アルブミンの話 その② 〜検査の値の落とし穴〜

アルブミン

進藤は腕を組んで目を瞑っている。何かを考えているのだろうけど、眠っている様にも見えると白波は思う。

白波 百合
白波 百合

あの・・・

進藤 守
進藤 守

あぁスマン。さて始めようか。

山吹は呑気に黒猫のマグカップを口元に運び、文献に目を落としている。

仕事放棄っすね、と白波は思う。

進藤 守
進藤 守

アルブミンの話だな。それは体の中のタンパク質だと話したね。

白波 百合
白波 百合

はい。あと水分の出納にも関与するっすね。

進藤 守
進藤 守

そうだ。・・・白菜の・・・塩揉みのように・・・

進藤は笑いを噛み殺しながらそう答える。白波は首を傾げ、山吹は片方の眉を上げる。

山吹 薫
山吹 薫

その話は良いだろう。栄養状態との関連の話を頼むよ。

進藤 守
進藤 守

あぁそうだったな。アルブミンは血中のタンパク質で栄養状態に関連することは何となく分かるね。

白波 百合
白波 百合

はい。体の中にタンパク質が多いと筋肉も沢山付くっす。

進藤 守
進藤 守

うん良くできました。

白波 百合
白波 百合

うへへ~

山吹 薫
山吹 薫

それだけでは無いだろうに。

進藤に褒められ顔を綻ばせる白波に、山吹は眉を潜める。

進藤 守
進藤 守

もちろんそれだけでは無いよ。だけどもまずはそのイメージが肝心だ。最初から何もかも解ろうとすると、色々見落とすからね。教える側も。

白波 百合
白波 百合

ふむふむなるほど!聞きましたか先輩!

ふん。と山吹はそっぽを向いた。その横顔を見て白波はいたずらっぽく微笑んだ。

進藤 守
進藤 守

とにかく、単純な話アルブミンが低下していれば栄養状態が悪い。アルブミンが正常値より上だったら栄養状態が良い。栄養状態が良いということはそれだけリハビリ結果も良好だ。

白波 百合
白波 百合

うっす。沢山筋トレしてムキムキになるっすね。

進藤 守
進藤 守

まぁ人によるだろうけど。だけども一概にそうとも言えない。半減期とは分かるかい?

白波 百合
白波 百合

・・・はんげんき・・・っすか?

山吹 薫
山吹 薫

体内の物質が代謝などにより、半分に減ることだよ。薬の投与時間はそれで決められる。例えば8時間が半減期ならば、1日3回服用する必要がある。

白波は両手で何やら数を数えている。ふん。と山吹はデスクに深く腰掛ける。進藤だけが笑みを浮かべている。

進藤 守
進藤 守

・・・アルブミンはとても半減期が長いんだよ。20日弱も掛かって体の中で代謝される。その意味はわかる?

白波 百合
白波 百合

えぇと・・・今日測定したとして、アルブミンが半減するのは20日後という訳っすか?

進藤 守
進藤 守

うん。そうだと言える。そして臨床で考える事は、その栄養状態は20日前ほどのデータという事だよ。例えば入院時のデータはあくまで入院する20日前くらいのアルブミンの値であって、肺炎などを起こして食事を摂れていなくても、アルブミンの値は正常であると表示される事もある。

白波 百合
白波 百合

そうなんすね!じゃぁ何を見れば良いんすか?

山吹 薫
山吹 薫

半減期の短いプレアルブミンやトランスフェリンといった検査データは鋭敏にその時の栄養状態を反映する。

進藤 守
進藤 守

だけどもそれは全ての場所で測定されている訳でもない。

ふぅむ。と白波は腕を組む。山吹は進藤を見て、進藤は左右に首を振る。

山吹 薫
山吹 薫

要は見た目。という事だね。

白波 百合
白波 百合

先輩!今、全世界の女性を敵に回しそうな事を!

進藤 守
進藤 守

・・・そういう事じゃないと思うよ。つまりは異常に手足が細くないか、逆に太くないかを当たり前だけど見る。アルブミンの半減期が20日と長い事を知っておけば、検査値が正常だとしても現在は低下しているかもしれないと予測ができる。

白波 百合
白波 百合

そういう事なんすね。でも知らなかったら分からないっすね。

山吹 薫
山吹 薫

そういう事だな。検査値が正常だから何も異常が無いという訳ではない。特に運動を処方する立場の僕たちは特に気をつけなければならない。

うっす。と白波は返事をしながらノートに何やら書きなぐる。進藤はそれが落ち着いたのを見て、再び話し出す。

進藤 守
進藤 守

そして、他にもアルブミン値が正常値だとしても、肝臓の機能が落ちていれば積極的な運動の処方が行えない時がある。

山吹 薫
山吹 薫

肝臓は工場のようなものだからね。其処の機能が破綻すると必要なものが作れない。

白波 百合
白波 百合

それは確かにそうっすね。という事は手足がしっかりとしていて、肝臓の機能が良ければ大丈夫なんすね!

山吹 薫
山吹 薫

そういうものでもないよ。

へっ?と白波は首を傾げる。

進藤 守
進藤 守

検査値が正常よりも大きく測定される事があるんだよ。特に脱水症状の時には検査に用いる血液も普段より濃い状態だから、本当は異常でも正常にデータに反映される事がある。

白波 百合
白波 百合

・・・・ただの砂糖水よりも、生クリームの方が同じ量でも甘さは違う!みたいな感じっすかね。

山吹 薫
山吹 薫

うん。確かにそういう事だな。同じ量でも含まれる砂糖の量は段違いだ。

ブフっと進藤はまたもや吹き出し、片手で口を押さえる。やっぱり変なところでツボなんすね。と白波も笑顔になる。

白波 百合
白波 百合

ならリハビリをする患者様にはどんどんご飯を食べてもらって、どんどん元気になってもらったら良いっすね!

進藤 守
進藤 守

基本はそうだね。

山吹 薫
山吹 薫

基本はな。だけどもそうは上手く行かない事は、この不良言語聴覚士に続きを話してもらおうか。

進藤は時折、口元を押さえながら笑いをかみ殺していて、それを見ては山吹が眉をしかめている。

その二人をみて白波は、進藤さんのどこが不良なんすかねぇ?と首を再び傾げた。

白波百合のノート 20

・アルブミンは必ずしもその時の栄養状態を反映していない。

・手足の細さや見た目で栄養状態を予測する。肝臓の機能も重要。

・たくさん食べれば良い。という訳でも無いらしい。

・進藤さんは不良らしいけど、よく笑う良い人だ。

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