山吹さんは目の前の岩水さんより教えを受けているのだから、その距離は更に遠い様な気がした。
そして低アルブミン血症によって、引き起こされる症状はこういったものだが、この症状が何かの要因によって引き起こされている事もまたもう一度考えてみようか。肝硬変によって引き起こされているならば、同時に肝硬変によって生じる症状もまた生じる事もあるという事だな。
なるほど、それならばネフローゼ症候群や腎機能の低下に伴い生じるものだならば、腎機能低下に伴う症状にも眼を向けなければならない。って事ですわね。
そして何度も話しに出てきた低栄養に伴うものだね。これはまた原因が多岐に渡るからまた大変なんだよねー。
そうだな。と岩水は尊大に頷く。かつて自分の目指した場所に山吹さんは居る。あの様に理知的に静かにそして急性期のリハビリに精通したいと今でもそう思うと桜井は一度うつむく。その場所に至る順序に今いる場所は果たして含まれるのかは分からない。
そうだな。低アルブミン血症には低栄養が原因となり、低栄養の原因も沢山あるという事だな。低アルブミン血症の治療、というか症状の改善には原疾患に対する治療がまずは必要だ。肝硬変にもネフローゼ症候群に対してもだな。
でも血中のアルブミン量が減る、血圧が保てないし、尿も出ない!って事もまた問題になるから相対的に対症療法もまた行われるよー。利尿剤によって尿を出すようにしたり、アルブミン製剤を点滴して、血管内のアルブミンを増やす。胸水など、胸に溜まった水分を穿刺といって針を刺して肺の外に出す。そんな所かなー!
そして低栄養障害に伴う低アルブミン血症、そしてその低栄養自体に介入が必要なのですわね。でもその低栄養障害の原因は多岐に渡ると・・・そういう事ですのね。難儀ですわ。
そういうもんだ!とぬははと笑う岩水に疲れたように沢尻はため息をつく。私はこのまま此処にいてよろしいのかしら。そんな思いは桜井の頭の中の奥底にある。
ならその低アルブミン血症について介入するにもまずはその原因を考えなければならないという事ですわね・・・ならばもちろんそれも教えて下さるのですわね!
そうだとも!常に学びはあるものだし、学ぼうとするならば路傍に転がる石ころからだって学べるものだ!
なんだよ急に哲学的になっちゃってー。
なんだと貴様!と沢尻は岩水の巨大な手により頭を掴まれ悲鳴をあげる。
その姿を見て、やはり急性期の病棟で学びたい。そんな気持ちが桜井の気持ちの奥でふつふつと再び熱を持つのを感じた。
【〜目次〜】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
【Tnakanとあまみーのセラピスト達の学べる雑談ラジオ!をやってみた件について】
雑談で学べるラジオも好評放映中!たまにはまったり学んでみませんか?
【時間がない人にお勧めのブログまとめシリーズ!】
【ウチ⭐︎セラ! 〜いまさら聞けないリハビリの話〜】
桜井玲奈のメモ書き その2
・低アルブミン血症はその原因にまず眼を向ける。その原因となった疾患の症状もまた考える。
・低栄養が原因とするならば、その低栄養に至る原因にも眼を向ける。そしてそれは多岐に渡る。
・私はこのままで・・・よろしいのかしら。
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