【心揺さぶるストーリー!理学療法士×作家のタナカンによる作品集!】
小説の中では様々な背景や状況、そして異なる世界で生きる人々の物語が織りなされます。その中には、困難に立ち向かいながらも成長し、希望を見出す姿があります。また、人々の絆や優しさに触れ、心温まるエピソードも満載です!
朝日は深く差し込んでいる。影を落としていた山吹薫の顔がはっきりと見えた。まだまだ幼い顔立ちだなと苦笑すると山吹は眉間に皺を寄せる。石峰優璃はたまらず苦笑した。
すまんな。あまりに眉間にシワが寄っているものだから、そのまま顔が折り畳まれそうだ。疲れているのか?
折り畳まれるわけないでしょう。疲れてもいませんし・・・主任こそ。疲れを感じたことはないのですか?
例え疲れていても疲れを認知することは避けているよ。立ち止まることが怖いからな。
怖い?と山吹が思わず聞き返すと、あぁ怖いと石峰が素直に返す。素直な返答に山吹は驚いたようで、丸まった目を一緒に眉間のシワが解けた。
恐怖を抱くということは未来が来ることを信じているということだなかな?私たちが関わる集中治療室の患者は多くがそうなのだな。生きる望みから恐怖を覚えるのかもしれない。まぁ私の感覚ではある。
言われてしまえばそうですね。納得はできませんが。ただ目が覚めて痛みを感じると、生きていると実感する反面、これから本当に生きていけるのか恐怖には感じると想像するには容易いです。
痛みだな。なぁ。山吹は全人的苦痛という言葉は知っているか?トータルペインと呼ばれる言葉だ。
とーたるぺいん?とオウム返しに聞き返し、石峰は口元に手を当て笑う。少女の時はこんな素直に笑えてたのだろうか。他人の顔色をうかがうことなく・・・と石峰は締め付けられる胸に少しだけ息が詰まった。
可愛らしいところがあるではないか。その様子じゃ知らないようだから、教えてやろう。といっても私も詳しいわけではないがな。近代ホスピス運動の創始者と呼ばれる医師、シシリー・ソンダースが末期ガン患者との関わりを通して提唱した概念と言われる。
終末期とガンはやはり切っては切り離せないですね。ただ今では他の特に重大な疾患や、慢性疾患が高度に進行した、特に高齢の患者様も多いので共通した考えかもしれません。
死を意識しながら生きるという気分はまだわからない。当事者しか知り得ない感情はある。ただわからない感情を少しでも理解したいと想いから生まれた言葉だと思うよ。予後不良の患者が体験している苦痛。それがトータルペイン。全人的苦痛なんだよ。身体的な痛みはそのひとつだ。
石峰は山吹を真っ直ぐと見る。真っ直ぐと眺めているはずなのに山吹の姿が霞んで見えた。山吹の向こうに今まで生きてきた痛みが見える。肉体の痛みではない。魂の痛みだ。
話を続けようか。全人的苦痛は4つの要因に分かれる。それは身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、そしてスピリチュアルな苦痛にわけられる。
確かに、体の痛みはほんの一部分なんですね。痛みだけでも心から苦痛を感じる人は多いはずなのに、一部なんですね。
一部だとしても、それが全てでもあるし、他の要因によって結果として痛みにつながることもある。なんとも人とは面倒くさいな。
主任ほどではないですよ。そう憎まれ口を叩く山吹を見て、心の中で同意をする。溢れ出しそうな心のうちを必死に押しとどめながら、石峰は終わりのための話を続けるために口を開いた。
山吹薫の覚書113
・全人的苦痛は痛みだけではない。4つの要因にわけられる。
・身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルな苦痛に分類される。
・主任もまた痛みを感じているのだろう。
【〜目次〜】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
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